ウメ・色は夜香る
ウメ。バラ科サクラ属の落葉高木です。
学名にPrunus mume、とありますが、どうも江戸時代には「むめ」と呼ばれていたようです。
カジュ・アート・スペースのすぐ隣には荏柄(えがら)天神という、小さな天神さまがあります。なんでも、日本三大天神社のひとつといわれ、吾妻鏡にも名前が出てくるほどの由緒ある天神さまで、祀られているのが菅原道真公であることから、社紋も梅、境内の梅も有名で今ちょうど見頃です。
中国の長江流域が原産で、日本には8世紀半ばに渡来したそうです。暖かい長江流域で培われたDNAのせいで、寒い日本でも1,2月に律儀に花をつけますが、虫も少ない時期ですから、日本での受粉はさぞ大変なことでしょう。えらい。
白梅、紅梅のほか、アンズと掛け合わせてできた豊後(ブンゴ)ウメがあり、こちらはかわいい薄紅色の花が咲きます。実が大きく、梅酒に最適。
カジュには3本の豊後ウメがあり、毎年梅干しにしています。
ウメの枝葉は、よく染色に使っています。皮をつかうと赤味の強いベージュが得られるといいますが、私は、剪定した枝を丸ごと使っています。白梅も紅梅も豊後も、さほど結果に差があるとは思えませんが、どれもたいへん不安定で、採取の季節、気候、煮出す時間などによって、同じ木の枝をつかっても、、違う色になります。
白梅と紅梅は、枝の外見はまったくおなじですが、紅梅は輪切りにすると、芯に赤い部分があります。ここだけを集めて染めると赤が染まると聞きましたが、気の遠くなるような作業で、試したことはありません・・・。
土曜日の染めの教室で、稲村ケ崎のあるお宅で剪定された若い白梅の枝を煮出してシルクとウールの糸を染めました。すず媒染で、シルクはうつくしい淡い朱鷺色、ウールはアプリコットオレンジに染め上がりました。
今でこそ、日本人が「花」といえば「さくら」と決まっていますが、平安時代以前はウメを指すことも多かったそうです。
高校の古典の先生には、中国で「花」といえば「もも」だと聞いていたのですが、「いや、ウメだよ。」と北京出身の中国人の友人に言われたことがあります。地域によるのかな。
ウメの花が開花しますと、鎌倉の路地は、夜、何とも言えないほのかな香りに包まれます。そう、なぜか夜なんです。
煮出しているときも、甘い香りが漂いますが、それとはちょっとちがうような・・・。
言葉ではとても言い表せない曖昧で、何かの拍子に壊れてしまいそうな繊細な香り。それを先人は「夜来香」と言いました。そう、ちょっとしたことでころころ変わってしまう、その染めあがりの色のような香りです。
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