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上毛かるた

Photo_20240421182801 上毛かるたの「よ」と「ら」

 長野県民は皆「信濃の国」という県歌を歌うことができると聞きました。それはなぜかというと、六番まである歌詞には長野の地理や歴史、文化などが余すことなく盛り込まれているので、郷土について教えるのに都合がよく、県内の小学校の音楽や社会などの授業でよく取り上げられるからなのだそう。勉強好きといわれる長野県民らしい理由かもしれませんね。

 我が故郷・群馬県にもそれに似たものがあります。「上毛かるた」というものです。

近年TVなどで取り上げられることが多くなったのでご存じの方も多いことでしょう。「信濃の国」と同じように、群馬の偉人・文化・名所旧跡がふんだんに盛り込まれていて、一回遊べば群馬のことが大体わかる仕組みになっています。

ほぼ全ての群馬県民はこれを誦じて言えます。いやいや嘘ではありません。もし群馬県出身の人に出会ったら上毛かるたの「い」は?と聞いてみてください。間髪入れず「伊香保温泉日本の名湯」と立板に水のごとく答えてくれること請け合いです。

 それはなぜかといえば、長野のように小学校の授業で取り上げられるからではなく、そこは博打好きな群馬県民、子供の遊びの一種であり、毎年町内会で「上毛かるた大会」が催され、地区予選から県大会まであって、誰しも子供の頃に暗記するほど遊んでいるためなのです。こんな具合に幼少の頃から刷り込まれた知識は自ずと郷土愛に結びついていく・・・。

 いくつか紹介しましょう。歴史上の偉人シリーズでは「て:天下の義人、茂左衛門」「ぬ:沼田城下の塩原太助」「れ:歴史に名高い新田義貞」等々。

最近世界遺産になったところも「に:日本で最初の富岡製糸」。

温泉大国である群馬の名湯シリーズでは、上述の伊香保温泉のほかに「く:草津よいとこ薬の温泉(いでゆ)」「よ:世のちり洗う四万温泉」と三役揃い踏み。ちなみに四万温泉の絵札にはやんわりと入浴中の女性のヌードが描かれています(下図)。それゆえに、子供の頃この札を取ると速攻「エッチ!」と冷やかされたものです。笑

 前回のテアトロ・カジュで取り上げた小栗上野介も、入っていて良さそうな偉人ですが入ってない。これも明治政府の仕業かというと、そうではなくて、当初は小栗も候補の一つだったのだとか。

なぜ選から漏れたのかというと、この上毛かるたが編纂された太平洋戦争直後、かるたの内容もGHQの検閲を受けねばならなかったのだそうで、横須賀製鉄所を作った小栗は、日本を軍国化させた張本人とみなされたために、ヤクザの大親分・国定忠治の札などとともに却下されてしまったのだとか・・・。

 その候補作が「ち:知慮優かな小栗も冤罪」。代わりに採用されて今に至る「ち」の札は「力あわせる二百万」。これは群馬の人口を表したもので、僕が子供の頃は「力あわせる百六十万」でした。人口の推移とともに度々改訂されているのですが、もし小栗の札が採用されていたら、昨今の少子化によって人口が減っていく寂しさを感じずに済んだかもしれません。

 ちなみに上毛かるたを編纂した浦野匡彦は、小栗のように取り上げられなかった人々をまとめて象徴するような札を一枚入れています。「ら:雷と空風、義理人情」。この札は群馬県民の精神風土を見事に表しているとともに、白い読み札の中にあって、いろはの「い」の札とともに二枚だけ赤く色付けられている読み札のうちの一枚なのです。

 

2023年秋 紅月劇団 石倉正英

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