タラヨウ・思いを運ぶ利休色
【学名】 Ilex latifolia Thunb.
【英名】 Tarayo Holly
【別名】 ハガキノキ(葉書の木)、ユウビンキョクノキ(郵便局の木)、モンツキシバ、ノコギリシバ
【科】 モチノキ科
東海地方より以南の本州、および九州に自生する常緑高木。
学名にある「Ilex」は、西洋ヒイラギを表すラテン語。別名にもノコギリシバとあるように葉のふちに小さいですが、鋭いギサギザがあります。
タラヨウの名は、インドで、葉の裏を傷つけて経文を記したという「貝多羅樹」(バイダラジュ・ ヤシ科)と同じように、葉裏に文字が書けることから。
試しに、葉の裏に先の尖った木の棒で字を書いてみたころ、見る見るその部分が黒く変色して、鮮明に文字が浮き出てきました! 戦国時代には、戦場で情報伝達に使われていたという話も伝わります。これが「ハガキ(葉書)」の語源となりました。墨と筆がなければ文字が書けない時代では、これはかなり便利だったのではないでしょうか。この葉っぱにのせて、どんな思いが行き交ったのでしょうね。
また、ロウソクの火で葉の一点を炙ると、その周りに黒い輪ができます。これを円紋、または死環といい、これによって吉凶を占う習慣があったことから、よく寺社に植樹されました。試してみたのですが、うまく輪ができませんでした。これはどういう占いのお告げでしょうか・・・。
和漢三才図絵では、「戯れにその葉を採り、小さな火燼(おき)を暫く葉の上に置くと、その痕は環となり、文(もよう)は火の大きさの倍になる。これもまた貝多羅の類であろうか。現今では多くの人家の庭園に植えている。」の記述が見当たります。冬も蒼々と葉を茂らせるので、江戸の人には人気だったようです。
中国四川省では、タラヨウの葉を「苦丁茶」という健康茶として飲用するそうです。
鎌倉の古刹・覚園寺の境内にタラヨウの木が一本あり、以前ご住職が、葉書の語源になった木だと教えてくださったのを思い出して、お願いして少し枝葉を分けていただきました。煮出すとフローラルな芳香が漂います。どの媒染でも、くすんだ地味な色合いですが、アルミで媒染した利休色の、曖昧なやさしさが、妙に心に響きます。また、鉄媒染で得た青みを帯びた灰色も薄墨のようで美しいです。
花言葉は、「伝える」。
参考サイト/文献
・http://www.hana300.com/
・http://www.e-yakusou.com/
・http://ja.wikipedia.org/wiki/タラヨウ
・http://tanpure.jp/
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「よくわかる樹木大図鑑」平野隆久/著 永岡書店
・「和漢三才図絵」 第83巻
寺島良安 / 著 島田勇雄/竹島淳夫/樋口元巳 /訳注 平凡社
(C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房 禁転載
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