MASKⅡ
皆さんは、昨年、東京都庭園美術館で行われた「マスク展」をご覧になりましたか? フランスの国立ケ・ブランリ美術館所蔵のコレクション展で、特にアフリカの貴重な仮面がたくさん展示されていました。私なんぞは、ただもうひたすら「ハー」「ホー」「へー」「オー!」を繰り返すばかりの至福の時間でしたが、その個性豊かな芸術性あふれる造形や色遣いには、キリコやエルンストらの原点を見る思いがしました。
5つ書いたら一休み。S.6の「MASK」に引き続き、今回のテアトロ・カジュは仮面にまつわるエピソードを、またひとつご紹介したいと思います。
広大なアフリカ大陸には、その部族によって様々なテイストの仮面がありますが、その一つ、エジプトのナイル川上流、アスワン・ハイ・ダムあたりから南方一帯にヌビアという民族がいて、彼らの仮面もまた素晴らしいのです。
かつてエジプトを訪れた折、まさにアスワンの街を歩いているとヌビアの仮面ショップが! すかさず入ると店内に所狭しと並べられたヌビア面の数々。いやもう、どれにしようか、あれも欲しい、これも欲しい・・・が、その値段を聞くと飛び上がるほど高い。そう、エジプトは値段交渉無くして物が買えない国だということを思い出し、こちらの心の内を完全に見透かされた店主とのディスカウント交渉にうんざりしつつも、最も気に入った宇宙人を彷彿とさせる仮面を、そこそこの価格で購入したのでした(写真)。
そしてここ数日の宿となっていたナイル川に浮かぶ船に戻った時、事件は起こったのです。夕食に行く途中、仮面を手に入れてホクホクしていた私は、身も心もリラックスしたためか、はたまた昼間食べたモロヘイヤ・スープに当たったためか、やおら催し、トイレに駆け込みました。このトイレ、個室でありながら妙に広い。なんとも言えない落ち着かなさを感じつつ用を足していると・・・おもむろにドアが開き、ななななんと、白人のオバさんが入ってきたではありませんか! 二人とも目が合った瞬間「オー!」。しかしそのオバさんは、謝りもせず、不快そうな顔で舌打ちすると殊更激しくドアを閉めて出て行ったのでした。
「被害者は俺だ!」と、カチンときた私は自分の状況も顧みず、勇ましくこう言ってやりました。
「Knock the door!」(ノックしろ!)。するとそのオバさん、悪びれもせず、ドアの向こうからこう切り返したのです。
「Lock the door!」(ロックしろ!)。
「確かに・・・」、その鮮やかな切り返しに思わず頷いてしまった私が、その後、恥ずかしさのどん底へと突き落とされたのは言うまでもありません。
2016年夏 紅月劇団 石倉正英
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