イロハカエデ・黒
工房の南西にある推定樹齢150年のイロハカエデの木。
カエデには100を超える種類があるそうですが、関東以西では、カエデといえばほとんどがこのイロハカエデです。
俗にいう「もみじ」は紅葉している葉のことを総称する言葉だったようですが、紅葉の王様と言えばカエデ、いつしかカエデ=もみじ(紅葉)ということになったようです。
工房のある鎌倉市二階堂の、瑞泉寺や永福寺跡地のまわりには、イロハカエデが多くみられます。
天園ハイキングコースの脇道に獅子舞の谷とよばれるイロハカエデの群生地があって、紅葉の時季には、谷全体が赤く染まるといわれています。(このごろは、カエデが減って別の木がおおくなったり、温暖化のせいか、紅葉が進む前に葉が枯れてしまうケースが多いようだけど・・・)
鎌倉には谷戸(やと)=山ひだの奥まったところが多く、地名にも「谷(やつ)」のつくものが多くありました。現在でも残っているのはわずかで、扇ヶ谷、亀ヶ谷ぐらい。
昔はそのほかに、悲劇の比企一族ゆかりの「比企ヶ谷」、十六夜日記ゆかりの「月影ヶ谷」などがあり、この界隈は、「紅葉ヶ谷」と呼ばれていました。
木へんに風。「楓(カエデ)」は、たしかに、どんなに大木であっても、重たい印象はなく、風がいつも枝葉に戯れている感じです。
工房の建物は、真西に玄関があり、南が「陽」、北が「陰」の風情です。その「陽」の象徴のようなカエデの木、10年前に初めて染めてみましたら、錫媒染で渋い芥子色、鉄媒染では、なんと、漆黒が出ました。昔から黒を染めるのに有名な夜叉玉よりしっかりした黒。これにはびっくり。黒は出にくい色なのです。
ちなみに「陰」を連想させる、コケ類やシダ植物は北側に多いのですが、このコケ類の中には、韓紅(ショッキングピンク)を染め上げるものがあったりします。ちょっとしたパラドックスでしょ?
化学染色と違い、植物から得られる黒には、犯しがたい気品のようなものがあります。決して、「死」や「忌み」を連想させることはなく、森羅万象を言祝ぐ力さえ備えています。
以来、季節に関わらず、よく染めている染材のひとつですが、時期、その日の天候で、毎回色が違います。
今回、今年の秋冬用にプロデュースした絹のスカーフは、珍しく赤味が強く、あたたく深い焦げ茶色になりました。和名でいう赤墨(あかすみ)色というのがぴったりな感じです。まさに鎌倉の大地の色。
この色をみていると、日々の雑事に振り回されてあわあわしている浮ついた気の重心が、すっと丹田に落ちてくれる感じがします。
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