アドリブは蜜の味
脚本に書かれていない台詞や動きでお客さんを笑わせること、それは私にとって最高のライブ感を伴うこの上ない喜び、最早、生き甲斐と言っても過言ではありません。今回のテアトロ・カジュは、このアドリブについて考えてみたいと思います。
私のアドリブは大別すると二つの種類があります。一つは出る前に用意するもの、もう一つはその場でひらめくものです。
出る前に用意する? アドリブじゃないじゃん、と言われそうですが、さにあらず。一緒に出ている役者やスタッフに一言も告げずにやるのですから、面白ければ身内もナチュラルに吹き出します。Bプラン、Cプランまで用意しておいて、その場の雰囲気で選択したりもします。ある意味これは「計算されたアドリブ」と言えましょう。
これはこれで面白いのですが、やはりアドリブの醍醐味は後者、即ち「その場でひらめくアドリブ」ですね。その場で起きたハプニング、例えば、一人のお客さんだけがツボにはまって思わず吹き出した、これを活かさない手はありません。すかさずそれを拾ってアドリブをかまし、全員の笑いを誘発して行く・・・これぞ至福の瞬間です。
でも内輪受けや闇雲なアドリブは芝居を壊します。そこには外してはいけないポイントがあるのです。入れていい場面、いけない場面を把握することはもちろん、主に次の3つのポイントが重要です。①某かのハプニングと芝居の流れを瞬時に結びつけること。②程よく脱線し、また戻ってくること。③意識がお客さんに向いていること。
スベることも恐れてはいけません。スベッて当然の心づもりが何より肝要。そう、簡単そうに見えて案外高度なテクニックを要するのです。これらがうまく嵌ると、悔しいかな、脚本に書いた秀逸なギャグよりもお客さんは笑ってくれるのです。誰もが予想しえない、その場でしか味わえない笑いの瞬間を共有できるからかもしれませんね。
落語に「枕」というのがありますね。本編に入る前にお客さんの心を解きほぐす、距離を近づけ、聴く準備を整えるような効果があるかと思います。私はこの枕が芝居にあっても良いと思っていて、ほぼすべての作品の冒頭にその時間を設けています。そしてそこには落語の枕よろしく、アドリブの要素が不可欠であると実感しています。
アドリブを厳密に禁止している劇団も多々あります。役者達が好き勝手にアドリブをかまし始めたら、とても収拾がつかなくなりますものね。そう、かく言う我が紅月劇団も私以外はアドリブ禁止。それは何故か。先の3つのポイントができる役者が私をおいて他にいないから?
いえいえ、この蜜の味を他の役者に味わわせたくないからですよ。
紅月劇団 石倉正英 (2014年新春号)
「今笑ったの誰だ!」
"枕"でアドリブをかます石倉 "893"@麻心」(Photo by Naoko Sekino)
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