ニガヨモギ・悪魔の薄荷色
【学名】 Artemisia absinthium L.
【英名】 Wormwood
【別名】 苦艾(くがい)
【生薬名】 苦艾(くがい)
【科】 キク科
学名のArtemisia は、ヨモギ属を表し、ギリシャ神話の女神のArtemis(アルテミス)に由来。アルテミスは、ギリシャ神話の処女神で、男嫌いで知られています。また狩猟、貞潔の女神でもあります。別説では豊穣と多産の神でもあり、後に月の女神にもなるという、まあ、たいそうなサービスぶり。
ヨモギは、お産を軽くしたり。生理を順調にする薬草とされていて、ということは、生理を誘発し堕胎剤になりうるということ。この特性がアルテミスの「男嫌い」の気質を連想させたのでしょうか・・・。
欧州原産。日本には幕末に渡来しましたが、あまり見かけないように思います。ヨモギによく似ていますが、香りがずっと強く、全体的に白っぽい印象がするほど、裏だけでなく、表も白い毛で覆われています。
ヨモギとは違い、全体が苦い味がするのは、苦味質アブシンチンを含むためで、苦艾(くがい)
という別名はここから生じました。強い芳香があるのは精油を約2%も含むためで、その主成分はツヨン(thujone) 。
この「ツヨン」が、なかなかの曲者。
18世紀のスイスの医師が、薬として、このニガヨモギで蒸留酒を作る方法を発明。これが後にフランスの酒造メーカーによって商品化され、「アブサン」として19世紀にヨーロッパで大ブレークするのです。ツヨンには、強い幻覚作用や多幸感を引き起こす作用があって、アブサンは、19世紀の多くの芸術家たちに愛飲され、ひきこもごもの物語を生みました。引き込まれそうな、美しい緑色のお酒です。
詩人ヴェルレーヌやランボーも愛飲者で(ふたりの破滅的な愛を綴った「太陽と月に背いて」には、ふたりがアブサンに魅せられ、浴びるように飲む様が描かれています。)、作品にも頻繁に登場します。太宰治の「人間失格」にも出てきます。
その美しい緑色と麻薬的な作用で「緑の悪魔」と呼ばれ、身を滅ぼすと恐れられて、20世紀初頭には一度、ヨーロッパ諸国で製造禁止となりました。(1981年にツヨンの含有量を規制して解禁)
19世紀末ヨーロッパの熟れた芸術の象徴、この緑の悪魔に命を捧げた芸術家には、ほかにゴッホやロートレック、ポーが知られています。
生薬としては、芳香性苦味健胃・強壮・解熱・胆汁分泌促進剤、また駆虫剤としての効能があります。
稲村ケ崎の切り通し付近の134号線沿いに、ヨモギを取りに出かけたところ、ヨモギの茂みの中に妙に白っぽい群生があちこちに混じっていて、これがびっくり、ニガヨモギ! 手折ってみると、普通のヨモギよりはるかに強い、キク科独特の辛口の芳香が漂いました。
花が咲く前で気力が充実していたようで、アルミで強い緑味の黄色、銅でうぐいす、鉄で緑味の黒、いずれも堅牢。アルカリ抽出で、アブサンのような緑ではないものの、透明感のある薄荷色がでました。
色の向こうに、悪魔が見え隠れしているような気がします。
花言葉は、「冗談」「からかい」「平和」「不在」「離別と恋の悲しみ」「苛酷」。
参考サイト/文献
・http://www.hana300.com/
・http://www.e-yakusou.com/
・http://ja.wikipedia.org/wiki/ニガヨモギ
・http://ja.wikipedia.org/wiki/ヨモギ
・http://ja.wikipedia.org/wiki/ツヨン
・http://ja.wikipedia.org/wiki/アブサン
・http://www.modern-blue.com/page/topics/syokubutu/141113_index.html
・http://members.jcom.home.ne.jp/tink/<br>
・http://www.weblio.jp/
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 3」 北隆館
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社
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