リンゴ・愛と希望と命の淡香色
【学名】 Malus pumila Mill.(ワリンゴ) Malus domestica (セイヨウリンゴ)
【英名】 apple
【別名】 ブンリンロウカ(文林郎果)
【生薬名】 林檎(りんきん)
【科】 バラ科
中国の古書「本草綱目(ほんぞうこうもく・1596)」には、「林檎(りんきん)の果は味が甘く能く多くの禽(ことり)をその林に来らしむ。故に林檎(りんきん)、来禽(らいきん)の名がある」という記述があります。
そうか! ずっと前から「林檎」の「檎」の字、何で「禽」がはいっているのかなぁと思っていたのです。リンゴとトリのいい関係、うふふ、愛ですね、愛。
この漢語の音から和名「利宇古宇」(りうこう/りうごう)という古名が生まれ、元禄時代には、和名は利牟古(りむご)になり、享保時代に、やっと和名「りんご」になったそうです。
セイヨウリンゴは、中央アジア原産の落葉高木。
明治時代に、コーカサス原産の別種のセイヨウリンゴが渡来するまで、日本では中国原産のワリンゴが主流でしたが、現在では、接ぎ木の台木にされているだけで、実はほとんど流通していません。
比較的寒地を好むので、日本では、青森県や長野県で多く栽培されています。
2001年にカジュで、自然農法の推進、在来種の保護などに尽力されいるナチュラルハーモニーの河名秀郎氏の講演会を催したことがあります。この時、河名さんが、木村秋則さんのリンゴを持って来てくださいました。
世界ではじめて無農薬・無施肥のリンゴの栽培に成功した青森のリンゴ農家、木村秋則氏。それまで、無農薬・無施肥でリンゴを育てるのは「神の領域」といわれていて、木村氏の歩みもそれは険しい茨の道だったとか。河名さんのお話では「木村さんはね、風の通り道、周りの草の生え具合、日当り、すべてを見通して、リンゴの木を植えるんですよ。また、リンゴのほうもね、肥料やらないとなったら、自力で生き抜く力がだんだんついてくるわけ。風が通るところにははじめから実を付けなくなったりするんですよ。」
その時いただいたリンゴ、小粒ながらその密度の高さと濃厚な味に驚かされました。人の都合で自然のリズムから切り離された命の営みを、ふたたび自然に帰す・・・まさに神の領域にたどり着いた木村さんと木村さんのリンゴの木。そこまで自然とバイオリズムが同調する世界って、どんな感覚が味わえるのでしょうね。
戦後の復興の象徴として、多くの人に愛された「林檎の唄」。実は、作詞のサトウハチローさんは、戦中に、軍歌としてこの歌詞を書いたそうで、でも内容が貧弱だという理由で検閲で不許可になったんだそうです。
しかし、可憐な少女の思いを赤いリンゴに託して歌う歌詞が、戦後の焼け跡の風景や戦時の重圧からの解放感とうまく合って、敗戦によって憔悴しきった国民の心を癒される楽曲となり、空前の大ヒットになったというのですから、わからないですね。私の両親は、やはり、この歌には特別な思いがあると言っておりました。2007年(平成19年)には日本の歌百選に選出されています。
ヨーロッパの民間療法に、樹皮を煎じて服用し赤痢や腸カタル、塗布して介せんを癒す事が伝わります。和漢三才図絵には、別名について「文林郎という人が黄河の中に浮かんでいたものを植えたから」という記述が見あたります。また、「多食すると眠気を誘い吹き出物が出る」とも。
種にはアミグダリンが多く含まれているので、煎じた汁は良いうがい薬になるそうです 但し、葉っぱや樹皮を煎じた液には、糖尿病の発症を誘発するフロリジンが含まれるので服用しないように。
「桃・栗 3年、柿8年、梅は酸いとて13年、柚子は大馬鹿18年、林檎ニコニコ25年」なんてすって。リンゴが実をつけるって、すごいことなんですね。
東京の園芸療法士の友人が、練馬区の知的障害者施設で、園芸療法プログラム用に植えられていたリンゴ(種類不明)の木が、病気で枯れて切り倒されたときに、枝をとっておいてくれました。
枝に残された最後の命は、煮出すと、ほんのり甘い香りを漂わせて、淡香色(うすこういろ)から鶯茶色(うぐいすちゃいろ)
までを染め上げました。
俳諧では、花は春の、実は秋の季語。
花言葉は「選ばれた恋」「選択」「名声」「誘惑」
「最もやさしき女性に」「彼は偉く善良」。
4/8・5/11・9/29・10/30の誕生花。
参考サイト/文献
・http://ja.wikipedia.org/wiki/リンゴ
・http://ja.wikipedia.org/wiki/リンゴの唄
・http://www.hana300.com/
・http://members.jcom.home.ne.jp/tink
・http://www.e-yakusou.com/
・「薬草図鑑」伊沢凡人・会田民雄/著 家の光協会
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社
・「和漢三才図絵」/寺島良安 第87巻
・協力 : 村山恵子氏
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