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2008/03/08

告白、官能の "ごっこ"

Nurse

私は工房の棚の引き出しに、実は聴診器を隠し持っています。小児科医さんが使うホンモノです。

むかーし、むかし、医療機器メーカーのカタログで通販で買いました。
何に使うのかって? 野暮なことを聞きなさんな。お医者さんごっこに決まっています。

聴診器には、不思議な魔力があります。これをくるっと首に下げるだけで、なんか「怖いもの知らず」になれる気がするのは、私だけでしょうか。

お医者さんは、これを患者の体にあてて、体の「内なる声」を聴くわけですが、病気を見つけるという使命感をさておくと、これは、イケナイ扉をこっそりあけて秘密を知るような官能的なスリルがあります。
では、これでなんの秘密を探るかというと、最近の私の相手は、もっぱら「樹木」です。

カジュの守護神イロハカエデの木の幹に、そっと聴診器をあてると、実にいろいろな「声」が拾えます。

もともと、木が大地から水を吸い上げる音が聞こえるという話を聞いて、どうしても試してみたくて始めた事なのですが、やってみると、聴診器の性能が良すぎることと、人間の出す様々な音が満ちていることが原因で、そんな繊細な音はほとんど聞こえません。私たちの生活では、「完全な闇」と「完全な静寂」はもはや失われてしまっています。

でも、木を通して聞こえるそんな音もけっこう面白いのです。遠くの車の音、子どもの声、水道の蛇口をひねる音、人の足音、ラジオやテレビの音・・・。

カジュの建物の中で小さな音でCDをかけているとき、窓をしめきって庭に出ると、その音は全く聞こえません。ところが、カエデの木に聴診器を当てると、びっくりするほど鮮明に、音楽が耳元に流れてきます。
カエデの木は、実は毛細血管のように広く、深く根を張っているのです。以前、水道工事をしたときに工夫さんがとても苦労していたのを思い出しました。その根がどうやらアンテナの役目をしているらしい。
つまり、このカエデの大木は、約80年間、この家の住人たちの人間模様をずっと聞いてきたわけです。カジュがオープンしてからは11年間、ずっと私たちの営みを、その身に受け止めてきたのだなぁと思うと、なんだか、もう抱きしめずにはいられません。ぎゅっ。
官能の行為が愛に昇華した瞬間です。(笑)

ひょっとして、聞こえている音の中には、「過去」の記憶もあったりして・・・。

何年か前の夏、久しぶりに雨が降った翌日の早朝、もしかして、と思ってそっとイロハカエデを「診察」したことがあります。自分を限りなく音無しの状態に集中させたとき、「じゅるじゅるじゅるじゅる・・・」という音がかすかに聴こえました。確証はないのですが、あれが水を吸い上げる音だったのでは、と思います。

なんだか、「生きている」ということを、もっとも根源的な形で感じた一瞬でした。

最近しばらく、引き出しにしまいっぱしにしていたので、今年の春は、野山歩きのときは持ってでようかと思います。

聴診器は、あてるのもいいけど、「あてられる」のも快感ですよ。
さて、あなたはお医者さんごっこでは、お医者さん派? 患者さん派?

私は、最近、「ナース」というポジションに興味津々です。

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