ススキ・風立つ鮮黄色
イネ科の植物、ススキ。
今年、鎌倉界隈では穂が開くのが遅かったように思います。
野原で見かけるイネ科の植物には他にオギ(荻)、カリヤス(刈り安)などがありますが、どれも、アルミや錫の媒染で、美しい様々な黄色が出ます。
総称して茅(カヤ)ともよばれます。そう、茅葺き屋根のカヤです。
鎌倉にも十二所(じゅうにそ)に一軒、茅葺きのお家がありましたが、年々傷みが激しくなって、どんどん朽ちてゆくのを見るのはつらいものがありました。
今では、カヤを集めることも、それを屋根に組む人手を集めることも不可能になってしまいましたから、修復には莫大な費用がかかると言います。
昔は、定期的に草刈りをして、茅野(かやの)を意図的に村のそこここで維持していたそうです。
野原は、人が手を入れませんと、どんどん「成長」してしまい、林から森へと変遷していきます。
その里山の林や森も、人が上手に利用することによって健康な状態が保たれるのですが、今では、そこにある豊富な資源が、私たちの日常生活で生かされることは、ほとんどなくなってしまいました。
資源は身近なところにあるのに、わざわざそれに代わる石油製品を買っているのですからほんと、もったいないことです。
そんなことを思いながら、毎年、夏の終わりから晩秋にかけてススキから色をいただいています。
写真は、瑞泉寺にほど近い永福寺(ようふくじ)の跡地のススキ野です。
ここは、定期的に市が刈り込みをするので、「野原」の状態がうまく保たれています。
10月の初旬から晩秋にかけて時々、葉っぱをいただきにいきます。
ここのススキ野には、ススキと一回り大きいオギが混在しています。
オギは、葉っぱが短く、穂が少し赤味を帯びています。
開ききる前の穂には独特のつやがあって、そのころの風のわたる野原のさまは、プラチナ色の波が幾重にもたなびく絶景です。
そんな息をのむほど美しいすすき野も、もう、あるのが当たり前ではありません。
私たちが意識して残していこうと思わない限り、年々確実に失われてゆきます。
※永福寺あとのススキ野は、2017年、永福寺あとの復元事業により、姿を消しました。
さて、ススキは秋の月見のおそなえとして欠かせないアイテム。
中秋の名月を鑑賞する習慣は奈良時代に中国から伝わり宮中行事となったらしいです。醍醐天皇が延喜9年(909年)に月見の宴を開いたという記述が『中右記(ちゅうゆうき)』の中に出てくるのがお月見の最古の記録です。
旧暦8月15日に「十五夜」を、9月13日に「十三夜」をセットで勧月するのが本来の習わしで、片方しか勧月しないことを「片月見」といい、縁起がよくないとされていました。
これとは別に庶民の間では、秋の収穫の祝いとして、月の神に感謝を捧げる行事があったのですが、これが今の月見の原型となりました。中秋の名月を別名「芋名月」と呼ぶのは、この秋の収穫の祝いに由来します。
中国・台湾では「中秋節」は祝日になっていて(すばらしいっ!)、月餅を食べながら盛大に鑑賞します。
日本では、月が出てくる方角へ、机や三方などを置いて、 その上に月見団子、御酒、サトイモ、枝豆(これは十五夜の月を「豆名月」といったことに由来)など秋の収穫物を備え、 それと一緒に秋の七草↓
・萩(ハギ)
・薄(ススキ)
・撫子(なでしこ)
・葛(クズ)
・女郎花(オミナエシ)
・藤袴(フジバカマ)
・桔梗(キキョウ)
を飾ります。(全部でなくてもOK)
そのほか、月見に関する風習のあれこれ。(出典こちら)
↓
・お供え物として全国的に見られるのが、サトイモ等の芋類。これは、中秋の名月がサトイモの収穫祭の性格を持つことから。
・供えたススキを家の軒に吊るしておくと一年間病気をしない、という言い伝えが全国に分布している。
・南九州や沖縄などでは、十五夜に綱引きをする風習がある。
・軒先や玄関に月見団子を縁側にお供えし、それを子どもたちが盗み食いする「お月見どろぼう」という風習が全国にある。
団子は多く盗まれた方が縁起がよいとされる。最近では、子どもたちにお菓子を配るような場合もあるよう。
・お供えする月見団子の個数は、その年の旧暦の月数というのが一般的で、平年は12個、閏月のある年は13個お供えする。
染めてみますと、イネ科の他の植物に準じた色合いですが、イネ科の中でも特に強い色合いに染まります。
花言葉は「勢力」「隠退」「悔いなき青春」「心が通じる」「生命力」「憂い」「なびく心」
9/15・9/29・10/22の誕生花。
◎参考サイト / 文献
・http://ja.wikipedia.org/wiki/ススキ
・http://www.hana300.com/
・http://www.e-yakusou.com/
・http://newpfaf.webhost4life.com/user/default.aspx
・http://plantdb.ipc.miyakyo-u.ac.jp/
・http://www.sci-museum.kita.osaka.jp/~kazu/tsukimi/newtukimi.html#one
・「学生版 牧野日本植物図鑑」 牧野富太郎/著 北隆館
・「続・草木染め 染料植物図鑑」 山崎青樹/ 著 美術出版社
・「季節の野草・山草図鑑」高村忠彦/監修 日本文芸社
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