ハス・染まらぬ心の薄紅(うすくれない)
【学名】 Nelumbo nucifera Gaertn.
【英名】 lotus
【別名】 ミズノハナ(水の花)、 イケミグサ(池見草)、スイフヨウ(水芙蓉)、ハチス(蜂巣)
【生薬名】 蓮実(れんじつ)=皮付きの種、蓮肉(れんにく)=皮なしの種、蓮心(れんしん)=幼芽、 蓮房(れんぼう)=つぼみ、藕(ぐう)=根茎、藕粉(ぐうふん)=でんぷん
【科】 スイレン科 (ハス科)
学名のNelumboはハスを表すシンハラ語(スリランカの公用語)。
別名のハチスは、花托にあいた穴の様子が蜂の巣に似ていることから。インド原産と考えられ、かなり古い時代に渡来しました。
鎌倉の鶴岡八幡宮の蓮池は、鎌倉幕府が開かれる10年前の1182年、源頼朝が政子の安産祈願のために若宮大路を造営した際にあわせて作られました。本殿に向かって太鼓橋を境に右が源氏池、左が平氏池。源氏池には白い蓮が、平氏池には赤いハスが植えられ、これが現在の運動会の紅白合戦の元といわれています。(今では池のハスの色は混ざっているけど・・・。)
仏教では、西方浄土の極楽は神聖な蓮の池、と信じられているため、アジアの多くの寺院では蓮池が作られています。仏教における六道輪廻の思想では、生き物の魂はその生前の行ないによって次の生の属世が決まる定めですが,ハスの花は、--いや、植物は--、そのしがらみから解放された「解脱の存在」といえるのかもれませんね。ブータンで見た六道輪廻図の吉祥界には、たしかにハスとおぼしき花や、娑羅双樹と思われる木々がたくさん描かれています。・・・ふむ、そうか、果てしない「業」と戦っているのは人間を始めとする動物だけなのですね。植物の方がずっとエライっ!
蓮の花の開花時期には、その花の周りにだけ彼岸への入り口が開くような空気感を感じます。
冥界への入り口をあけるのが曼珠沙華だとすれば、ハスはまさしく浄土への入り口をあけている風情です。「淤泥(どろ)から生え出て泥に染まらず、水中にありながら水に没しない。根、茎、花、実すべて凡百の植物と論ずべきものではない。」(和漢三才図絵)
どの部位も生薬として用いることができ、蓮実・蓮肉は強壮、止瀉(ししゃ)、鎮静、健胃、多夢、遺精、下痢、こしけには、その粉末を1日量6~10グラムを3回に分けて食間に服用するとよいそうです。きのこ中毒の解毒にも効果。若葉はお粥に炊き込むといいとか。血管を広げる働きがあり、悪玉のLDLコレステロール、βリボたんぱく、トリグリセリドと呼ばれる脂肪分を排出、血液中の血糖値を下げるとされています。
八幡宮で晩秋にハスの花が刈り取られた後、裏に放置されていた花托を、近所のお子さんが拾ってもってきてくれたので染めてみました。葉、茎、根、花托ともに、赤みの煎じ液になることは知られて いますが、繊維をさらりと素通りするような淡白な染め上がりになることが多いです。媒染の違いで薄紅色、樺色から海松茶色まで。
花言葉は、「遠くに去った愛」「沈着」「休養」「雄弁」。夏の季語。
参考サイト/文献
・http://ja.wikipedia.org/wiki/ハス
・http://www.hana300.com/
・http://members.jcom.home.ne.jp/tink
・http://www.e-yakusou.com/
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社
・「和漢三才図絵」/寺島良安 第90巻
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