カジノキ・押しも押されぬカミサマ色
【学名】 Broussonetia papyrifera
【英名】 Spearmint
【別名】 ノロカジメ、アマタ、イヌタ
【生薬名】 楮実(ちょじつ)、楮桃、穀実(こうじつ)
【科】 クワ科
学名の「papyrifera」は、「紙をもった」の意。実際コウゾの仲間で、古い時代においては、ヒメコウゾとの区別が余り認識されておらず、現在のコウゾはヒメコウゾとカジノキの雑種といわれています。
また、江戸時代にシーボルトもこの両者を混同してヨーロッパに報告したために、今日のヒメコウゾの学名が「Broussonetia kazinoki」となってしまっているそうです。
古代より、神道では神聖な木とされ、諏訪神社の家紋にも用いられています。
(鎌倉市玉縄にある諏訪神社のお正月祭事にて)
平安期には七夕行事において、カジノキの葉っぱ7枚に願い事を書く習慣がありました。これが現在、笹に短冊を飾る風習のもととなっています。
紙が高級品であった平安期、この大きな葉は、お習字の練習に使われていたんだそうです。短冊を飾るのは、文字の上達を願うという意味もあるそうです。
鎌倉鶴岡八幡宮の七夕祭事では、カジの葉っぱをかたどった短冊に願い事を書くことができると聞き、7月7日に、どれどれ、とでかけてみました。あ、ホントだ。
せっかくなので、一つ求めてお願い事を書いてきました。
ピンクと緑2枚で一組のカジの葉短冊は、一組ずつ、撚っていない麻の繊維でくくられています。
舞殿の周りに設けられた、お納めする結び処には、本物の梶の葉もくくってあります。
舞殿の脇に、梶の木があって、実がついていました。
ちょうど、神事に使われるのでしょう、神官さんたちが葉をとっておられました。
ちなみに、七夕飾りの「吹き流し」は、織姫が機織りに使う糸を表していて、機織り、裁縫などがうまくなりますように、という願いが込められているそうです。
和漢三才図会には「楮(こうぞ)」の項目に「穀(こう)と楮(ちょ)は同一種で枝葉もよく似ており、はっきりと区別することはできない」とあります。おそらく、ヒメコウゾとカジノキではないかと思います。さらに「皮をはぎ、搗いて煮て紙に造る。またつむぎ練って布につくる」とも。
生薬としても用いられていたようで、楮実・楮桃の名で「精力萎縮・水腫を治す。気を益し、肌を充実させ、目を明らかにする。長らく服用すると飢えず老いず、筋骨を壮健にして虚労を補う。」とあります。使えるな、カジノキ。
八幡宮の木から試染用に葉っぱをいただくのは無理そうだわね・・・。こりゃやっぱりどこかで調達してこなきゃ・・・とつぶやいてみたら、なんと、お庭に植わっているという大和市の方が、わざわざ送ってくださいました。(感謝!!)
どうやら雌の木。枝葉を煎じたところ、生薬の効能を反映するような濃い液となり、どの媒染でも、冴えわたった強い色を得ました。
すず媒染で鮮やかな山吹色、銅で鶯茶、鉄では冴え冴えした緑味の黒。
コウゾの花言葉は「過去の思い出」 。カジノキも、紙の材料となり記録を留めたという点で、同じ花言葉と考えよいのでは。コウゾの季語は仲夏ですが、「梶の葉」では秋。
◎参考サイト / 文献◎
・http://ja.wikipedia.org/wiki/カジノキ
・https://hananokotoba.com
・http://www.hana300.com
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 2」 北隆館
・「和漢三才図絵」/寺島良安 第84巻
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「よくわかる樹木大図鑑」平野隆久/著 永岡書店
(C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房 禁転載
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