リュウゼツラン・燃え尽きて白橡(しろつるばみ)
【学名】 Agave L.(リュウゼツラン属),
Agave americana var. marginata(アオノリュウゼツラン)
【別名】 マンネンラン, マゲイ(maguey)
【英語名】 Agave, Century plant
【科】 リュウゼツラン科
メキシコ原産。日本には、江戸時代の天保年間(1830〜44)に斑入りの種類が渡来しました。
その後、明治になって原種である葉に斑のないアオノリュウゼツランが渡来。
学名のagaveはラテン語で「高貴な」の意味。確かに、"エリザベス一世"みたいな、近寄りがたい空気感をまとっています。
アステカ文明以来、メキシコの先住民の間では、リュウゼツランの葉から繊維をとって衣服としていました。木綿以前の"原始布"なのだそうです。日本でも、木綿が普及する17世紀以前の繊維は大麻、苧麻、葛づるなどから取る草繊維が衣服を支えていました。似ていますね。
葉の皮(ミショテ)は、紙として用いた歴史もあるそうです。
数十年に一度しか花が咲かず、咲くとその株は枯れてしまうことが知られています。
リュウゼツランは、デンプン質が豊富で、「種を粉にひいたものはスープにとろみをつけるのに使ったり、他の粉と混ぜてパンにすることもできる。」という記述も見当たります。
そしてすごいのはここ!
その何十年に一度の開花期には、蓄えていたデンプン質を糖に変えるのだそうですよ!
もともと熱い乾燥した気候の植物ですから、その厳しい環境で花を咲かせるというのは、まさに命がけの大仕事なんですねぇ。そして、白く燃え尽きる・・・ジョーっっ!!
その糖分たっぷりの茎からは、サトウキビのように甘味料がとれまして、これをアガベシロップといいます。花芯もたいへん甘く、栄養価が高いそうです。また、花の茎はアスパラガスのように料理できるとも! やってみたーい!
この糖質を用いて作る蒸留酒を総称して「メスカル」といい、その中でもメキシコで作られる特に上等な蒸留酒が、有名な「テキーラ」です。
中央アメリカでは古くから、リュウゼツランの葉汁は湿布薬などに用いられてきました。服用すれば下痢、赤痢を癒やし、利尿効果や便通を良くする効果がある、という記述も見当たります。
2018年夏。雪ノ下の横浜国大附属の校庭のフェンス沿いあったリュウゼツラン。突如、10mほどのトウがにょきにょきと立ち、黄色い花が咲きました!
咲いているときは、通り掛かる人たちがみんな写メっていました。
冬になるとそのまま立ち枯れ、花茎の様子は、よく手入れされたマツのようでした。
数十年に一度のことなので、学校にお願いして、その枯れかけた株から葉を一枚いただきました。
「アロエのおばけ」ぐらいの構えでなめていたら、とんでもなかった。
葉の形状を龍の舌に見立てただけあり、古い葉は、刃物も容易に寄せつけないほどの硬さ!!
まるでかつお節。
なんとか、切り出しましたが、見ると、竹のような繊維の集合体でした。
戦前までは、サポニンが多いリュウゼツランの葉は、洗剤代わりに使われたこともあったそうです。(いやいや、すばらしく有用な植物ですね)
サポニンの多い植物は鉄媒染で紫が染まることが多いのですが、こちらの株は、命の火が尽きかけていたせいか、染液は黒黒としていましたが、アルミで白橡(しろつるばみ)色、銅で桑染 (くわぞめ)色、鉄で黄唐茶(きがらちゃ)。
どれも総じて薄い染め上がり。大仕事を終えて、まさに戦いのリングで白く燃え尽きたような色合いでした。
花言葉は「繊細」「気高い貴婦人」。
◎参考サイト / 文献◎
・https://ja.wikipedia.org/wiki/リュウゼツラン属
・http://www.pfaf.org
・https://horti.jp
・https://tabimap.net/mex/?p=400
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
(C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房 禁転載
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