平織りが支えたナンバ歩き
ご存知のように日本には伝統的な織りがいろいろあります。
その多くのルーツは沖縄に求められると言われています。沖縄には精巧な絣(かすり・糸を予め柄通りに染め分けて織る技法)のほか、花織り、道屯(ロートン)織りなどの糸を意図的に( シャレぢゃないから! )飛ばす変化織りもたくさんあります。
でも、よーく探ってみるとないんですよ、ある織りが。江戸時代までの日本の織りには。
明治に入ってから日本の織りものに、ある大きな変化が現れました。
それまでの日本の織りは「平織り」、いわゆる経糸と緯糸が一本おきにしっかり織り合わさる織り方が基本でした。どんな複雑な変化織りもベースになっているのは平織りです。通気性がよく伸びの少ない平織りは、高温多湿の日本の気候と、和服という民族衣装の着こなしには最適でした。
この、四角い布をただ巻きつけるだけの和服を軸に、日本人は立ち居振る舞い、武芸や諸々の作法の伝統を築いてきたのです。
そのため江戸時代までの日本人の躰の使い方には、躰を「斜めに伸ばす」あるいは「ひねる」という動きがほとんどありません。
歩き方の基本は「ナンバ」。つまり、右手と右足、左手と左足と、同じ側の手足が前に出る型が定着していたのです。これは朝鮮にも中国にも見られない体の運びだそうです。(写真右端)
そこへ西欧からウール(羊毛)という新しい繊維と洋装が入ってきたことで、それまでの平織りにかわり「綾織り」が一般的に広まったのです。
綾織りは、経糸が二本ないし三本飛びながら斜めに斜文を描き出す織りで、同じ密度の平織りより地厚で丈夫、しかも斜めの伸びがよいのが特徴です。
この斜めの伸びのよさは、躰の曲線に合わせて布を裁断し立体的に縫い上げる洋服づくりには不可欠。躰に沿う美しい曲線を出すには平織りより綾織りの布が適しているのです。
男性の急速な洋装化と官服の需要により、明治から大正期には日本でも盛んに綾織りの広幅服地が機械生産されるようになりました。
それと時を同じくしてドイツから西欧式の軍事教練が導入され、日本人の躰の使い方にもいよいよ「ひねり」が入ってきます。
それまでのナンバ歩きから、両手を交互に大きく振りながら躰をひねって歩く現在の歩き方と走り方が除々に定着し(写真左端)、古武道に見られるような身のこなしは、次第に姿を消していったのです。
江戸時代までは当たり前だったこのナンバ歩き。近年、日本で見直す風潮が生まれています。陸上スポーツ界では、ナンバを取り入れたトレーニングでエネルギーロスを解消しタイムアップに繋がったという報告も。また、小笠原流作法、茶道、各種武道でもナンバが基本で、これを身につけることで、身体の歪みが解消され、腰痛、頭痛、内臓疾患の改善につながっているそうです。
現在の私たちの衣料生活は、夏物以外はほとんど綾織りが主流になっていますが、キモノ(平織り)を着る時間を持つことで、古来日本人の頑健な身体と美しい身のこなしを取り戻せるかもしれませんね。
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コメント
つる様のブログを読み進めるにつれ、今まで頭の中で、漠然といていた何かが、つる様の言葉で表現されており、喜びで心臓の音が凄いことになっています。
この回の内容ですが、私はひょんなことから成り行きで40歳を過ぎてから極真空手を習いだし、7年くらい経った頃に師範も私もあちこちが痛くなって、、、紆余曲折あり、今、古武道に辿り着いて、月に数回ですが色々な流派の古武道を稽古しております。
なんば歩き!なんと!そーんな歴史があったのですね!!!
実はわたしの師範は、空手で世界チャンピオンになられた方なのですが、、、
武道を研究しているうちに、どんどん過去の武道に遡り、、、体の使い方や道具の使い方の根本や合理性が、日本古来の武道や文化に集約されている!という所に流れ着いた感じです。
色々と書きたいことが溢れ出まくっておりますが、兎に角、つる様の仰っておられる内容が、神様が問題集の回答集を届けてくれている様です!
支離滅裂なコメントですが、つる様ならば分かって頂ける気がして、、、書きました。
投稿: 笹木 和佐 | 2021/06/18 09:48
笹木さま
ご返信遅くなりました。
おお、実際に武道の研鑽を積んでいらっしゃる方に賛同していただけるとは! 嬉しい限りです。
私は帯を織るようになってから和装との付き合いが始まり、古い日本の「道」における躰の使い方に思いが至りました。
姿勢、呼吸、歩き方・・・意識するだけでも、だいぶ歪みが取れるような気がいたします。
ぜひ、お目もじ叶いましたら、古武道のお話聞かせてください!
投稿: つる | 2021/07/14 09:03