MASK
数年前、上海に行ったときのこと、ホテルに帰ろうと地下鉄の駅に降りていったところ、コンコースで仮面の特別販売が行われていました。仮面のコレクターでもある私は、水を得た魚のように、目は爛々、一も二もなくその会場に飛び込むと・・・何だこれは!?
それらの仮面は今まで見たこともないような、奇怪な顔のオンパレード。例えるなら、地獄の鬼、魑魅魍魎、荒ぶる神々の恐ろしい形相さながらの、それでいてどこかユーモラスな表情の数々が、一つ一つ丁寧に手彫りされている。特に彩色されるでも無く、木そのものの質感に、茶系の上薬が塗布されているだけのシンプルさが、返ってそれらの表情をいっそう生き生きとさせているのでした。
感激した僕は、日本語も英語もまったく話せない売り主(作家?)のおじさんとハグしあわんばかりに意気投合し、一生懸命説明してくれる仮面の話を何一つ理解できぬままウンウンとうなずき、厳選した二つの仮面を購入してホクホク顏で帰国したのでした。
仮面とお芝居は切っても切り離せない、面白くも深い関係がありますが、それについてはまたの機会に触れるとして、この仮面、その後調べるすべも無く「?」のまま、長い間、我が自慢の仮面博物館(書斎)の壁に独特の存在感を放って鎮座しておりましたが、ひょんなことから出自が判明しました。
今から一年半ほど前、早稲田大学の演劇博物館で催された「アジアの仮面展」を観に行ったときのこと、なんと中国のコーナーにまったく同じ仮面があるではありませんか!
その説明によれば、中国の貴州省のある地方に伝わる「儺戯(なぎ)」という地芝居に使われる仮面とのこと。「戯」とはお芝居の意。「儺」とは辞書を引くと「疫病の神を追い払う儀式」を意味するとあります。一方、仮面展での説明では、貴州省のそれは、明代に住み着いた軍属が作った軍記物がルーツなのだそう。敵軍を疫病に見立てたということでしょうか? はたまた、疫病にかこつけることで権力の目を欺き、真実を後世に伝えようとしたのでしょうか? 想像が膨らみます。
そう言えば、岩手県に伝わる鬼剣舞(おにけんばい)という、奇怪な仮面をつけて踊る踊りも、一節には大和朝廷に滅ぼされた蝦夷の民の戦いを表現したものだとか・・・。歴史は勝者によって作れるもの。
しかし滅ぼされた側も、自身の文化やスピリッツというものを、こんな形で案外しぶとく残しているのかもしれませんね。
あの時、おじさんが熱く語っていたのもこんな話だったら面白いなと、くだんの仮面を眺めつつ、しばし妄想に耽っていたのでありました。
紅月劇団 石倉正英 (2015年新春号)
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