ニホンズイセン・日陰笑いの空五倍子色
【学名】 Narcissus tazetta var. chinensis
【英名】 Sacred Chinese Liliy, Chinese Narcissus
【別名】 セッチュウカ(雪中花)
【科】 ヒガンバナ科
地中海沿岸、カナリー島の原産で、ヨーロッパから、小アジアを経由して中国に渡りました。日本には、南宋の頃に修行僧が持ち帰ったとされていて、鎌倉時代に中国名の「水仙」をそのまま音読みにして「スイセン」という名になったといわれています。
中国名の由来は、古代中国では、水辺を好んで繁茂する清らかな植物を「水の仙人」と呼んだことから。
ギリシャ神話に出てくる美少年ナルキッソスは、泉に映った自分の姿に恋いこがれ、憔悴しきってしまい命を失ってしまう。そのナルキッソスが亡くなった跡にひっそりと咲いた花がスイセンであったという伝説がありますね。これが学名における属名となりました。
スイセンの、下に向けて首をかしげて花を咲かせる様子が、水面をのぞきこむようにも見えることからこの名がついたとも。
確かにヨーロッパに多いラッパ水仙には、「アタシをみてみて!」といっているような、ケレン味たっぷりの咲きっぷりに見えますが、ニホンズイセンには、ちょっと、はにかんだような慎ましさがありますよね。
学名の tazetta はイタリア語で「浅いティーカップ」の意。副花冠の様子から。
和漢三才図会では「花はつややかで風雅があり、香りはきよらかでおくふかい。肥えた橡にうえると花は繁茂し、やせ地では花はできない。五月に掘りおこし、子供の尿に一晩つけて干しておくと良い」の記述が見当たります。子供の尿って?! 「根が癰腫(できもの)および魚骨のつかえを治す」とも。
和漢薬の世界でも、「はれもの、乳腺炎とくに乳腫(にゅうしゅ)や肩こりには、生の鱗茎(りんけい)をすりおろして、布でしぼった汁に、小麦粉を少量ずつ加えながらクリーム状によく練ってから、患部に直接塗布して、ガーゼで押さえる 」、などの記述も見つかりますが、全草は有毒の扱いで、嘔吐、下痢、けいれん、麻痺などの中毒症状を起こすので、経口摂取は厳禁。素人は容易に用いぬほうがよいでしょう。
仕事場の庭のスイセンを久々に掘り出し、干しておいたところ、晩秋に一斉に芽が出てしまいました。(もしかして和漢三才図会にあった「子供の尿につける」という工程を端折ったから芽が出てきてしまったのかしら。)急いで植え直して、余った分を煮出してみました。染液は黒黒とした色になり、甘ったるい漢方薬臭が漂いました。
「毒草」とききますと、染織家はにわかにワクワクしてしまいます。あっと驚く染色結果がでることがあるので。ですが、その期待に反し、どれも地味なおとなしい色に。媒染の違いでもあまり大きな差は出ませんでした。それがかえって潜ませている「毒」の存在を不気味に浮かび上がらせている感じがします・・・そう、陰でうっすら笑っているような。
アルミで榛色(はしばみいろ)、銅で利休茶、鉄で空五倍子色(うつぶしいろ)。
花言葉は、ギリシャ神話を反映して「自己愛」「自己主義」「おろかさ」。冬の季語。
◎参考サイト / 文献◎
・http://www.hana300.com/
・http://ja.wikipedia.org/wiki/スイセン属
・http://ja.wikipedia.org/wiki/ナルキッソス
・http://www.e-yakusou.com
・http://gkzplant2.ec-net.jp/index.html
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「和漢三才図絵」第92巻 寺島良安 / 著
(C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房 禁転載
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