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2019/07/18

帯「十三年だより」のこと

13year_obi

 

ここ2,3年は、やっと時間的余裕が少しできてきたので、自宅と工房のモノの整理に取り組んでいます。
テーマは「死蔵品に活(喝?)をいれる」。活かせると思うものだけ残す。手元にあるものは活かしきる。・・・でモノとあらためて向き合ってみると、タンスの肥やしが日の目を見て結構ワクワクいたします。

工房の材料棚にも、忘れられた布だの糸だのが、かなりひねくれた様子でしまわれていました。
その中に、正体不明の整経した経糸が。「なんじゃ、こりゃ。」

整経とは、計画に従って、糸の長さ、密度を決め、必要な本数を機にかけられるよう準備することをいいます。ほとんど色らしい色のない、至極ナチュラルな糸の束。測ってみたら6m強あります。ただ、幅が皆目検討がつかない・・・。「一体、なにを織る気でいたんだろう、アタシ。」

ここでもう一度しまってしまったら、死蔵品が増えるだけだ、と一念発起し、とりあえず、幅がどのくらいあるか確かめるために、いつも自分がよく使っている25羽/クジラ筬(おさ・糸の密度を決める竹のクシ)に粗筬通ししてみました。

すると、25羽丸羽通しでぴったり8寸。ここへ来て、私の頭の片隅から古い記憶が蘇った! 「そうだ、これは!」

次の日。いつも私が織った帯を商ってくださる扇ガ谷の伊と彦さんに伺ったら、女将から注文をいただきました。「仕立てをして締める薄い帯を織ってくれますか。」夏に使える、涼し気なスケスケした帯か・・・今までのは、緯糸に太い麻をいれて、そのまま一重で使える厚めのざっくり帯が多かったので、うん、面白そうだ、やってみよう、とお引き受けしました。

工房に帰ってきてから、粗筬通しされた謎の整経をみて、これは運命だ、とあらためて思いました。

謎の整経は、2006年に開いた個展のために準備した、3本の帯のうちの1本だったのです。
その年は、ガンを患った母が、いよいよ体調を崩し、やはりガンを患った父が介護にあたっていて、それを横目に見ながら、自宅と行き来して掃除だの食事の支度だの、病院への送り迎えなどをしていた頃でした。息子は翌年から中学生という年齢。日に日に弱るおばあちゃんを見るのがよほど辛かったのでしょう、この頃から家で荒れるようになってきました。稼がにゃならんので私も正直、ぱつんぱつん。それでも、展覧会だけはどんな言い訳も持ち込めないので、徹夜で(いまはできん!)せっせと商品を作っておりました。3本織るつもりだった帯・・・でもどうやっても初日に間に合わない。しょうがない、1本諦めよう。

当時の物事の優先順位を考えれば、その決断は正しかったのでしょう。ですが、「女なんだから、こういうときは仕事は犠牲にして当たり前でしょ」」という暗黙の圧力に負け、プロの看板を上げた作家として一番手を抜いてはいけない仕事をひとつ端折ったという、どうにも始末のつかない感情に苛まれ、自己嫌悪になり、しかも、どこにもその気持を持っていけないという状況に追い込まれました。「なかったことにしよう」・・・どこかで私はそう思ったのです。だからすぐには思い出せなかった。

そんな過去のやりきれない思いの遺物に、とびきり粋な京女将が、新しい命を吹き込もうとしてくれている! もう、そうとしか思えず、頂いたご注文にはこの経糸を使おうと決めました。

女将のご注文は、未晒の麻のようなナチュラルな色合いで、色模様は殆どないもの、とのこと。この経糸はまさにそんな感じです。データをたぐってみたら、ナンテン、アジサイ、クマザサ、ニワウルシ、マキ、などで柔らかな色に染め上げた糸たち。しかも、縞が出ないよう、不規則に糸の順番を入れ替えた整経です。これを、仕立てることを見越して9寸に広げなければいけません。そこで、模紗織(もさおり)という、レース模様のように穴があく計画に変更してみました。

緯糸は、生徒さんが新潟の畑で育てたセイヨウオトギリソウで染めたフレンチリネンと、これまたご厚意でいただいたティートゥリーで染めたシルクを使いました。

その翌年の暮れ、母が他界、続いて1年半後に父も他界。今は息子も独立。好きなことを見つけたようで、元気にやっています。

あのとき、無理矢理に蓋をしてしまった負の感情が、13年たって、周りの人の愛情と植物たちの力のおかげで解き放たれて、気持ちがすれ違ったまま逝ってしまった両親にも、「おかげさまでアタシ、たいへんたのしくやってますよ」と彼岸に手紙を送ったような気持ちになりました。

女将がどんなお着物に合わせてくださるのか、とても楽しみです。 
感謝にかえて。

 

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