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往復書簡(49) 石倉正英さんから石田紫織さんへ

テーマ:引き寄せるもの

前略 石田紫織さま

お元気でお過ごしですか? これが掲載されるころにはまたインドですね。

さて、僕にとって「朗読パフォーマンス」の楽しみのひとつは、様々なミュージシャンとセッションできること。 そんなミュージシャンの中でも、石田さんのタブラは素人目にも群を抜いて素晴らしく、毎回ご一緒できるのが楽しみでなりません。本当に、なんと多彩な音が出るのでしょう。石田さんの手にかかると、あのどちらかといえば地味な二つの物体が、喋り、歌い、音楽を奏で始める。いやはや、まさにイリュージョンです。

石田さんが、数ある楽器の中からタブラに行き着いたというのは、僕が数あるパフォーミングアートの中から芝居に行き着いたのと、なんだか似た匂いを感じています。そこには言葉にはできない、ある種の必然性のようなものがあるように思えてなりません。こういう説明のつかないものってワクワクしますよね。

「人は一生に一度、インドに呼ばれる時が来る」と言ったのは三島由紀夫だっただろうか。仏教や神話の源泉であるインド。仮面劇も色々と残っていますよね。紐解きたいことは数々あれど、いまだお呼びがかからない僕ですが、石田さんは「インドに呼ばれてる」と感じた瞬間ってありましたか? 

今年も長くインドに行かれている石田さんにとって、インドとはいったいどんな存在なのでしょう。とても興味があります。

今年もまた秋頃にご一緒できそうですね。何やりましょうかね。今からとても楽しみにしています。

それでは、インドへの渡航、どうぞ、お気をつけて。

2016年初夏 紅月劇団 石倉正英

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【石倉正英】

 

洋館や古民家、海辺のカフェなど、非劇場的空間を活かした個性的な 作品を創作する紅月劇団主宰。 脚本・演出・役者。語りや朗読パフォーマンスなど、ソロでも活躍中。 http://r-lune.jp  Facebook / twitter : 紅月劇団

紅月劇団 石倉正英 様

前略、インドから、こんにちは。

今年の路地フェスタではご一緒できなくて残念でした。今年もきっとその天性の癒し周波数を持つ声による朗読で、ご来場のみなさまを喜ばせたことでしょうね。石倉さんのパフォーマンスはまさに音楽だと思います。

人がそれぞれの道を選ぶのって本当に不思議。同じような世界を見ているようでも、全く違うものが見えてる → 違うところに興味がうまれる。そこにきっと理由なんてないのでしょうね。

私は天賦の才があったわけではないので、少し前まで「あのとき○○していたら…、○○の道を選んでいたら…」なんて考えることもありましたが、、、そんなのムダムダ!(笑)。何度別の人生があったとしても、結局私はこの道を選んでいたでしょう。

そして石倉さんはお芝居の道を選んでいて、結局は何かのタイミングでご一緒していたでしょうね。

インドにいて、古典音楽を勉強していると、とにかく世襲制がはっきりしている世界なので、愕然とすることも多いです。最初の先生も「他の職業は努力したらなれるものがほとんどだけれど、音楽家は努力してもなれないもののひとつ」と言っていました。つまり、音楽家の家に生まれていないと、努力しても限界がある、と。もちろん、そうでないのに、ものすごい努力と才能で巨匠になった方もいらっしゃいますよ。でも基本的には、子どもの時から与えられるものに大きく差がついていますからね。

 

私はインドに生まれなかったし、音楽家の家にも生まれなかった。天から与えられた境遇も才能もなかったので、よりによってインドの音楽をやるなんて、天命に背いているかのよう。でも私は、日本に生まれていろいろなものを見て聴いて育つことができた。なんとかお金を貯めればインドに行くことができたし、音楽を学ぼうと思えば学べた。正師を得ることもできた。それから自由にバンドで演奏もできたし、朗読とのセッションだってやってこられた。そして日本で、インドの文化芸術の魅力を伝える役割もできるようになってきた。これはこれである意味、すばらしい境遇と能力を与えてもらったと思うし(何が恵まれていたかなんてわからないので、恵まれていたとはあえて言わないけれど)、よかったなあと思っています。

やりたいことができない時代になってしまわないように祈りたいですね。

 

そうそう、私は「インドに呼ばれ」てもないのに、押しかけて行ってるんですよ。毎回。15年も! インドは私にとっては、よくイメージされるような「異国情緒」や「自分探し」や「癒し」の場所ではなく、私が思うすべての芸術の根本的なアイデアが詰まっている場所で、その魅力に引き寄せられているのです。

ついでに言うと、インドは誰も呼ばないし、誰も退けない(笑)。というか、呼ばれて至れり尽くせり~じゃなくてもOKよ!私は勝手にやるからね!っていう人のみが、行って楽しむことができるのかもしれません。

石倉さんも是非、押しかけてみてください。どんな風に作品に影響が出るかとっても興味があります。 でも実は、石倉さんが、お芝居の分野で、特に日本の歴史や物語を題材に、そして日本語をとことん磨き上げて作品をつくられているのは、とっても羨ましく、いつも憧れているのです。これはまさに天命!ですよね。

 

秋には一時帰国しますので、また是非作品づくりをご一緒させてください。

そうですね、カジュ公演がいいですね! 楽しみにしています。                   石田紫織

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【石田紫織】

パーカッション担当としてのバンド活動を経て、2002年タブラを学ぶため渡印。2007年よりpt.シュバンカル・ベナルジーに師事、毎年コルカタに数ヶ月滞在し研鑽を積む。また、U-zhaanの指導を受けている。インド古典音楽や舞踊の伴奏の他、オリエンタルフュージョン、Pops、Electro等のライブやレコーディングに参加。「むゆうじゅ」「ヌーベルミューズ」では、アメリカやヨーロッパ3カ国ツアーを行うなど、国外にも活動の場を広げる。2015年度インド政府奨学生として、ラビンドラ・バラティ大学パーカッション科修士課程へ留学中。

【ホームページ】http://www.ishidashiori.com/music/

【ブログ】←インドネタも更新中!http://ishiorin.blog24.fc2.com/

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