GHOST 〜K病院の怪~
今年はここ数年関わっている群馬は中之条ビエンナーレの開催年で、9/9〜10/9の一ヶ月間、国内外およそ150人のアーティストによる様々な展示やイベントが行われます。我々も、もはやホームグラウンドとなった旧養蚕農家・冨沢家住宅を舞台にした「GHOST」という作品を上演いたします(9/30〜10/1)。と、軽く宣伝させていただいたところで本題に入りましょう。今回のテアトロ・カジュは、納涼企画、新作の「GHOST」にちなんで、ひとつ怖いお話をしてみたいと思います。
学生の頃、あるクラスメートが奇妙なバイトの話を持ってきました。巣鴨にあるK病院が建て替えになり、工事の間、夜間はお医者さんが不在になるので、一泊して、万一救急車がやってきたら、別の病院を紹介するだけという、ある意味おいしいバイトでした。これを友人数人でローテーションを組んで回そうというのです。若くトンガっていた僕らは、怖いからやめようなどという者はなく、即座に面白い、やろうやろう、ということになりました。先に任務に就いたやつらは、翌朝、口々に「余裕余裕」といい、そして、とうとう僕の番がやってきたのです。
K病院は小さいながらも総合病院で、地上4階、地下2階のそこそこ大きなビルでした。工事中で真っ暗、誰もいない・・・そう、僕らの仕事は夜間の警備員も兼ねていたのです。
執務室は1階の受付所。そこでTVを見ながら買ってきた弁当を食べ終えたその時でした。誰もいないはずの2階から、人のしゃべる声が聞こえてくるではありませんか! 勇気を振り絞って2階に上がっていくと、なんとラジカセからラジオが流れている! そう、僕らの寝床は2階の病室のベッドで、そこに仲間が目覚まし時計代わりにラジカセを持ち込んでいたのでした。この時、なぜか冷静だった僕は、ああ、前の当番のやつが目覚ましのラジオをかけ忘れたんだな、と納得、いや、言い聞かせてラジオを切り、下へと降りて行きました。
執務室に戻ってホッとしたのも束の間、また2階から人の声が・・・。まだ辛うじて冷静を保っていた僕は「スヌーズだ、スヌーズ機能が動作したに違いない。ちゃんと電源を切らないと」と再び2階に上がり、今度はちゃんと電源を切って戻りました。
しばらくの間、聞き耳を立てていましたが、音はせず、よしよし、やっぱりスヌーズだったと安心しきったその10分後・・・けたたましい大音量で音楽が鳴り始めたではありませんか! ドキー!! としつつも、しつこいスヌーズめ、と悪態をつきながら2階に上がるとカセットテープの重々しい再生ボタンが押されている・・安物のラジカセです、目覚まし機能でアナログな再生ボタンが押されるはずがありません。
「出たー!!」パニックになった僕は、外へ飛び出し電話ボックスから110番、さすがに幽霊が出たとは言えず、不審者らしき者が忍び込んだ模様と話して、警察官を派遣してもらうことになりました。到着した屈強な二人の警察官のなんと頼もしかったことか。一緒に全館回ってもらうと、誰もいない・・・。しかし、くだんの病室に行くと、中にあったものが全て廊下に出されていたのでした・・・。激しい幽霊もいたものです。 さて、この事件からちょうど1年後のこと・・・仲間内で飲んでいた時、この話を始めた僕を遮って、仲間の一人がこう言い出しました。「あれ、実は俺たちがやったんだ。お前があんまり冷静に対処するからついついエスカレートして・・・警察呼んだと聞いて、あわ食って今まで黙ってた。でも、もう時効だよな?(笑)」僕はいかりを通り越して、ただ笑うしかなかったのでした・・・。
(2017年夏 紅月劇団 石倉正英)
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