2017/10/23

ケンポナシ・お酒もびっくりの伽羅色

Kenponashi1 Kemponashi ←シーボルトのスケッチ
写真出典
   

【学名】   Hovenia dulcis Thunb.
【英名】   Japanese raisin tree, Chinese raisin tree
【別名】  シテンポナシ(手棒梨)、ケイキョシ(鶏距子)、モクサンゴ(木珊瑚)
【生薬名】  枳椇(キグ)
【科】   クロウメモドキ科

 

日本では北海道から九州まで、さらに朝鮮半島、中国に分布。
学名のHovenia は、オランダ人宣教師の名にちなみます。
またdulcisは、ラテン語で「甘みのある」の意。

初夏に白い小花が集まって咲き、花が終わると赤みを帯びた実がつきます。この実が干しブドウのようであることが、英語名の由来らしいですね。
この干しブドウ状の実をつける枝先が、指のような膨れる。これを、ハンセン病におかされて曲がった指に似ているとみて、その曲がった指をテンボウ、テンポなどと呼んだことから、テンボノナシ→テンボナシ→ケンポナシになったという説があります。
実よりむしろこの枝先(果柄)が食用となるところがおもしろいっ!

シーボルトも「日本植物誌(フローラ・ジャポニカ)」に大変精巧なスケッチとともに詳しく書いています。
「遠目にはヨーロッパの西洋梨にそっくり-(中略)-花が散ると、花序の枝が肥厚し、やがて肉厚になる。これを食べることができるが、甘く良い香りがして、イナゴマメの風味か、ベルガモットの風味によく似ている。-(中略)-(煎じたものを)酒に酔わないよう飲んでおく予防薬として大変評判がよい」などの記述。

実際、秋に多肉質の果柄を集めて日干しにして乾燥させたものを生薬で「枳椇(キグ) 」といい、煎じて服用すると二日酔いに効くことが知られています。

和漢三才図会にも「ケンポノナシ」の名で興味深い記述が見つかります。
「実(※恐らく肥大した枝先を含む)は渇きを止め、煩(心臓部の熱気で苦しい状態)を除き、隔(横隔膜?)上の熱を取り去る。五臓を潤し大小便の通じをよくする。効能は蜂蜜と同じ。枝葉を煎じてつくった膏(あぶら)も同様。よく酒毒を解する。」とあります。
さらに衝撃的なのは、「もしこの木を柱にすると、その室の中の酒はすべて味が薄くなる。この木の 一片をあやまって酒甕(さかつぼ)の中に落とすと、酒は水に変化してしまう。」って、ほんとですかいっ!

夏に、市内の方から剪定した枝葉をいただく幸運を得ました。煮出してみたところ、華やかな甘酸っぱい香りが広がりました。たしかにベルガモットを彷彿とさせます。

柔らかな朱鷺色の染液となり、アルミ媒染でその色をほぼとどめて伽羅色 (きゃらいろ)から枇杷茶(びわちゃ)、銅で枇杷茶 、朽葉色(くちばいろ)、鉄で空五倍子色 (うつぶしいろ)、海松色(みるいろ)。

秋の季語。

参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/ケンポナシ
http://www.e-yakusou.com/
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 2」 北隆館
・「和漢三才図絵」/寺島良安 第88巻
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社
・「シーボルト日本植物誌 <本文覚書篇>」八坂書房

(C) Tanaka Makiko    たなか牧子造形工房  禁転載

| | コメント (0)

2017/08/03

鎌倉染色彩時記・訂正箇所一覧

2015年に出版いたしました「鎌倉染色彩時記」に多数の間違いが見つかりました。

これはひとえに作者の確認不足によるものです。ご購入いただきました方々には、心よりお詫び申し上げ、ここに訂正させていただきます。

   たなか牧子

【 誤字・誤植 】

・P10 目次の下段53番  以外と  → 意外と
・P13   目次の上段193番  4. 煤染について → 媒染について
・P136「キンモクセイ」、P137「ヒガンバナ」の色見本に媒染の名前が欠落しております。それぞれ右から「アルミ」「銅」「鉄」です。
・P174 ユーカリの記述 5段落目 アポリジニ → アボリジニ
・P193 ◎綿の精錬 5行目末尾の文字が消えています。正しくは「もの」。
・P204の薬酒材料名 2段目  アンズアンズ → アンズ

【 内容の誤り 】

・P138 ザクロの科 ミソハギ科 → ザクロ科
・さくいん タンポポ  P22 → P16
・さくいん ハルジオン P16 → P22
・【重要】P197 藍の乾燥葉による染め方レシピの中で、使用する炭酸ソーダとハイドロサルファイトの量が液量の10%となっていますが、1%の誤りです。また、手順の番号が微妙にずれています。順番に作業を行えば間違いは起こりませんが、含んでお読みください。

【 本作・イラストレーターについて 】

本作でイラストを担当してくれたイラストレーターの名前が欠落しています。
エッセイ、染め方レシピのページに素晴らしいイラストを提供してくれたのは「はまぐり涼子」(吉澤涼子)さんです。
◎はまぐり涼子
天才的に画力に加え、飛び抜けた文章力も持ち合わせるイラストレーター、ルポライター。
鋭い観察力で日常の何気ない出来事から大切なエッセンスを抜き出す、天性のフットワークのよさを活かして国内外をまめまめしく旅をして、優しい視点で切り取る、などを得意とする。
作品はHPFBで見ることができる。
シネスイッチ銀座映画絵日記、カジュ・アート・スペースの会報誌カジュ通信でもコラムを担当。
鎌倉市在住。

| | コメント (0)

2017/06/06

ササゲ・恥じらいははじめだけの薄黄色

Sasage02 Sasage01

【学名】  Vigna catiang Endl. var. sinensis King  Vigna unguiculata
【英名】  Cowpea,  Black-eyed pea(白色ササゲ),  Asparagus bean
【別名】  大角豆(たいかくず=ささげ)、ミタビ、 ササンキ(アイヌ語)
【生薬名】  豇豆(とうず)
【科】   マメ科

中央アフリカ原産のものが、中国を経由して9世紀に渡来。
ツル性のものと、ツルのない直立するものがあります。

「大角豆」の字を当てるのは、豆の端が少し角ばっていることから。
「ササゲ」という名前の由来については、細いサヤを小さな牙に見立てて「細々牙」とした、あるいは、若いサヤが、物を「捧(ささげ)る」かのように上を向いているから、など諸説。

欧米では、食用ではなく、主に土壌改良のために栽培されていて、英語名cowpeaは恐らくここからきているのでしょう。

日本で生産されている豆はほとんどが赤色ですが、輸入豆には「ブラックアイ」と呼ばれる白色で臍の周辺部分だけ黒いものや、褐色、黒色のものもあります。(沖縄で作られている「黒小豆」は、実は黒色のささげ。)

関東では、赤飯にはアズキの代わりにササゲを用いることが多いです。これは、アズキが、煮たときに皮が破れやすいため、「腹切れ」→「切腹」という連想を生み、武家の間で嫌われて、煮ても皮が破れないササゲの方を用いるようになったからだそうです。

和漢三才図会には「腎を補い、胃を健やかにし、営・衛(いずれも東洋医学独特の考えによる、脾・胃で消化された栄養物質)を整え、頻尿や下痢をとめる」とあります。また「汁に煮て飲むと、鼠莾(そぼう=ハシリドコロ Scopolia japonica Maxim.強力な毒草)の毒を解する」とも。

一昨年、裏庭の畑に植えて、ひと夏、たくさんの豆を楽しみました。はじめのうち、モノを捧げているような健気な姿の豆も、次第に下を向き、それはそれは堂々と、ふてぶてしく、長々とぶら下がります。こう言っては何ですが、恥じらう乙女が月日を重ねて、押しも押されぬ無敵のおバタリアンになっていく様を見るようでございます。ちなみに豆の味はバツグン。

その、畑に植えた「つるありささげ」を、収穫後に全草を煮出してみました。マメ科独特の甘い香り。アルミで明るい黄色、銅で明るい草色(ウールは翡翠色)、鉄で海松(みる)色、麹塵色。 花言葉は、「恥じらい」。 花は晩夏の季語、実で秋の季語。

参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/ササゲ
http://www.mame.or.jp
http://gkzplant2.ec-net.jp
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著 第104巻
・「薬草図鑑」伊沢凡人・会田民雄/著 家の光協会
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社

| | コメント (0)

2017/06/04

トウモロコシ・世界のキーワードは蒸栗色

Tomorokoshi01

【学名】  Zea mays L.
【英名】  Corn, Maize
【別名】  トウキビ、コウライキビ、サツマキビ、ナンバン
【生薬名】 玉蜀黍(ぎょくしょくしょ)
      南蛮毛(なんばんもう=ヒゲ)
      玉蜀桼蕊(ぎょくしょくきずい=ヒゲ)
【科】    イネ科 

世界三大穀物(小麦、米、トウモロコシ)のひとつ。熱帯アメリカ原産。コロンブスがアメリカ大陸を発見した際、カリブ人が栽培していたトウモロコシを持ち帰ったことでヨーロッパに伝わりました。
日本には1579年にポルトガルから長崎にもたらされました。

トウモロコシの粒の数は、1本に約600~700個あるそうです。また、ヒゲの数は粒の数と一致するそうですよ。

トウモロコシのヒゲは古くから知られた漢方薬で、利尿、腎機能の改善、むくみ、黄疸、肝炎、胆のう炎、胆血石、糖尿病の改善などで、薬理試験でもすぐれた利尿作用、血圧降下、末梢血管拡張作用が確認されています。また毛を発酵させたものには、顕著な血糖降下作用が認められています。

トウモロコシ油(トウモロコシの胚芽からとった油)は、リノール酸が約60%含まれ血圧降下、高血圧の予防や軟膏の基剤、注射薬の溶剤に使用されています。

和漢三才図会にも「古(むかし)は我が国にはなかった。蛮船が持ってきた。顆々(つぶつぶ)がむらがりあつまり、(中略)黃白色で焼き炒って食べる。白い花の形にはぜさけて、はぜたもち米の状(さま)に似ている」と 、ポップコーンのように食べていた様子が書かれています。また、根や葉を煎じて服用し尿路結石を治すという記述も見当たります。

19世紀半ば、肉質の硬かったロングホーンに代わって、肉質の柔らかいアンガスという肉牛が普及しました。
しかし、その肉質を柔らかくするには、それまで牛の餌だった「草」に代わって、トウモロコシやダイズなどの「穀類」を大量に与えなければならないのだそうです。

1997年のデータですが、その年生産されたトウモロコシは6億トン。そのうちのなんと4億トンが家畜飼料になっていました。(今は生産量、飼料ともにもっと多いことでしょう)
当時の世界人口はおよそ58億(2015年現在で73億強!!)、そのうち8億が飢えで苦しんでいると言われていました。もし、家畜に回されているトウモロコシのわずか10%を食用に回すことができれば、この飢えの問題を解決できたそうです。

飼料だけでなく、トウモロコシはバイオ燃料の原料にも使われていて、飼料問題と合わせて、早急な代替え案が必要だと思います。食べられない人がいるのに、柔らかい牛肉でもないもんだ。

肉、硬くもいいぢゃないですかねぇ。日本には様々な「発酵の知恵」があるのです。いくらだってお肉を柔らかくする調理法はありますわ。

裏庭の畑に飢えた4株のトウモロコシ。収穫が終わった茎葉を煮出してみました。アルミで蒸栗色(むしぐりいろ)、銅で根岸色(ねぎしいろ)や鶯色、鉄で利休鼠

花言葉は、「洗練」「デリカシー」「財宝」「豊富」「同意」。
8月4日、8月7日の誕生花。

参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/トウモロコシ
http://www.hana300.com/
http://www.hanakotoba.name/
http://www.language-of-flowers.com/
http://www.e-yakusou.com/
・NHKスペシャル 世紀を越えて  豊かさの限界  第1集 「一頭の牛が食卓を変えた」
・「和漢三才図絵」/寺島良安 第103巻
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社

| | コメント (0)

シラン・アジアンビューティーな草色

Shiran01

【学名】  Bletilla striata Rchb.fil
【英名】  Hyacinth orchid
【別名】  ベニラン、ケイラン
【生薬名】  白及(びゃくきゅう)
【科】      ラン科

学名の「striata 」はラテン語で 「縞模様」の意味。葉に筋が立っている様子からでしょうか。「Bletilla」(ブレティラ)は、スペインの薬剤師の名前から。

ラン科の多年草。観賞用に栽培されてきましたが、関東以西には自生もみられます。ただし、近年では自生種は近年危惧種となっています。
春から葉が出始め、茎が立ち、初夏に東洋蘭独特の可憐な赤紫色の花をつけます。香りはあまりないですね。栽培種には白や黄色の花をつけるものもあるそうです。地下には少し偏平な形をした仮鱗茎があって、1年ごとに1球づつ増えていきます。 ちょっと油断していると、自宅の庭で、しずかーに勢力を広げています。

鱗茎(りんけい・白きゅう)を8~11月頃に掘り採り、茎、ひげ根を除き、水洗いした後、蒸して(または熱湯をかける)から外皮をはいで、天日で乾燥させたものを生薬で白芨(びゃくきゅう)と呼びます。噛むとやや苦い味がするんだそうです。
粘液質が多く皮膚や粘膜を保護する作用があり、保護により痛みを止めたり、腫れを治したりします。また、内外出血にも止血作用があり、喀血、止血、鼻血、胃、腸の穿孔にも用いられるそうです。外用には、火傷には粉末を油、あかぎれには水で練って塗るとよいとか。おお、領土拡大勢力を少し抑える意味でも、試しにちょっと根を掘ってみますか!

これみよがしな派手さはないものの、東洋蘭のきりりとした美しい容姿に、隠れた高い効能・・・このアジア美人、なかなかやりおる。

花盛りのときに全草を採取して煮出してみました。特筆すべきはアルミ媒染のウールの鮮やかな黄色。銅媒染で草色、鉄で柔らかな柳茶木蘭色

花言葉は、「あなたを忘れない」「お互い忘れないように」「美しい姿」「変わらぬ愛」「薄れゆく愛」。
夏の季語。 5月6日の誕生花。 

参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/シラン
http://www.e-yakusou.com/
http://www.hana300.com/
http://www.hanakotoba.name/
https://lovegreen.net/languageofflower
・「和漢三才図絵」/寺島良安 第93巻
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房

(C) Tanaka Makiko    たなか牧子造形工房  禁転載

| | コメント (0)

«コデマリ・ラインダンスは璃寛茶(りかんちゃ)