アーモンド・神の男根の辛子色
【学名】 Amygdalus dulcis
【和名】 ヘントウ(扁桃)、あめんどう
【生薬名】 ハタンキョウ(巴旦杏)
【科】 バラ科
学名のPrunus(プラナス)は、ラテン古名のplum(すもも)が語源。
中央アジア原産。スモモ、アンズは近種ですが、両者と違い、アーモンドは果肉があまり発達しません。
ギリシャ神話に面白い記述をみつけました。
寝ている間に流れ出たゼウスの精液が岩山を伝って大地が受胎する。生まれたのが両性具有の神アグディスティス。これを恐れたオリュンポスの神々がアグディスティスを去勢し(ええっ?!)、切り取った男根を投げ捨てたところからアーモンドの木が生えたそうです(ひょえーっ!)。
木は育ち、やがて実をつけ、その実をサンガリオス川の娘(ニンフ)ナーナが拾って胸に納めたところ、実は消えて、ナーナは身ごもり、産み落としたのが植物の成長と復活を司る神アティスである。(アティスはその後、松の木に身を変える)・・・。
ギリシャの神様たち、なかなかエグいこと。
江戸時代の百科事典「和漢三才図会」には「あめんどう」の名で、本草綱目を引いて風聞として「回回国(新疆ウィグル自治区)に産する。いまは関西(中国河南省の函谷関より西)の諸地方にもある。樹は杏に似ていて葉は小さく、実も尖って小さく肉は薄い。核はウメの核に似て、からは薄く仁は甘美である。茶に入れて食べるが、味は榛子(はしばみの実)のようである。」という記述が見当たります。
別名の巴旦杏(はたんきょう)がジャカルタ近くのスマトラの国名バタンに由来すること、(江戸で)出回っているものは、ペルシャ産のものがオランダ船によってもたらされたものであることなども書かれています。ちなみに「あめんどう」はポルトガル語が語源だそうです。
いつもながら、和漢三才図会に記されている記述には驚かされます。江戸のいち町医者であった寺島良安の、知識欲、観察力には脱帽です。鎖国によって一切の情報を遮断されていたかに見えて、なんの、細かい外国の名前も、事情も、そこに産する物のことも、じつによく掴んでいます。情報の海でアップアップしているわたしたちより、学びたい気持ちが強かったみたいですね。
生薬では巴旦杏(種子)の名で「滋養、利尿に効果あり」という記述が「和漢薬」にあります。
山梨産のアーモンドの木の剪定枝をいただきました。
煮出してみると、ほんのりと杏仁豆腐の匂いがします。やっぱり仲間なんですね。絹よりウールの発色がよく、アルミで芥子色、銅で草色から鶯色、鉄で強い濡羽色。
花言葉は、「希望」「優しい愛情」「真実の愛」「無分別」「愚かさ」。
・・・「無分別」は、ゼウスたち、ギリシャ神たちのことかしら。
3月14日の誕生花。
◎参考サイト / 文献◎
・http://www.hana300.com
・http://www.e-yakusou.com
・ http://ja.wikipedia.org/wiki/アーモンド
・http://www.hana300.com/tuta00.html
・http://hanakotoba-labo.com
・https://lovegreen.net/languageofflower/
・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著 平凡社
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社
・「世界植物神話」篠田知和基 / 著 八坂書房
(C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房 禁転載
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