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往復書簡(28) 宮部誠二郎さんから田中牧子さん

【テーマ】 震災に思う

たなか牧子さま

拝啓

 

3.11以降なんだか落ち着かない日々が続いていますが、しっかりと今年も春は来ましたね。段葛の桜をながめながら、この震災の不安や疲れを癒してもらっています。自然というヤツは、時に人に牙を向け、時に人の心を癒す。ほんと不思議なヤツです。

 

さて、牧子さんにお手紙ということで、何を書こうか迷ったのですが、せっかくといったら不謹慎かもしれませんが、震災をテーマに書きました。この震災を通して、皆さん色んなことを感じ、考えさせられ、様々な発見をしたかと思います。牧子さんは何を発見しましたか?

 

私は、繋がることの安心感、心強さを改めて知りました。鎌倉とどけ隊(被災地に炊き出し行く鎌倉のボランティア団体)の一員として被災地に行かせて頂いたのですが、運悪く仙台市内に宿泊中に震度6強の余震に襲われました。今までに体感したことのない恐怖を覚え、頑張って平然を装っていましたが、内心はめちゃくちゃ怖くて、めちゃくちゃびびっていました。でも、鎌倉から一緒に向った仲間と一緒に声を掛け合い不安を共有したり、メールやツイッターを通して沢山の鎌倉の人や友人から届く心配の連絡を受けて、ホントに心が落ち着きました。

 

また被災地では、誰に指示されるのではなく、自然と被災者同士が力を合わせ、またボランティアが集まって、一丸となってこの困難を乗り越えようとしていました。

 

怖い時は不安を共有して、困っている時は力を合わせて、なんかこのようにして本来人間は、お互い繋がり、助け合いながら、厳しい自然環境の中を生きてきたのだなと思いました。文明が発達して、技術や化学が進歩することで、自然の中で生きることがそう難しくないように感じはじめ、以前のような人間同士の繋がりの重要性っていうのも自然と薄くなっていってしまったのかなと思いました。

 

でも今回の震災を通して、改めて「人と繋がっていること」の大切さ、心強さを痛感しました。牧子さんもカジュや鎌倉路地フェスタなどを通して沢山の人と繋がり、また沢山の人を繋げられてきたと思います。そうやって繋がりが強くなっている鎌倉に、例え非常事態が起きても、きっと今まで作ってきた人間同士の繋がりがある以上、どんな困難も乗り越えられるんだろうなと思いました。今後、自然の怖さが感覚的に薄れても、人の繋がりは大切にしていきたいと思いました。 なーんてことをこの震災を通して感じ、考えました。

牧子さんは何を感じ、何を考えましたか?

敬具

宮部誠二郎

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宮部誠二郎 プロフィール  http://chameleon-kamakura.com/

2007年1月に立ち上げられた学生団体「chameleon」の代表。現在は卒業した社会人も含め11名で活動中。 主な活動内容として、現在はフリーペーパーKAMAKURAの企画、製作、イベントの運営や手伝いを中心に行っている。

鎌倉路地フェスタの運営でも中心的存在。「まちの様々な魅力をつなげていきたい。もっと面白いまちにしていきたい。そんな想いで活動をしています。」   鎌倉市在住。

宮部誠二郎さま

とても心に響くお手紙をありがとう。

昨年、鎌倉路地フェスタのスタッフとしてご参加いただいてからというもの、宮部さんや仲間の皆さんにはいろいろ楽しい思い出を頂戴してきました。

宮部さんの旺盛な好奇心と腰の軽さ、行動力には脱帽です。鎌倉路地フェスタの運営でのお仕事ぶりや、作っていらっしゃるコミュニティ雑誌を拝見するにつけ、その「自分のカラダで直に感じたものを大切に伝える」姿勢がよくみえてきます。 「・・・・ってテレビで言ってたよ。」「・・・・・って雑誌の評に載ってたよ。」で会話のほとんどが成り立っている人、読書家を自負してその内容をさも自分が体験したような気なっている人・・・なんていうのもたくさんある中で、宮部さんは実際にご自分の五感がシビレるものを追い求めている気がします。だからこそ、いち早く仙台の被災地に炊き出しにも行き、そこの空気を肌に感じ、においを嗅ぎ、さらには震度6まで自らに体験させてしまったのでしょう。

つながりに安らぎを得たということですが、それは、宮部さんご自身が繊細で活発なシナプスをたくさん持っていらしたから感じられたことなのだと思います。そのシナプスがびりびりとシビレ合うことが感動であり、交歓であり、そして共感であるのだと思います。

「共感」は、このような苦しい状況下にいる人にとっては、最も必要とされる“救援物資”であり、希望や思いやりの源泉になるものだと思います。そしてその共感力が、シナプスを次々つないで様々な化学反応を呼び起こし、生きる力を与え、与えられるのではないでしょうか。

さらには、この科学反応こそが、他人の受け売りでない人生を生きる証、「シビレる生き方の本質」と申せましょう(笑)

(実は私、今まで一度も意図的に何かをつなげようと思ったことはないんですよ。全部成りゆき。ただ気持ちよくシビレたいとは思っていますね。)

震災で何を感じたかと問われれば、そうですねぇ、「その日暮らし」の素晴らしさでしょうか。

普段はあまりいい意味では使われませんが、今一番私の中で輝いている言葉です。

湯水のようにエネルギーを使い、先の方で待っているかもわからない出ないお化けの心配ばかりし、先人の知恵をひも解く余裕や、今日のお天道様に感謝する気持ちや、身近な自然の動向に気を配る大切さを忘れて、ありもしない「明日の暮らし」にばかり気を取られて生きていたことを、震災をきっかけに大いに反省しているところです。もっと低カロリーに、今日吹いてきた風がもたらしてくれた恩恵をもれなくいただき、咀嚼し、その日できることをきっちりとやる。それを毎日繰り返す。どこで終わっても悔いはなし。そんな生き方がしたいと今、心から思っています。

とりとめもないお返事になってしまいましたが、

というわけで宮部さん、これからもそしていつまでも、シビレるいい男でいてくださいまし。

たなか牧子拝

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たなか牧子プロフィール  http://khaju.com

染織家。織り機のおける工房を探す中、鎌倉市二階堂にあった古民家に縁をいただき、1997年複合施設カジュ・アート・スペースを開く。「仕事をしやすいところに住む」ではなく「暮らしたいと思うところで仕事をする」をテーマに地域未着のライフスタイルを模索中。近年は鎌倉の植物をつかった染色データ集めにはまっている。鎌倉市在住。

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