サンゴジュ・鎌倉の柿色
サンゴジュ(珊瑚樹)。別名ヤブサンゴ、ヤマジサ、イヌタラヨウ、シマタラヨウ、メタラヨウ、アワブキ・・・。 スイカズラ科のガマズミ属に所属の常緑広葉木。
今まさに、白い小さな花が房状についているのが見られます。それが秋になると赤い実の房となります。その様が珊瑚玉をつないだように見えることからこの名があるのです。
鎌倉市西御門の近所のお宅が剪定をしていたので、その枝葉をいただいて染色。今回は濃染処理した綿糸を銅媒染で染めてみたところ、伝統色でいう「柿色」になりました。秋から冬にかけてのかたい枝葉で絹を染めるとさらに濃い赤になることもあります。
ビワやピラカンサと同じく、赤味を強くするには弱火で長時間(3時間以上)煮出し、できれば一晩染液を寝かせる方がよいようです。
ちょっと厄介なのは、染液に独特の臭さがあること。なんといいましょうか、ションベン臭いんですよ。これが染めたものにもしばらく残るので、できればしっかり日干しで乾かした方
がいいですね。でもまあ、染め人は「あか」が染まるのなら何だって我慢できます。
今回染まった柿色は、別名「団十郎茶 (だんじゅうろうちゃ)」ともいいます。
柿渋に弁柄(べんがら)という鉱物(酸化鉄)の粉を混ぜて染めた色のことで、代々歌舞伎の市川團十郎家に伝わる色です。
江戸時代に五代目市川團十郎が狂言『暫』でこの柿色の素襖を着たことから大流行しました。
一昔前までは、鎌倉はこのサンゴジュの生け垣があちこちに見られましたが、最近はめっきり減ってしまいました。きれいに刈り込まれたサンゴジュの生け垣の連なりは、鎌倉の路地の魅力の一つでした。
虫がつきやすいのが難点ですが、艶のある硬質の葉は一年中蒼々として、町に落ち着きのある美しさを与えます。
「手間がかかる」という理由が、人間に実にいろいろなものを発明させ、たいそう便利な世の中になりましたが、その「手間」がもたらす豊かさというものもあるわけで、垣根は絶対生け垣がよいです。伸びたら伐る、この手間がいいんですって。そこには愛のある街並ができます。
みんなでちょっと勉強して、手入れの方法を学んで、また鎌倉にサンゴジュの生け垣を増やすことはできないでしょうか。
人生とは、与えられた時間に手間をかけること。そこを楽しんでいきたいと思います。
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このサイトを書くにあたっては、以下のサイト・文献を参考にしました。 |
・岡山理科大学 総合情報学部 生物地球システム学科 植物生態研究室HP
・株式会社 科学技術研究所(かぎけん)
・跡見群芳譜巻二 樹木譜
・「続々・草木染め 染料植物図鑑」 山崎青樹/ 著 美術出版社
・「よくわかる樹木大図鑑」平野隆久/著 永岡書店
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