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往復書簡(50) 石田紫織さんからたなか牧子さんへ

テーマ、永遠の・・・

牧子先生

先日はシルク博物館全国染織展での作品の入賞、おめでとうございました!

なんと、私たちの朗読と音楽のパフォーマンスからヒントを得てデザインされたと伺って、とってもうれしいです。

実は、ちょうどお手紙に似たようなことを下書きしていたところでした。

私が、たしか清泉女学院中学校3年生の時。美術の授業で、「音楽を聴いてそのイメージでデザインした」という先生の作品を見せていただきました。それは、本当に音楽が流れるような意匠で、絵っていうのは見たものを描くだけじゃないんだ、感じたものを表現するってこういうことか、と知った初めての体験でした。そのときの衝撃は今でもはっきりと覚えています。

そして、音楽と美術の境目がなくなったのもこのときでした。

そのあと、大学生の時に、母校での教育実習で先生と再会しましたよね。それで先生の作品展を見に行きました。絵画を専攻していた私は、工芸とファインアートの間に線引きをしていたように思いますが、先生の作品はその両方のいいとこ取りをしていて、衝撃を受けたものです。そして、工芸とアートの境目がなくなったのもこのときでした。

また、「おくりもの」というタイトルがついていて、作品たちが、実用性というよりむしろ「贈り物」という役割を与えられて生まれていることにも驚いたことを、はっきりとおぼえています。

先生は作品の役割について考えることはありますか?

 自分を喜ばせること? 人々を喜ばせること? 神様を喜ばせること?

 

実用的な役割があってこそなのか?

 

社会的な役割があってこそなのか?

 

はたまたArts for arts shake なのか?

これって、もう語り尽くされたことかもしれませんが、私は未だにそんなことをぐるぐると考えるときがあります。

でも、そんな絡まりをいつもひょいとほどいてくれるのが、カジュ・アート・スペース。

いつも、カジュの催しに参加すると、なんとなく答えが見つかるような気がするのです。

さて、牧子先生、私からも賞をひとつ。

「石田紫織の人生に影響を与えたで賞」(笑)

先生は、私の人生の方向性を決めるきっかけになった偉人のうちのひとりであることは間違いないです。

これからも、衝撃をください。

石田紫織

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【石田紫織】

パーカッション担当としてのバンド活動を経て、2002年タブラを学ぶため渡印。2007年よりpt.シュバンカル・ベナルジーに師事、毎年コルカタに数ヶ月滞在し研鑽を積む。また、U-zhaanの指導を受けている。インド古典音楽や舞踊の伴奏の他、オリエンタルフュージョン、Pops、Electro等のライブやレコーディングに参加。「むゆうじゅ」「ヌーベルミューズ」では、アメリカやヨーロッパ3カ国ツアーを行うなど、国外にも活動の場を広げる。2015年度インド政府奨学生として、ラビンドラ・バラティ大学パーカッション科修士課程へ留学中。

【ホームページ】http://www.ishidashiori.com/music/

【ブログ】←インドネタも更新中!http://ishiorin.blog24.fc2.com/

石田紫織さま

お手紙、大変嬉しく拝見しました。そうでしたね、紫織さんとのご縁は、中学校の美術の時間が始まりでした。(もうすっかり忘れていますよ、笑)

日本画とインド音楽、そのどちらもを飽くなき研鑽で磨かれるご様子は、ほんとうにすばらしいの一言です。音楽と美術、ファインアートとクラフトなどの分野を超えた考えに至るのに、私が一役買えたのなら、嬉しい限りです。

お尋ねの、アートの役割についてですが、これは私も未だに答えの出ない大きな問です。

私たちは農家のように、人に生きる糧を提供できるわけではない。

病院、消防や警察の人のように、人の命を救うこともできない。

私たちの分野の人間の存在価値は、一体どこにあるのでしょうね。

2003年にロシアのアーティストと展覧会をするため、1週間ほどシベリアで過ごしたことがあります。それまでの私のロシアのイメージは、アメリカ経由のそれはそれは偏った情報で作り上げられていたのですが、ロシアの人たちの芸術に対する真摯で温かに心に衝撃を受けました。

町のあちこちに演劇、音楽、バレエのホールが点在し、組合に所属するアーティストは無料でアトリエが持てて、放課後に子どもたちが無料で習える音楽教室や造形教室がいっぱい!

モスクワの駅地下のキオスクではなんと油絵を売っているお店があって、買い物帰りのおばちゃんが、あれ、買ってるよ、油絵!

長く厳しい冬を耐えなければならないロシアの人にとって、アートは生活の必需品なんだなぁということをひしひしと感じました。

アートの役割・・・ほんとのところ、よくわかりませんが、なにか「伝えたい」というメッセージを「届ける」のが役割なのかな、とぼんやり思います。人に対して、神に対して。

発信し、受信し、拡散し、吸収し・・・そこに何らかの化学反応が起これば、アートはよしなのでは ないでしょうか。 もしそれが人に生きる力になるような化学反応だったら、うれしいですよね。

きっと私たちは、死ぬまでこの問を問い続けて行くのでしょうね。

自然の声に耳を傾けながら、淡々とタンタンと参りましょう。

p.s. 紫織さんに影響を与えた賞?! これぞアートの醍醐味! 一番うれしい賞ですわ。

                        

たなか牧子

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【たなか牧子】染織家・カジュ・アート・スペース主宰

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