「捕鯨について」ニュージーランド生活(3)
カジュ通信2010年春・初夏号 より
「捕鯨について」ニュージーランド生活(3)
この間、環境保護団体(時にはその攻撃性からテロリストと呼ばれることもある)、シーシェパードのピーター・ベスーン船長が執行猶予付きの判決を下され、日本からニュージーランドへ帰って来ました。
日本が行なっていた「南極海での捕鯨調査」をやめさせようとした、この事件。日本ではどのように放送されていたのか分かりませんが、こちらでは、常にトップニュースといった扱いで、何か進展があるたびに放送されてきました。国営のテレビからもラジオからも「JAPAN」と聞こえる時は、大方が捕鯨の問題と言っても 過言ではない状況でした。そして、当然といえば当然でしょうが、日本は、「ニュージーランド海域の南極海まで来て、調査捕鯨という名目で、高等な知能を持つ鯨を殺すひどい国」という感じで、血を流した鯨の姿が何度も何度も映像で流されていました。そして、シーシェパードは、このひどい捕鯨を体当たりでやめさせようと した行動力のある団体・・。これから、この船長はもっとメディアに出るでしょうから、これからますます、こういう放送が増えていくかもしれません。
私個人のことを言えば、捕鯨にはいい印象を持っておらず、どちらかといえば反対です。世代的に、給食で鯨の肉を食べたこともありません。関東で生まれ育ったため、鯨肉への馴染みも薄いです。
なので、そもそも鯨を「食べもの」として捉えたことはありませんでした。だから、捕鯨に対する嫌悪感も理解できます。ただ、一方的に日本を「悪」と捉えて違法だと主張するシーシェパードの言葉をそのまま流す、ニュージーランドのメディアのあり方には、疑問を持ちました。ニュースでは、日本人の歴史や立場などは全く取 り上げず、国際法における合法性についても述べられていません。(ただ、この放送を見て、一般のNZの人たちがどう思うのかは分かりません。今のところ、聞かれたこともありません。)
日本にいる時は、「捕鯨を力ずくでやめさせようとする、怖い(困った)団体」と思っていたものが、国が変われば「英雄みたいなもの」になること。価値観がぐらぐら揺らぎます。
でも、この揺らぐことが、大切なんだなとも思います。
文 : むかい りえ
去年11月より2年の予定でニュージーランド、北島のウェリントンの在住。たなか牧子造形工房の仲間。義母から習い、欠かせないものになった糸紡ぎのことやNZの生活について書いているブログ「みはるかす」は必見。
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コメント
はじめまして
メディアはそうなんでしょうけど、NZ Heraldで、Pete Bethune を支持するコラムについてたコメント見ると、7割方が、コラムニストの意見を批判してました。支持派より、SS否定派のほうが論理的で、冷静に思えたのは、支持派のコメントがステレオタイプだったせいでしょうか。
投稿: ednakano | 2010/09/13 21:40
はじめまして。
ご指摘頂き、ありがとうございます。
私も、いくつかのコメントを読み、一般の人は意外と、SSを肯定はしていないのだなと感じました。
ただ、テレビに代表されるメディアは、SS支持の方向を打ち出したかったのだということは、実際NZで生活していて、強く感じました。
例えば(これはテレビですが)、実際にSSに属している人たちに、どちらかといえば肯定的とも取れるインタビューをするのに対して、日本の文化や歴史を説明する人が出てこない、ということなどです。私は日本人なので、そこが気になりました。公平ではないというか・・。
そして、SSを支持する/しないということと、捕鯨に反対/賛成ということは、またきっと違う話なんだとも思います。
NZに住む多くの人は、捕鯨に対しては、「受け入れられない」感情を持っていると印象を受けました。
それが、メディアの力(鯨が血を流す場面や、日本人の捕鯨賛成団体の人と思われる男性が、SSの人に鯨の缶詰を半ば強引に押し付ける映像が何度となく流れる、など)のなせる業なのか、文化的に許せないということなのか、そこは正直よく分かりません・・。
SSはちょっとやりすぎ、でも捕鯨は許せない、というところでしょうか。鯨(またはイルカ)は、「知能が高い」「同じ哺乳類」という観点から言われることが多かったように思います。
どちらにせよ、最近は、ぱったりとニュースでも取り上げられなくなりました。
投稿: むかい りえ | 2010/09/16 18:12