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往復書簡(5) 波多圭以子さんから磯辺朋子さん

テーマ 【直感】

磯辺朋子様

最初にお目にかかってからもう随分と長い月日が経ちますが、このようにお手紙を差し上げるのは初めてですね。

先ずは、歌集の出版、おめでとうございます。

そして、もうすぐお母様になられるとのこと、重ねてお喜び申し上げます。

「短歌」というものをこんなに身近に感じたことがなく、また、作者の内面深くまっすぐに表された作品には私は怖いと思うほど心動かされました。心情を私自身の上に重ね合わせたりして、私も内なる自分と向き合うことになりました。

私は時々自分の内側と対話します。

何かを決断する時、困った時、迷った時、心静かに自分と向き合うおのずと浮き出る答えのようなものを感じることがあります。

「直感」とでもいうのでしょうか・・・・。

ふりかえると私はここまで直感と感覚を頼りに生きてきたように思います。受験や仕事、結婚、子育て・・・・・・。もちろん努力もしてきましたがここ一番はやっぱり直感で道を決めてきているなぁと思います。一見何の苦労もなくスムーズに思える人生を「棚ぼた人生だね」なんて言う人もいますが、「棚ぼた」にも悩みはありまして、迷ったりあがいたり、曖昧な気持ちで過ごす時間の方が長いかもしれません。

直感というとピンと張った細いもののようなイメージを持ちます。私の場合は何というか・・・・内側から湧く、太くてゆるぎない感覚なのです。地球の外側にある宇宙と同じ位大きな宇宙を私の内側にも感じていて、日常の出来事を受け止めたら、内側に投げかけ、何か答えが返ってくるのを待つのです。すぐ解ることもあれば、なかなか解らないこともありますが、心の声を聴くことは、精神的なバランスを取ることでもあり、私にとってはとても大切なものになっています。

磯辺さんは、歌を詠まれる時、どんなふうに直感をもたれますか?

また、新しい命が誕生しようとする今、何かを感じていらっしゃいますか?

波多圭以子

波多圭以子様

お手紙ありがとうございました。いつもカジュ通信を楽しく拝読させていただいている一読者の私が、まさか紙面に参加することになるとは―――――。波多さんよりのご質問にお答えする前に、私の自己紹介を簡単にしておきたいと思います。

家族は夫とビーグル犬。趣味の延長ですが、シャドーボックスのお教室とお店を自宅を開放して開いています。また私の生活の大半を占めているもの、それが短歌です。昨年初めて歌集を出しました。そして現在妊娠9ヵ月。新しい家族が増えるのを心待ちにしている日々を送っています。

さて、まずは「歌を詠む時にどのような直感を持ちますか」というご質問にお答えしなければなりませんね。

なかなか子供に恵まれなかった30歳前後、私は自分を根無し草のように感じていました。振り返っても振り返っても後ろに繋がるもののいない漠然とした不安感を抱えていた時、短歌と出会いました。私はこの31文字という制約のある詩形に、自分の胸の中の泥を吐き続けました。五七五七七のリズムは心地よく、また私を柔らかく受け止めてくれました。

私が作歌する上で気をつけていることは、自分の心を素直に表現するということです。

林檎を一つ手に取っても、人は様々な感情を持つはずです。私自身、実りの結晶のような赤さに煌々しさを感じる時もあれば、ずしりと蜜の入った林檎の重さに妬ましさを抱く事もあります。その一瞬の心によぎる感覚を逃さず捉えて歌にします。多くの言葉の中から今の感覚にはまる言葉を選びとっていくのです。「直感」を今まで意識していませんでしたが、短詩形なだけに直感なくしては歌は作れないと思います。

文章はまさに生き物です。特に短歌は助詞を一つ変えただけで、一首が生き生きしたり、逆に死んでしまったりします。

一瞬の直感で捉えた心の動き、言葉がどこまで読者の心に響いてくれるのか、歌の世界は途方もなく広く深く、まだまだ私は溺れている状態ですが、自分の直感を信じ歌い続けたいと思っています。

さて、二つめのご質問は「新しい命の誕生をどう感じているか」でしたね。

17年間子供を授かりませんでしたので、実際の妊娠に「何で今なの?これは神様からのご褒美?それとも試練?」等々戸惑ってしまったのが正直なところです。

ただ今は、自分自身の中で起こっているこの太古より繰り返されてきた営みを、じっくりと味わっています。早く会いたいという気持ちと、母子一体の今をもう少し楽しんでいたいという二つの思いを交錯させながら。何かを感じているというより、逆に今の私は無に近い心境です。聞こえるはずのない赤ちゃんの鼓動や、羊水の波動に耳を傾けるかのように五感を磨き澄まし、ゆったりとその時(出産)が来るのを待っています。

今回の波多さんからのお便り。自分自身をみつめ直す良い機会となりました。

ありがとうございました。

磯辺朋子

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