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往復書簡(51) たなか牧子さんから石田人巳へ  2017年

51回続いたこの往復書簡もこれをもって一区切りとなります。

カジュに集う多くの仲間が、それぞれに刺激しあい、親交を深めている様子が

毎回、手紙のやりとりから伝わってきました。

このシリーズの担当をさせていただき、私も多くのものを得ることができました。

皆さん、ありがとう!石田人巳

テーマ:文字とは、書くとは

石田人巳さま

気がつけば、カジュ・アート・スペースは、今年で20年目。

石田さんとはその前から、よりとも公園に集う、子どものお砂場仲間のママ同士、というところ からご縁がスタートしたのでした。

すでに、その頃一緒に遊んだ石田さんの息子さんも、私の息子も成人してしまいましたが。

あっという間でしたね。

石田さんにはカジュ通信の創刊号から、編集をお手伝いいただき、しばらくしてこの「往復書簡」 の企画を立ち上げてくださり、以来、書いてくださる方の手配、連絡、記事の編集を一手に引き受け てくださって、すっかり、カジュ通信の看板コラムになりました。

さてさて、今まで書いてくださった方、一体何人ぐらいいらっしゃるでしょうね。

この2ページで繰り広げられる様々な化学反応に、心躍り、うーんとうなり、くすりと笑い、ぶんぶんうなずき・・・ほんとうに豊かな気持ちになりました。

全ては石田さんの、長年に渡る心のこもったお仕事ぶりのおかげです。

石田さんは編集者としてのキャリアもさることながら、書道の師範でもいらっしゃいますね。ふと、石田さんにとって、「文字」ってどんな存在なのかな、と思うようになりました。

私も昨年、本を出させていただく幸運を頂き、4ヶ月ほど、どっぷり「文字」の海をあっぷあっぷと 泳いだのですが、その時つくづく思ったのは「ああ、日本語が母国語で幸せ〜!」ということでした。

漢字もカタカナもひらがなも、その組み合わせで生まれる言葉のあれこれも、みんな愛おしくてありがたくて、幸せだなぁと。

石田さんにとって、文字とは、書くとは・・・?うーん、お返事、興味津津です。

これで「往復書簡」は幕となりますね。ほんとうにほんとうに、長い間、ありがとうございました。

これからもどうぞよろしく。 

たなか牧子拝

牧子さんへ

 

昨年末に『文字とは?書くとは?』というお題をいただいてからというもの、料理をしていても、ドラマを見ていても、あたまの片隅にこのお題を置いて過ごしていました。

十日も過ぎたころ、そろそろキーボードに向かおうかと思い、おおよその筋を頭の中で組み立て始めました。最初に書くことは決まっていました。「私にとって文字や書くといういことは、書の師範になってから、がらりと意味が変わった」と。

中身のない妄想にふけっていた十代、二十代の頃は、読書が好きで、また書くことに大きな憧れがあり、その反面、自分の中を覗くと、何一つ書くべきことがみつからなといった情けないありあさまでした。

今は、書くことは、ズバリ、筆を持って紙に墨で文字を書くことで、それは意外に思われるかもしれませんが、視覚的な要素の強いものです。紙の白に対して、墨の黒の部分がどう調和するか。文字に大小の差をつけ、墨をたっぷりつけるところ、あるいは墨がかすれてくるところ、そのような変化を持たせることが、筆さばきの技術と同じくらい重要なこととして自分に迫ってくるものなのです。

書く題材は、たいてい中国や日本の古典から選ぶので、20代の頃のように自分には何も書けないなんて悩まなくてすみます。なぜ書けなかったか今ではわかります。文を書くことは命を削るのにも等しい行為で、そんな勇気を私はとうてい持ち合わせてはいませんでした。

そして、もう一つ、筆を持って書くようになって気づいた重要なことがあります。それは、筆を持つ手の力がどんどん抜けていった、ということです。小筆の筆先などは、紙面上で折れたりねじれたりしても、ほとんど手に響いてきません。それでは、以前必至に筆を握っていた力はどこへ行ったのでしょうか?おそらく、それは体の中心へ、肩から腰のほうへ分散していったようなのです。

ここにきて、とてもうれしいことに気づきました。この往復書簡の第一回を書いてくださったアコーディオン奏者の岩城さんのテーマが「からだ」だったということに。

10 年ほど前、初回を快く担当してくださった岩城さんは、その頃、アコーディオン奏者として活動を始められ、演奏する時のご自分のからだのことが気になっていると書かれました。返事を書かれた田村竜士さんは整体のような仕事にかかわっておられる方で、からだの中心を通る軸のようなものを意識してみては?とアドバイスされていました。

 「私も同じ!」と膝を打ちたい気分です。筆を持つ時は常に体の軸を意識している。そしてそれは自分の体と対話しているようなものだと。

 往復書簡はこの回を持って幕を閉じます。最初と最後が繋がって環になったようで、しみじみとした気分に包まれています。

いままで私に『往復書簡』連載担当という場を与えてくださった牧子さんに最大限の感謝を、そして、これまで私の原稿依頼に対して「いや」と言わずに手紙を書いてくださった皆様、また読み続けてくださった方々、この場をおかりして御申し上げます。

 

石田人巳

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石田人巳……ボランティアスタッフとしてカジュ通信にかかわる。3年前からカジュ・アート・スペースにて『筆に親しむ書道教室』を開講  日本総合書芸院 師範

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