2019/09/18

セイヨウニンジンボク・アブラハムの香油は藍媚茶

Seyoninjinboku01 Seyoninjinboku_t0-2 写真右 撮影 : 玉木ゆう子

【学名】   Vitex agnus-castus   ※Vitex cannabifolia(ニンジンボク)
【英名】   Ghaste tree, Chasteberry, Abraham's balm, Monk’s pepper
【別名】   イタリアニンジンボク、なまえの木
【生薬名】  牡荊(ぼけい) 
【科】     シソ科 (クマツヅラ科) 

南ヨーロッパ、西アジア原産。
学名のVitexはラテン語の「vieo=結ぶ」の意味で、この植物でかごを編んだことに由来するといいます。agnusは「神の子羊」、castusは「汚れない」「信仰深い」の意味。

英語名に「アブラハムの香油」とあるところからも、西欧では古い時代から香料、薬、香辛料に用いてきた歴史が伺えます。コショウの代用品として使われたことがMonk’s pepperの由来でしょうか。

日本には江戸時代に中国からニンジンボクが伝わってから、各地で自生するようになりました。
和漢三才図会には、ニンジンボクの木の枝で刑杖(棒で背中や臀部を打つ体罰につかう棒)を作ったという記述があります。硬さがちょうどいいとか? 叩くといい匂いがして罪が清められたとか??  どんな棒か見てみたいですねぇ。そしてセイヨウニンジンボクは明治時代に渡来しました。これで明治政府が体罰用の棒を作ったということはなさそう(笑)。

イギリスのサイトによれば、古くから高い薬効が認められ、近年ではその効能の多くが科学的にも証明されているそうです。中でも特に女性ホルモンの働きのバランスを整える効能で知られています。ドイツでは月経前症候群 (PMS) の症状の治療薬として正式に認可されています。 また民間では堕胎薬として用いられていた歴史もあるとか。

中医学ではニンジンボクは総称して「牡荊」といわれ、茎葉、根、実、いずれも用います。婦人病、不眠、に効果。経絡を開く作用があるとされます。和漢三才図会には「牡荊子(ぼけいし=実)は骨間の寒熱を除き、胃の気をよく通す。 咳を止め、気を下す。炒り焦がして粉末にし飲服すれば、心痛および婦人のこしけを治す。」とあります。

6月にみちくさ部長ハーブ王子に引率していただき、北鎌倉を散策した時、個人宅のお庭に植えられたセイヨウニンジンボクがきれいな紫の花を咲かせているを見つけました。ハーブ王子のお話では、セイヨウニンジンボクは、古代エジプトでミイラをつくるときに防腐剤として使われたということです。お茶にして飲んだら、老けないかしらん。

香料に用いられるだけあり、貰い受けた枝葉を煮出すと、キク科の植物に近い芳香の中に、華やかな甘さのある香りが立ち込めました。うーん、どこかで嗅いだ香りなんだけど、思い出せない・・・。漢方な感じは間違いなくするのですが。
黒黒しい染液となり、どれも渋みときつみの利いた堅牢な色合い。
アルミで菜種油色から鶯色、銅で鶯茶、鉄で藍媚茶。花の咲く前であれば、もうひと色明るくなるものと思われます。
花言葉は、「思慕」 「純愛」 「才能」 。7月22日の誕生花。

◎参考サイト /文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/セイヨウニンジンボク
http://ja.wikipedia.org/wiki/ニンジンボク
http://www.zoezoe.biz/
http://search.eisai.co.jp
http://www.pfaf.org
https://www.language-of-flowers.com
http://gkzplant2.ec-net.jp/
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 2」 北隆館
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社
・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著 第84巻

 

 (C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房  禁転載

 

 

 

 

 

 

 

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2019/09/17

バジル・偉大なる青白つるばみ

Basil (写真出典)

【学名】  Ocimum basilicum L.(スイートバジル) 
      Ocimum tenuiflorum(ホーリーバジル)
【英名】  Bazil
【別名】  メボウキ、カミメボウキ(ホーリーバジル)
【生薬名】 羅勒(らろく)
【科】   シソ科 

インド原産で、アジア南部、中東などに分布する多年草。ですが日本では越冬できないため一年草として扱われるのが一般的です。

学名のOcimumはギリシャ語の「okimon(香りを楽しむ)」が語源、basilicumは同じくギリシャ語のbasilikos (王室の) が語源です。「香り高き王族」といったところでしょうか。そんな由来からか、ギリシャにはバシレイオス(Basileios)という男性名が多く存在します。歴史上の偉人にもその名は見られ、たとえば、ギリシャ正教の教父で日本では「大バシリウス(バシレイオス)」の名で親しまれている聖人は、英語圏ではSt.Basil the Great と言われています。この大バシリウスさん(カトリック教徒では聖バジリオ)、4世紀にカッパドキア(現トルコ内)に実在した神学者で、三位一体論を確立しただけでなく、ハンセン病患者を含む病人の救済(当時は考えられないこと!)、貧民、孤児の救済などの福祉事業に大きく貢献したことで知られています。

キリスト復活ののち、イエスの墓のまわりにバジルが植えられたという伝説もあるそうで、ギリシャでは、キリストが磔になったゴルゴダの丘に生えていたバジルをハレナ女帝(コンスタンティヌス1世の母太后・聖ヘレナのことか?)が、ギリシャに持ち帰ったとされています。そこから食用、薬になったとなれば、名前に「王」の意味を持つもの納得ですね。ギリシャ正教会のなかには、今でも聖水を調合するのにバジルを使い、さらに聖壇をバジルで飾っているところもあるそうです。

インド、ネパール地方では、ホーリーバジルは聖なるハーブ “ツラシ” として知られ、アーユルヴェーダ医学では重要な薬草として扱われ、宗教的にはヴィシュヌ神、クリシュナ神、シヴァ神に捧げられる供物にもなるそうです。
ホーリーバジルはタイ料理にも欠かせませんよね。

日本には中国経由で江戸時代に入ってきました。葉より、黒い種を薬として重用したようです。種を目の中に入れると、水分を吸って蛙の卵のように寒天状に膨れて目のゴミを拭い去ったことから、「目の箒(ほうき)」の意味でメボウキの和名が付けられたそうです。この種を特に生薬では「羅勒子(らろくし)」と呼びます。

和漢三才図会には「3月頃植えるとよい。魚のアラ汁、米のとぎ汁、溝の泥水などを肥料にすると香りがでてよいが、糞尿をやるのはよくない。乾いた種子を用いて目のかすみ、塵が目に入ったものを治す。3〜5粒を目の中に入れると、湿り膨れて塵と一緒に出てくる。目はちょっとの塵が入ってもころころするのにこの種子なら何の妨げにもならないのはひとつの不思議である。」という記述がみつかります。現在ではバジルシードと呼ばれアジアンスイーツに用いられることも多いです。

地中海料理では葉を用いたジェノベーゼソース(バジルペースト)が知られています。カジュの畑でも毎年植えていて、バジルペーストをつくるのが夏の何よりの楽しみです。

葉は生食または乾燥したものをお茶として服用すると、抗鬱、殺菌、鎮痙、解熱、食欲増進、制吐、副腎皮質刺激、去痰発熱性疾患(風邪、インフルエンザ)、食欲不振、嘔吐、腹痛、胃腸炎、偏頭痛、不眠、倦怠、疲労に効能。外用ではニキビ、嗅覚欠損、虫刺され、ヘビの咬傷、皮膚感染症に効くとされています。日本では虫に食われやすいバジルは、トマトのそばに植えると虫食いになりません。

収穫後の夏の終わりに、畑に残った茎と根を煮出してみました。どの色もすべてを終えた命の末期を思わせる静かな色合いで、アルミで蒸栗色(むしぐりいろ)、銅で鶸茶色(ひわちゃいろ)、そして鉄で出た青白橡色(あおしろつるばみいろ)が実にクール。

夏真っ盛りの時期に葉ごとに出せば、もっと強い色合いになったことでしょう。

花言葉は「好意」「好感」「神聖 」「高貴」「良い望み」「強壮」
「憎しみ」「 何という幸運」 。
1/25 6/24 7/22 10/15の誕生花。


参考文献 / サイト

http://ja.wikipedia.org/wiki/バジル
http://ja.wikipedia.org/wiki/メボウキ
https://www.hana300.com
http://www2u.biglobe.ne.jp/~simone/more/pan/basil.htm
https://idun.exblog.jp/2280064/
https://www.takeda.co.jp/kyoto/area/plantno49.html
・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著 第99巻

 

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2019/09/12

ジュズダマ・ロザリオは璃寛茶

Juzudama01Jobs-tears (写真右→出典)

【学名】  Coix lacryma-jobi
【英名】  Job's tears
【別名】  ズズゴ、トウムギ(唐麦)、カワジュズ
【生薬名】 川穀(せんこく)/川穀根(せんこくこん) 
【科】     イネ科 

インドなどの熱帯アジア原産。水辺に生息する一年草です。
日本では稲作以前に食用としていて、稲作の伝来とともに栽培されなくなり野生化したという説があります。縄文人の主食の一つ、ということでしょうか。もともと自生していたものを縄文人が栽培していたのかもしれませんね。

学名のlacrymaはラテン語で『涙」を意味し、jobiは旧約聖書のヨブを指しています。それが英語名にも反映されていて、ジュズダマは欧米では「ヨブの涙』と呼ばれています。
ヨブ記は、神に信仰を試され数々の苦難に合い、それを乗り越えて神に祝福されるヨブの物語。このヨブさん、試練に合うたびにわんわん泣いて、最終的に「よく耐えた」と神様に褒めてもらって幸せになり、またまた号泣したという涙まみれの男。その涙、涙のヨブの物語を、涙型のジュズダマの実に連想したのでしょうか。
<<ヨブ記16章20節>>
わたしの友はわたしをあざける、しかしわたしの目は神に向かって涙を注ぐ。


そんなわけで、ヨーロッパの修道院では、この「ヨブの涙」でロザリオをつくるそうですよ。インドで貧しい人々の終末医療に身を捧げたマザー・テレサの愛用のロザリオも、ヨブの涙だったそうです。

でも、もともとジュズダマはヨーロッパにはなかったはず・・・はて。

日本を含めた東アジア各地では、このジュズダマをつないで子どもたちが首飾りや腕輪をつくる伝統的遊びがあります。これを布教のためにアジアにやってきた修道士たちが見て、涙型のジュズダマに「ヨブの涙」連想してロザリオに用い始めたのではないか・・・と推察しますが、いかがでしょう。
日本では、その名もジュズダマなので、仏教の念珠にあるかしらと探してみましたが、ムクロジはありますが、ジュズダマ製のものは見つかりませんでした。子供の遊びで終わっているようです。あまりに身近にたくさんあるものは、ありがたみを逆に感じないのかもしれませんね。

ちなみに、lacryma(ラクリマ)で思い出しましたが、ご存知ONE PIECEのドレスローザ編でヴィオラが繰り出す必殺技は「イエロ ラグリマ、目くじら!」。(で、目からクジラの形をした涙を出して、敵をやっつけちゃう) Lágrimaはスペイン語の「涙」。ラテン語圏、似ています。Hierroはラテン語でもスペイン語でも「鉄の」の意味。 鋼鉄の涙攻撃だったのか。
すみません、脱線しました。
Hierro_lacryma

ヨクイニン(薏苡仁)の名で知られるハトムギは近種。和漢三才図会には「薏苡には二種類あって、一種は殻が薄くて米が多く(ハトムギ)、一種は殻が厚く硬くて米は少なくて念珠にするとよい(ジュズダマ)」という記述が見つかります。

種子を採取日干しにして乾燥させたものを、生薬で川穀(せんこく)、また秋に根を掘り上げて、水洗い、日干しにしたものを、川穀根(せんこくこん)といいます。煎じて服用するとリウマチ、神経痛、肩こりに効果。健胃、解熱、利尿、解毒の効果があります。
慢性胃腸病、かいよう、下痢、リューマチ、神経痛、水腫、こしけ、イボとりや美肌保全にも高い効果を発揮するハトムギには及びませんが、ジュズダマを殻ごと砕いて代用にする、という記述も見当たります。

常磐にお住まいのYさんのお宅で、今年は一際ジュズダマがよく茂っているとお聞きし、まだ緑色の実がたわわについている茎葉を少し分けていただきました。
煮出すと、トウモロコシやエダマメを煮ているようなほっこりした香りが漂い、液はきれいな黄色に。
アルミで柔らかな淡黄色、鉄で海松色(みるいろ)、銅で得た力強い璃寛茶 (りかんちゃ)が特筆すべき美色。

花言葉は「祈り」「恩恵」「成し遂げられる思い」。
秋の季語。10/10・10/11・11/9の誕生花。


参考サイト / 文献

http://www.hana300.com/
http://www.e-yakusou.com/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ジュズダマ
http://www.hanakotoba.name/
https://rosary-francesca.com/note/catholic/jobs-tears/
https://pfaf.org
・「薬草図鑑」伊沢凡人・会田民雄/著 家の光協会
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「和漢三才図絵」第103巻 寺島良安 / 著


 

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2019/08/25

ミント・呪いは美しき岩井茶色

Spearmint01 (スペアミント)

【学名】  Mentha spicata L.(スペアミント)
        Mentha x piperita L. (ペパーミント=セイヨウハッカ)
      Mentha canadensis L. var. piperascens,
          Mentha arvensis var.piperascens (和ハッカ)
      Mentha japonica(ヒメハッカ)
【英名】  Mint
【別名】  オランダハッカ(スペアミント)、チリメンハッカ(スペアミント)
【生薬名】 薄荷(はくか=和ハッカ)薄荷葉(はっかよう)
【科】    シソ科

古くからハーブとして用いられているミント。葉の小さいペパーミント、葉が大きく縮れているスペアミントなどいろいろな種類があります。
スペアミントはペパーミントよりよりもハーブとして用いられた歴史は古いそうです。
聖書でハッカとされている植物はスペアミントの一種ともされるナガバハッカ(Mentha longifolia)とされています。

学名の「Mentha(メンタ)」は、ギリシア神話に登場し、呪いによりミントに姿を変えたメンテ(Menthe)の名に由来。

<<ギリシャ神話・メンテの逸話>>
冥界の王ハーデースは、ニンフのメンテの美しさに心を奪われる。それを知った妻のペルセポネーは「お前などくだらない雑草になってしまえ」とメンテに呪いをかけてしまう。それ以来この草は「ミント」と呼ばれ、ハーデースの神殿の庭で咲き誇り続けた。地上でも芳香を放ち、人々に自分の居場所を知らせるのだという。

日本には在来種である和ハッカがあります。スペアミントは江戸時代にオランダから伝わったため、オランダハッカと呼ばれていました。

和ハッカについて和漢三才図会には「薄荷は猫の酒である」という面白い記述が見つかります。猫が食べると酔うのでしょうか・・・?試したらまずいでしょうね・・・。

生薬では薄荷葉(はっかよう)。中枢抑制、血管拡張などの効果があり、芳香性健胃、かぜの熱、頭痛、めまい、消化不良、歯痛などに効能。スペアミントでも同様の効能が期待できます。

メントールの含有量は和ハッカが一番多いと言われ、「農業全書」には、和ハッカの栽培の記述があります。
文化14年(1817年)には、岡山で盛んに栽培されたとされ、その後、広島、山形、北海道などと全国で栽培されて、昭和の始めには、世界のハッカの生産量のほとんどは、メントールを多く含む日本産だったといいます(!)
その後、合成メントールが開発され、日本産の天然メントールの輸出の必要が無くなり、主力輸出品目ではなくなりました。残念ですね。来年の畑ではぜひ和ハッカの栽培に挑戦したいと思います。

スペアミントは、メントールの含有量は他のミントに比べ少ないですが、チューインガムの生産のため、今でもアメリカで大量に栽培されています。

鎌倉の野原でも、昨今スペアミントをよく見かけます。たいへん繁殖力旺盛で、夏の間は散歩のついでに摘んで、よくサンティーなどを作ったりしていましたが、今まで染めたことはありませんでしたので、この夏、初めて煮出してみました。すっきりとした涼しい香りが漂って(染場は暑かったですけどね・・・)、濃いうぐいす色の液になりました。

アルミ媒染でカナリヤ色、銅で市紅茶(しこうちゃ)、鉄で岩井茶。どれも透明感があり、堅牢です。

花言葉はミント全般では「美徳」「効能」 。スペアミントでは「あたたかな感情」。
3/16、7/21、12/21の誕生花。

◎参考サイト/文献◎

http://ja.wikipedia.org/wiki/スペアミント
http://ja.wikipedia.org/wiki/ニホンハッカ
http://ja.wikipedia.org/wiki/ペパーミント
http://www.e-yakusou.com
https://hananokotoba.com
http://www.hana300.com
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 2」 北隆館
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 3」 北隆館
・「和漢三才図絵」/寺島良安 第93巻
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社

(C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房  禁転載

 

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2019/08/04

八寸帯 「水夢想」のこと

Suimuso03Suimuso01

工房の北側の敷地は、23年前の開設当初は篠竹、黒竹、四方竹の竹やぶでした。そこにカキノキだのネズミモチだのが埋もれていて、その木も、竹やぶに埋もれる一本でした。

少し見上げる程度の若いその木には、春先からしゃわしゃわと軽やかな葉っぱが生えてきて、夏には小紫の涼し気な花がついて、秋にはビー玉大の黄色い実がたわわにつきます。調べてわかった名前はセンダンでした。わざわざ植えたのではなく、鳥が運んだ種が芽吹いて育ったようです。

葉が落ちた後も木に残る、そのたわわな実のさまが、数珠のようであることから 「センダマ」(千珠)といわれ、これが転じてセンダンの名となったという説や、実の多くついた様子を「千団子」に見たてたという説などがあるそうです。

材は細工がしやすく、建築用装飾、家具、木魚、下駄などに用いられるとか。アウチの名で万葉集にも詠まれています。

よく、「センダンは双葉よりかんばし」というので「どれどれ」と顔を寄せて匂いを嗅いでみましたが、確かにすっきりした蒼々しい香りはするものの、別段芳香というわけではないような・・・。調べてみると、この場合のセンダンとは東インド、マレーシアの原産ビャクダン科の栴檀(せんだん)で全くの別人でありました。

実は「苦楝子(くれんし)」という生薬にもなり、整腸、鎮痛薬として腹痛や疝痛(せんつう)には、煎じて服用。木の皮を乾燥させた「苦楝皮(くれんぴ)」は、虫下しになるそうです。

竹やぶはこの23年の間に少しずつ刈って、今では敷地の境界線の塀周りだけになり、畑も藍染のスペースもできました。センダンは竹の勢いが治まると気を良くしてすくすくと育ってゆき、ついには直径40cm、高さ12m程の巨木なりました。8年ほど前、春先の枝葉をアルカリ抽出して染めてみたら黄緑色が染まって、以来、春から夏にかけて折々糸を染めていました。

ところが、ある年から急に新芽が出なくなりました。「あれ?おかしいな。」よくみたら樹皮の様子もなんか、いつもと違う。妙にツルツルしているぞ。

庭師・大島親方にみてもらったら、「この木はもうだめですね。」・・・え?

原因はタイワンリス。
歯を研ぐためにセンダンの樹皮をぐるりとかじってしまったのです。木は、水を吸い上げる管が皮の内側にあるのだそうで、幹の一部の皮を剥がれたぐらいなら、いくらでも再生するそうですが、ぐるりと一周かじられてしまうと給水経路を絶たれてしまい、もう助からないのだそうです。コンチクショウ、憎たらしいタイワンリスめ! あ、樹皮は虫下しの生薬だった。うーん、ここまで敵のようにかじったのは、腹具合でも悪かったからなのか?
木はどんどん立ち枯れ状態になり、高いところの枝が次々と折れて落ちてくるように・・・。風で倒れると危ないので、決心して親方に大きな枝と幹の一部を切り落としてもらいました。

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もう、あの夏の涼し気な花は見られないのかぁ、かわいい実も集められないのかぁ。

ところが翌年の春、残った幹の先から小さな若い蘖(ひこばえ)が出ているではありませんか! 枝や幹を切ったことが刺激になったらしく、死にかけたセンダンの命に火がついたようです。みるみる瑞々しい枝葉を取り戻し、命は静かに、でも力強く蘇りました。起死回生の4文字は、まさにこの様を表しているのだと思いました。

少し取っても大丈夫そうなくらい緑の枝葉が生え揃ったので、久しぶりにこの夏、染めてみました。
アルカリ水で煮出した染液の色は、今まで見たことのない、キラキラした青春の輝きと、再び水を蓄えた喜びに満ちた青々しい翡翠色!
麻糸を浸すと、透明感そのままに、すうっと、翡翠色は糸に移ってゆきました。

クサギで染めたちょっとヲトナな緑の糸や、ナンテンの銀色、化学染のスカイブルーの糸などにも加わってもらって、8寸の単衣帯に織り上げてみました。
身につけている人にも、それを見た人にも、涼を感じてもらえますように、気持ちの滞りをすっと流してくれますように、そんな願いを込めて。

昨日、伊と彦さんに納品しました。お手にとってご覧いただき、復活のセンダンの命を感じていただければ幸甚です。

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