くずし模様
大学の織りの授業では、それはそれはたくさんの見本帳を作らされました。縞帳、格子縞帳、平織り変化、綾織り変化・・・。
来る日も来る日も、考えつく限りのバリエーションを織り続け、それをスクラップしてゆく・・・。はっきり言って、当時は退屈の極みでしたが、それが30年近く経っても役に立っているのですから、ありがたいです。
その中に「くずし帳」というのもありました。紺と白の2色、つまり、コントラストの強い2色の糸を、同色3本以下の細かい縞にして、同様に3本以下のリズムで緯糸をいれてつくる、細かい格子の模様のことです。
例えば、白、紺、紺、白、紺、紺、白、紺、紺 とか白、白、紺、白、白、紺、白、白、紺 とか。
実はなぜこれを「くずし」というのかが長年の謎でした。学生当時、教授に尋ねたのですが、これという答えを聞くことはできませんでした。
冲方丁さんのベストセラー「天地明察」、これを原作にした同名映画をみて、はじめて「おおっ!」思いました。これは、江戸時代の算術(日本独自の数学)に関わる人たちの情熱の物語なのですが、この中に、そろばんと並んで、当時の算術家にとって、とても重要だった「算盤」というものが出てきます。
この算盤は、6〜7世紀に中国から渡った計算道具で、赤と黒の「算木」と呼ばれる小さな角柱の木片を、ある規則に従ってタテ・ヨコに算盤に並べて使います。
使い方をマスターすると、なんと多次元方程式が解けるといいますから、びっくり!! おもしろそー、習いたーい!
さて、その計算中の、算盤に並んだ算木の様子を見ますと、これが「ぐずし」にそっくり!
もともと「くずし」は、「算木くずし」というのが正しい名称で、国語辞典を引きますと、「くずす」には「形・様式・模様などを簡略化すること。」という意味が出てきます。 まさに算盤に並ぶ算木の様子をデザインしたものだったのです。
写真いちばん左上が、いわゆるいちばんポピュラーな算木くずしで、これを織りで表す時は、A.白、紺、白、紺と2色を一本おきに何回か繰り返し、次はB.紺、白、紺、白と色の順番を逆にして繰り返し、A と Bを繰り返します。これに全く同じリズムで緯糸を入れますと、あら、不思議、まるで算木を並べたような模様になるのです!
これもまた、江戸時代の生活の中から生まれた模様だったのですね。
「天地明察」では、主人公の岡田准一くんが、かっちょよく算盤を使いこなすシーンが出てきます。岡田くーん、らぶっ。
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