おつるのお道具・筬(おさ)
織物の経糸(たていと)の密度と幅をきめるのが「筬(おさ)」です。
日本の織り機では、この筬が大変精巧にできていることが大きな特徴です。世界でもその精巧さは最高水準。
竹を薄く削った羽(は)=リードが決められた密度にきれいに並んだクシのようなものです。
日本の機でこの筬が発達した背景には、竹が身近にあったことと、優れた刃物をつくる伝統技術があったことが挙げられます。
この筬の密度が細かければ細かいほど、薄くて繊細な織物が織れるわけですが、そのためには竹のリードを正確に薄く削る必要があります。日本の伝統的な刀鍛冶の技術は、このリードを削れる優れた刃物をも造り出していました。
私は今でも織るときに尺寸を用いています。和裁師と織人だけが使う「鯨尺(くじらじゃく)」では1寸が3.78センチ。(ちなみに、大工さんが使う曲尺は一寸は3.03センチ。鯨の一寸のちょうど8割。)
10寸で1尺です。この1寸の中に何羽あるかで筬の番号が決まっています。
例えば「20羽の筬」なら1寸に20のすき間がある筬、ということです。慣れてくると、カラダにやさしい単位なので、なかなか使い勝手がよろしい。着物を織る場合によく使われる筬は、45 - 60羽の筬。幅は1尺5分程度です。つまり約900〜1200本ほどの経糸がセットされるわけです。
残念ながら、ついに竹の筬は新品では手に入らなくなってしまいました。技術を受け継ぐ人がいなくなってしまったことと、手間がかかるので値段が高く、安いステンレスの筬にとってかわられたことが理由です。
でも、ステンの筬は羽が混むと重くなってしまうので、打ち込みに余計なチカラがかかってしまって、繊細な織りの場合、あまり都合がよくありません。
今、鎌倉/逗子/葉山の竹林は竹の利用がなくなって、荒れ放題。近隣の雑木林にも様々に害を与えているとききます。
日本は、ずっと竹を上手に生かすことで、美しく豊かな暮らしを作ってきました。それを加工する「手間」も楽しみとしながら。
「竹が成り立つ」で「筬」。 その心、取り戻したいものですね。
※カジュ通信2008年秋・冬号より
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