ムクロジ・やさしい気持ちの柳茶色
【学名】 Sapindus mukorossi Gaertn.
【英名】 Soapberry
【別名】 ツブ ツブノキ モクレンジ
【生薬名】 延命皮(えんめいひ=皮)
【科】 ムクロジ科
東北以南の本州、九州、四国、沖縄に分布。庭木や公園樹としてもよく植えられています。学名の「Sapindus」は、sapo indicus=インドの石鹸、の意味。英語ではまさに「石鹸の実」です。
ムクロジは、夏に青いまあるい実をつけますが、この実にはサポニンが多く含まれ、インドでは昔から石鹸として使っていました。
日本でも「エゴの実」同様、洗濯に使われてきました。インドネシアでも、バティックを洗うのに現在でも用いられています。
江戸時代の百科事典「和漢三才図会」にも、「子(実)の皮を煎汁にし、これで衣を洗うと垢がよくとれる。また水に漬けて管で吹くと泡が膨れるので遊戯にする。俗に奢盆(しゃぼん)という。」とあります。
テレビの時代劇で、子どもがシャボン玉遊びをしているシーンをみるにつけ、「石鹸がないのに、どうやってたんだ?!」と不思議に思っていたのですが、なーるほど、なるほど。
秋になるとこの実は黄色くなり、さらに透き通ってシワが寄ってくると、中の球体の黒い種子を取ることができます。 和漢三才図会には、その種子は炒って食べられるという記述があります。お正月に遊ぶ羽つきの羽の頭に用いられているのも、この種子です。昔はこれで念珠も作っていたそうですよ。
子どもの守り神である地蔵菩薩を本尊とする鎌倉の宝戒寺は、白萩が有名で、別名「萩の寺」として知られていますが、実は境内に見事なムクロジの大木があることでも有名です。
ムクロジは「無患子」とつづり、その種子を持っていると「子が患わない」といわれています。宝戒寺には、このムクロジの種を自分で選んで袋に詰めるお守りがあり、たいへん人気があります。
実の皮を干して乾燥させたものを生薬で「延命皮」といいます。昔は、強壮、去痰薬として用いられていましたが、実に含まれるムクロジサポニンに、溶血作用があり、誤食すると胃腸障害や下痢を発症することが知られて、現在は用いられていません。
また和漢三才図会には「伝えによれば、この木で器物を作りそれを用いていると鬼魅(きみ=鬼や魑魅魍魎)を圧服させることができる。それで俗に鬼見愁(きけんしゅう)という。」さらに、「鬼を封じるのにムクロジで作った棒で叩いた神巫(かんなぎ)がいた」という記述も見当たります。 面白い。機会があったらなんか作ってみたいです。織りで使う杼(ひ・シャトル)がいいかしら。
夏の終わりに、宝戒寺さんにお願いして青い実を少し頂いてきました。染めてみたところ、どの媒染でもやわらかな色合いで、銅媒染の柳茶色(緑味の砂色)が特に美しいです。
鎌倉では宝戒寺のほかに、源氏山にある葛原岡神社にもムクロジの大木があります。
秋の季語。
◎参考サイト / 文献◎
・http://ja.wikipedia.org/wiki/ムクロジ
・http://www.e-yakusou.com/
・http://nenjyu.com/?pid=3540011
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「和漢三才図絵第83巻」寺島良安 / 著
・「よくわかる樹木大図鑑」平野隆久/著 永岡書店
(C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房 禁転載
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