イタリアから鎌倉への手紙 3 「 春へ 」
お元気ですか?冬から春へ移りゆく季節、市場では美味しい青菜や色鮮やかな人参、蕪や大根が並び、 もう少しするとフキノトウや芽キャベツがで始める頃でしょうか。寒いけれど水面下で氷が少しずつ溶けて ゆくこの季節も好きです。
イタリアに来て、料理からたくさんの学びをもらっていますが、一番よかったことは?と訊かれたら
迷わず、イタリアの人たちと一緒に働き日々過ごせたことです。日々厨房で働くなかで最初驚いたことは、
皆が冗談を言ったり歌を歌ったりして、楽しんで働いていることです。
それから、シェフとコックの上下関係が殆どなく、自分の思ったことを正直にその場で言い合うことも。 もちろん、日本の職場だって意見を交換して働きますし、日本人の謙虚さ、相手の気持ちを察する繊細さ、 和を重んじる姿勢も素晴らしいと思います。一方でイタリア人が裏表なく言い合うこと、“自分と人は ちがう”前程で相手の考えをきく姿勢、若いコックさんもシェフにきちんと意見を言うこと、時には怒りを 見せ合うことで信頼関係を作っていることには刺激を受けました。
むしろ何も言わないと満足している、と思われてしまいます。傍らにいるこちらが耳鳴りするほどの激しい 言い合いの後は、気が付くと冗談を言い合って仲直りしていたりします。文化なのでどちらがいいという ことではないですが、子どもの純真さと正直さと優しさを持ったまま大人になったようなイタリア人たちと 過ごすなかで、私も頭でっかちな大人から素直なこどもに還っているような気がするのです。
実はイタリア人と働くなかで、私こそ、一緒に働く人達のことを仕事の技量や出来で見ていたのだと気付かされて、情けなく悲しい気持ちになりました。それ以上にその人の人生、暮らし、家族が大事なこと、仕事はその中の一部であり他を犠牲にするものではないことも、イタリアで痛感させられました。
先日、ミラノの一つ星レストランのシェフをしていたFabrizioと一緒に料理をする機会に恵まれました。
彼が私に話したことばが忘れられません。
「料理の仕事で情熱と誠実さは必要だよ。でも一番大事なのは遊び心だ。人生が遊びだから。技術や知識は
必要だけれど、愛が大切だよ。愛があれば間違えてもいいんだ。」料理のひとつひとつの工程―それが下手で未熟であっても―を大切にして、自分に“YES”を言っていく、その積み重ねをしていこう、それが恐れや
否定を溶かしていける、人にも“YES”を言ってゆけるのかなと今は思っています。料理だけでなく、すべてのことに。
こちらに来てまだ間もない頃、フィレンツェのアパートに住み、私はイタリアの人たちの胸に愛が赤く灯っているのがみえるように感じました。そのときのことを“花束”というピアノ曲にしました。生きてることに花をあげて祝福したい。次回はピアノのことも書きますね。
寒いけれどたくさん笑ってお元気で!
(2017年・新春号)
川本真理
料理人、ピアノ弾き。
東京PURE CAFÉ、鎌倉のLife Forceを経て、現在イタリアで料理修行中。
2012年ピアノCD「カゼノカミサマノイルトコロ」発表。
カジュ・アート・スペースさんでピアノの練習をさせてもらう時間がとてもすきでした。
メールはこちら。
コメント