ケンポナシ・お酒もびっくりの伽羅色
←シーボルトのスケッチ
↑写真出典
【学名】 Hovenia dulcis Thunb.
【英名】 Japanese raisin tree, Chinese raisin tree
【別名】 シテンポナシ(手棒梨)、ケイキョシ(鶏距子)、モクサンゴ(木珊瑚)
【生薬名】 枳椇(キグ)
【科】 クロウメモドキ科
日本では北海道から九州まで、さらに朝鮮半島、中国に分布。
学名のHovenia は、オランダ人宣教師の名にちなみます。
またdulcisは、ラテン語で「甘みのある」の意。
初夏に白い小花が集まって咲き、花が終わると赤みを帯びた実がつきます。この実が干しブドウのようであることが、英語名の由来らしいですね。
この干しブドウ状の実をつける枝先が、指のような膨れる。これを、ハンセン病におかされて曲がった指に似ているとみて、その曲がった指をテンボウ、テンポなどと呼んだことから、テンボノナシ→テンボナシ→ケンポナシになったという説があります。
実よりむしろこの枝先(果柄)が食用となるところがおもしろいっ!
シーボルトも「日本植物誌(フローラ・ジャポニカ)」に大変精巧なスケッチとともに詳しく書いています。
「遠目にはヨーロッパの西洋梨にそっくり-(中略)-花が散ると、花序の枝が肥厚し、やがて肉厚になる。これを食べることができるが、甘く良い香りがして、イナゴマメの風味か、ベルガモットの風味によく似ている。-(中略)-(煎じたものを)酒に酔わないよう飲んでおく予防薬として大変評判がよい」などの記述。
実際、秋に多肉質の果柄を集めて日干しにして乾燥させたものを生薬で「枳椇(キグ) 」といい、煎じて服用すると二日酔いに効くことが知られています。
和漢三才図会にも「ケンポノナシ」の名で興味深い記述が見つかります。
「実(※恐らく肥大した枝先を含む)は渇きを止め、煩(心臓部の熱気で苦しい状態)を除き、隔(横隔膜?)上の熱を取り去る。五臓を潤し大小便の通じをよくする。効能は蜂蜜と同じ。枝葉を煎じてつくった膏(あぶら)も同様。よく酒毒を解する。」とあります。
さらに衝撃的なのは、「もしこの木を柱にすると、その室の中の酒はすべて味が薄くなる。この木の
一片をあやまって酒甕(さかつぼ)の中に落とすと、酒は水に変化してしまう。」って、ほんとですかいっ!
夏に、市内の方から剪定した枝葉をいただく幸運を得ました。煮出してみたところ、華やかな甘酸っぱい香りが広がりました。たしかにベルガモットを彷彿とさせます。
柔らかな朱鷺色の染液となり、アルミ媒染でその色をほぼとどめて伽羅色 (きゃらいろ)から枇杷茶(びわちゃ)、銅で枇杷茶 、朽葉色(くちばいろ)、鉄で空五倍子色 (うつぶしいろ)、海松色(みるいろ)。
秋の季語。
参考サイト / 文献
・http://ja.wikipedia.org/wiki/ケンポナシ
・http://www.e-yakusou.com/
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 2」 北隆館
・「和漢三才図絵」/寺島良安 第88巻
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社
・「シーボルト日本植物誌 <本文覚書篇>」八坂書房
(C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房 禁転載
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