« MASK | トップページ | 小道具 »

丹田

僕の生まれ故郷、群馬県は沼田市から南に20kmほど行った所に渋川市というところがあって、「へその町」と称しています。地理的にちょうど日本の真ん中になるから「へその町」なのだそうです。このように、あなたの中心はどこですか?と聞かれたら、「おへそ」と答えられる方が多いのではないでしょうか。しかし、お芝居の世界で役者さんにそれを尋ねると、「へそ」よりも少し下を指す人が多いことでしょう。それは普通の人よりも足が長いのを自慢している訳ではなくて、そこが「丹田(たんでん)」と呼ばれる場所だからなのです。

ご存知の方も多いと思いますが、「丹田」とは「おへそ」よりも指何本か下にあると言われている、具体的な形を持たない場所のことです。「丹田」という言葉は知っていても、ここだ!と明確に意識できる人はあまりいないと思いますが、案外、これを実感することは簡単で、あることを行うと誰でも「ああ、ここか」と認識することができるのです。その「あること」とは・・・僕のワークショップの最初に必ず紹介していますので、ご興味ある方は是非一度受けていただければと思います。フッフッフ。

丹田とは体の中心であるとともに心の中心でもあると僕は思っています。たくさんのお客様の前で演技することはとても度胸のいることですが、そこを依りどころにすると不思議と気持ちが落ち着いてくる。人との会話においてもそう。今時の速い会話は頭で行っていることが多く、つい浅薄になりがちですよね。相手の言ったことを一度丹田まで飲み込んでよく消化し、そこからわき起こる思いを発語すれば、とても深く、面白い会話がなされるはずです。もっとも現代では、そうしている間に間が持たなくなって、相手が別の話を始めてしまいそうですが。笑

 

体の話に戻りましょう。山道など足下の悪い所を歩く時、丹田に意識を置いてみてください。体の軸がしっかりして案外楽に歩けることを実感されると思います。加えて体幹を鍛えておけばもう無敵。夜道で人に襲われても容易に倒されることはまず無くなるでしょう。(注:効果には個人差があります。笑)

さて、今から数年前のこと。東京のそこそこ混んでいた中央総武線の車中で、にわかには信じられない光景を目撃しました。隣に立っていた若い女性が、吊り革につかまりもせず、おもむろにアイラインを引き始めたのです。ガタゴト揺れ動く車中にあって、微動だにしない体の軸。迷い無く目蓋に引かれていく一本の美しいアイライン・・・。急停車したら危ないじゃないか、などという言葉は愚昧です。彼女は丹田を極めている! 彼女の立ち姿の美しさに、しばし僕はポカンと見とれていたのでありました。

紅月劇団 石倉正英 (2015年春初夏号)

Duke
丹田のトレーニングに励む愚犬・デューク

« MASK | トップページ | 小道具 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« MASK | トップページ | 小道具 »