007と忍者
007の最新作が公開され大ヒットしているとのこと。早速観に行ったうちの役者からも一言「ビックリした」との感想コメントが寄せられました。何にビックリしたのかは不明ですが、かなり楽しめた様子。奇しくも今年最後の公演では007のパロディをやろうと思っていた矢先、これではまるでこのヒットの尻馬に乗ろうとしているように見られるではありませんか。ドキッ・・・。
似たようなことが前にもありました。2015年の群馬公演は真田忍者をテーマにした「真田の城」という作品を用意していたところ、翌年の大河ドラマがなんと「真田丸」。僕らの方が先に企画したのに!と主張しても多勢に無勢、めでたく尻馬に乗っかることができたのでした。笑
007の主人公ジェームズ・ボンドはイギリスの情報機関MI6の情報部員という設定になっています。趣向を凝らした武器やボンドカー、そして今回のボンドガールは?と毎回楽しみな要素満載ですが、その職業はといえばスパイ。
一方日本のスパイといえば忍者。安土桃山時代の武将・真田昌幸は謀将として知られ、数々の忍者を駆使して敵の情報をキャッチし謀略したと言われています。群馬公演の会場がある中之条という土地にも真田忍者がたくさんいたそうで、手裏剣やら逸話やらがたくさん残っています。
その会場にほど近いところにある沼田城や名胡桃城は、越後と関東をつなぐ要衝で、その辺りの武将にとっては喉から手が出るほど欲しかった城だったそう。真田氏や北条氏もまたしかり、二者で取り合っていたところ、豊臣秀吉の裁定によって、沼田は北条、名胡桃は真田と決められ一件落着と思いきや、どうしても二つとも欲しかった北条氏がふとした隙に名胡桃城を奪取してしまいます。
これに激怒した秀吉が北条を滅ぼすに至る、かの有名な小田原一夜城作戦の発端ともなったのですが、この時、名胡桃城を取り戻した真田昌幸は沼田城を攻めずして無血開城させます。なぜ戦わずして沼田城までをもあっさり取り戻すことができたのか? そこには真田忍者の影なる活躍があったと言われています。
007のように映画化されれば、死んだスパイも浮かばれましょうが、本来のスパイは身を明かさないことで生きながらえるもの。忍者もまたしかりで、真田十勇士と語り継がれてはいるものの、その多くは名もなき過酷な生涯を送っていたものと思われます。まさに人知れず闇に生き、闇に死ぬ・・・。いったいどこに生きるモチベーションを保っていたのでしょう。
「生きるってぇのはなんでこうも難しいんだろうな・・・食い物さえあれば人は生きられるってぇのにさ・・・」
「真田の城」に出てくる忍者の台詞です。
そんな忍者の魂が少しでも浮かばれるようにと、先月6年ぶりに「真田の城」を群馬・中之条で再演しました。が、残念ながらこのコロナの影響で無観客公演となってしまいました。やはり、忍者は人目につくことなく死んでしまうのか・・・。いやいや、今の時代にはネットという便利なものがございます。そう、このカジュ通信がお手元に届く頃にはオンライン配信が始まっております。ぜひこの機会にご覧いただければ、名もなき真田忍者の魂も必ずや浮かばれることでしょう。(「中之条ビエンナーレ」で検索!)
写真 : 真田忍者も潜んでいた?(会場の冨沢家住宅)
2021年秋
紅月劇団 石倉正英
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