« 2019/07/20 | トップページ | 2019/08/25 »

2019/08/04

2019/08/04

八寸帯 「水夢想」のこと

Suimuso03Suimuso01

工房の北側の敷地は、23年前の開設当初は篠竹、黒竹、四方竹の竹やぶでした。そこにカキノキだのネズミモチだのが埋もれていて、その木も、竹やぶに埋もれる一本でした。

少し見上げる程度の若いその木には、春先からしゃわしゃわと軽やかな葉っぱが生えてきて、夏には小紫の涼し気な花がついて、秋にはビー玉大の黄色い実がたわわにつきます。調べてわかった名前はセンダンでした。わざわざ植えたのではなく、鳥が運んだ種が芽吹いて育ったようです。

葉が落ちた後も木に残る、そのたわわな実のさまが、数珠のようであることから 「センダマ」(千珠)といわれ、これが転じてセンダンの名となったという説や、実の多くついた様子を「千団子」に見たてたという説などがあるそうです。

材は細工がしやすく、建築用装飾、家具、木魚、下駄などに用いられるとか。アウチの名で万葉集にも詠まれています。

よく、「センダンは双葉よりかんばし」というので「どれどれ」と顔を寄せて匂いを嗅いでみましたが、確かにすっきりした蒼々しい香りはするものの、別段芳香というわけではないような・・・。調べてみると、この場合のセンダンとは東インド、マレーシアの原産ビャクダン科の栴檀(せんだん)で全くの別人でありました。

実は「苦楝子(くれんし)」という生薬にもなり、整腸、鎮痛薬として腹痛や疝痛(せんつう)には、煎じて服用。木の皮を乾燥させた「苦楝皮(くれんぴ)」は、虫下しになるそうです。

竹やぶはこの23年の間に少しずつ刈って、今では敷地の境界線の塀周りだけになり、畑も藍染のスペースもできました。センダンは竹の勢いが治まると気を良くしてすくすくと育ってゆき、ついには直径40cm、高さ12m程の巨木なりました。8年ほど前、春先の枝葉をアルカリ抽出して染めてみたら黄緑色が染まって、以来、春から夏にかけて折々糸を染めていました。

ところが、ある年から急に新芽が出なくなりました。「あれ?おかしいな。」よくみたら樹皮の様子もなんか、いつもと違う。妙にツルツルしているぞ。

庭師・大島親方にみてもらったら、「この木はもうだめですね。」・・・え?

原因はタイワンリス。
歯を研ぐためにセンダンの樹皮をぐるりとかじってしまったのです。木は、水を吸い上げる管が皮の内側にあるのだそうで、幹の一部の皮を剥がれたぐらいなら、いくらでも再生するそうですが、ぐるりと一周かじられてしまうと給水経路を絶たれてしまい、もう助からないのだそうです。コンチクショウ、憎たらしいタイワンリスめ! あ、樹皮は虫下しの生薬だった。うーん、ここまで敵のようにかじったのは、腹具合でも悪かったからなのか?
木はどんどん立ち枯れ状態になり、高いところの枝が次々と折れて落ちてくるように・・・。風で倒れると危ないので、決心して親方に大きな枝と幹の一部を切り落としてもらいました。

Sendan05

もう、あの夏の涼し気な花は見られないのかぁ、かわいい実も集められないのかぁ。

ところが翌年の春、残った幹の先から小さな若い蘖(ひこばえ)が出ているではありませんか! 枝や幹を切ったことが刺激になったらしく、死にかけたセンダンの命に火がついたようです。みるみる瑞々しい枝葉を取り戻し、命は静かに、でも力強く蘇りました。起死回生の4文字は、まさにこの様を表しているのだと思いました。

少し取っても大丈夫そうなくらい緑の枝葉が生え揃ったので、久しぶりにこの夏、染めてみました。
アルカリ水で煮出した染液の色は、今まで見たことのない、キラキラした青春の輝きと、再び水を蓄えた喜びに満ちた青々しい翡翠色!
麻糸を浸すと、透明感そのままに、すうっと、翡翠色は糸に移ってゆきました。

クサギで染めたちょっとヲトナな緑の糸や、ナンテンの銀色、化学染のスカイブルーの糸などにも加わってもらって、8寸の単衣帯に織り上げてみました。
身につけている人にも、それを見た人にも、涼を感じてもらえますように、気持ちの滞りをすっと流してくれますように、そんな願いを込めて。

昨日、伊と彦さんに納品しました。お手にとってご覧いただき、復活のセンダンの命を感じていただければ幸甚です。

Senda06jpg_20190804152401

| | コメント (0)

« 2019/07/20 | トップページ | 2019/08/25 »