コブナグサ・輝く黄色はネクラの意地
【学名】 Arthraxon hispidus Mak.
【英名】 Jointhead arthraxon
【別名】 ハチジョウカリヤス(八条刈安)、カイナグサ(腕草)
【生薬名】 藎草(じんそう)
【 科 】 イネ科
山歩きの達人の工房の生徒さんが、白馬で見つけたというコブナグサをもってきてくださいました。
アジアの熱帯、日本では沖縄から北海道まで広く分布する一年草。コブナグサは「小鮒草」の意で、葉の形が鮒(フナ)のようであることから。別名をカリヤスと称することが多いのですが、正確には別物。
どちらも古くから鮮やかな黄色を染める染料として知られています。
鮮やかな黄色の地に赤や黒で格子縞を配した反物「黄八丈」の着物は、伊豆の八丈島の特産品。この黄八丈はコブナグサで染められており、そこから八丈刈安の名がつきました。
古くは武家大名や大奥の女中、裕福な町人などの間で愛好されていました。江戸時代後期には、庶民の手にも入るようになり、歌舞伎芝居「八百屋お七」の娘役などの衣装に用いられたことで大流行したそうです。当時の人気は大変なもので、江戸中の女性たちの、目の色が変わるほどだったと伝えられています。
和漢三才図会には、「多くを越前が産し、染物家の必用の物である。藎汁(コブナグサの煎汁)にミョウバンを加えて黄色に染めると色は脱けない。あるいは下に藍を染め、上から藎汁でもう一度染めると萌葱色になる」の記述が見当たります。
染料として使う場合は、初秋に穂の出かかったものを刈り取り、乾燥させれば、一年中染めることができます。
中国の古典「五経」のひとつ「詩経」の中に、
終朝采綠 不盈一匊
(朝じゅうコブナグサ(カリヤス)を摘めど 手のひら一杯に満たぬ )という詩があり、「緑」がコブナグサを示しているところが面白いです。
生薬では藎草(じんそう)といい、「いつまでもなおらぬ咳で上気しあえぐものを治す。また一切の悪瘡を洗うと効がある」(和漢三才図会)とか。
草で染色する場合は、染めたいものの重さと同量の染料を用意するのが常套なのですが、コブナグサは50%あれば、濃い黄色の煎汁が得られます。ミョウバン媒染で、黄八丈のメンツをかけたような鮮やかな黄色、銅媒染でも少し緑味の強い黄色、そして、鉄媒染では、透明感のある美しいうぐいす色を染め上げました。
花言葉が「やや暗い人」とは、その地味な見た目のせいでしょうか。・・・いやいや、見た目にごまかされてはいけませんね。 華は色に出ています。
◎参考サイト / 文献
・http://www.city.takasaki.gunma.jp/docs/2015030300127/
・https://ja.wikipedia.org/wiki/コブナグサ
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社
・「和漢三才図絵」第94巻 寺島良安 / 著
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