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衝撃の事実、法華経の中に法華経は書かれていない

Theatrekhajus3720221025
多摩羅栴檀の香?(2021年初演より)


 ただ今、来週に迫った「不愉快なみほとけ~日蓮聖人殺害計画~」という公演の本番に向けて絶賛準備中です。この作品は、昨年の4月に初演したもので、今回が2回目の公演。初演の時にたまたま日蓮宗のお坊さまに観ていただく機会を得、さぞ怒られることかと思っていたら、思いのほか気に入っていただけて、なんと鎌倉のお寺の中でも日蓮さんのお骨を納める、一際ゆかりの深い名刹・本覚寺の本堂での再演とあいなったのでした。まこと光栄なことでございます。いやー、嬉しいやら怖いやら・・・笑。

 これは頑張らねば、ということで、不肖石倉、一念発起、日蓮さんが「最高の経」と称えた「白蓮華のように最も優れた教え」という意味の「法華経」を真剣に読み直しました。

 みなさん、お経は読まれたことはありますか? 僕はこの作品を手がけるまで、ついぞその中身を紐解いたことはありませんでした。今回本腰を入れて法華経を読んでみて、はー、ほー、へーの連続でした・・・。

 てっきりお釈迦様が、我々凡人を導くための教えが満載なのかと思っていたら、どうしてどうして、お釈迦様の舌が伸びてきて、そこから無数の如来が現れたとか、地面が割れて黄金色の体をした菩薩が夥しく現れ出たとか、とてつもなく美しい宝塔が現れたとか・・・そんなSFチックなエピソードが満載なのでした。中でも一番びっくりしたのは、法華経の中身が具体的に書かれていなかったこと! 「お釈迦さまが法華経を説いた」とは書かれていても、何を語ったのかが一切書かれていないのです。

 その理由らしきものを知ったのは、かの初演を観に来てくださった日蓮宗のお坊さま、鎌倉は安国論寺のご住職にお話を伺った時のこと。いわく、お釈迦さまがおられた時代、神聖な言葉というのは文字にすることが禁じられていたとのこと。加えて法華経の中でも、真の悟りに導くための方法を凡人に説いたところで戸惑うばかり、言っても無駄だとお釈迦さま自身が繰り返し言っておられるのです。

 なんだよ、それじゃあ僕ら凡人が法華経を読んだって意味ないじゃん! と思った矢先、なぜだかその中の一文が僕の目を惹きました。

 それは大目犍連(だいもっけんれん)という十大弟子の一人に、釈迦が言った予言で、いわく「お前は何度か生まれ変わった後『多摩羅栴檀之香(たまらせんだんのかおり)』という名の如来となるだろう」と。多摩羅栴檀というのは、法華経の中で「見宝塔品(けんほうとうほん)」という巻に出てくる宝塔が放つ香りのことで、タマーラという木の葉とセンダン(一説には白檀)の木の香り、と表現されています。とてつもなく素晴らしい香りなのだと・・・。

こんな美しい名前を授かった大目犍連とはどんな人物だったのか・・・言い伝えによれば、釈迦が仏教を創始した時代では、仏教もいわゆる新興宗教の一つで、他の宗教からとても疎まれていたのだそう。そんな中、あの大目犍連さえやっつけてしまえば釈迦の一門を潰すことができると、他教の教徒によって街頭でなぶり殺しの目に遭う人なのでした。言い換えれば、釈迦にとってそれほど重要な人物だったということ。

この大目犍連が、なぜだか今回の作品の登場人物の一人にとても近いように思え、そのイメージを重ねることによって、初演時には行き着けなかった数段高い次元にまで芝居を深化させることができたのでした。

法華経を読んで、同じような気づきを得る人は、過去にも未来にもたくさんいることでしょう。「最高の経」と言われる所以はこんなところにあるのかもしれませんね。

 

2022年秋冬号 紅月劇団 石倉正英

 




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