ウメノキゴケ・権力者の赤紫
【学名】 Parmotrema tinctorum(Despr. ex Nyl.)Hale
【英名】 Apricot Moss
【科】 地衣類・ウメノキゴケ科
東北地方以南、沖縄までの低地、太平洋沿岸の温帯から亜熱帯の比較的明るい場所の樹幹や枝、石垣などによくみられる地衣類です。
全体で直径20cmにもなる大形の葉状地衣。表面は乾いた状態では灰白色ですが、湿った状態では緑色が増します。青緑のきくらげ、みたいです。周辺部は波状をなし、かたまりの真ん中に細かい粒状の針のようなもの(裂芽)を密生することが特徴です。
「地衣類は菌類の仲間で、藻類と共生して地衣体という特別な構造を作っています。地衣体を構成する菌類は、藻類が作る光合成産物を栄養として利用するとともに、藻類を乾燥や紫外線から守っている。」という説明をみつけましたが、なんか、地衣類って、ダークで怪しいですよね。そう、ダークであやしいヤツは、時にすごーい仕事をやってのけてくれるのです。
一般には、ウメ、マツ、サクラ、カキなどの古木につくことが多いのですが、高山の岩場やコンクリート上など厳しい環境の中でも生きていくことができるというツワモノです。
排気ガスには弱いので都市中心部には少なく、大気汚染の指標とされています。
つまり、ウメノキゴケがたくさん見られるところは空気がきれい、ということですね。
国宝「紅白梅図屏風」(尾形光琳)はじめ、日本画の中の松の古木の幹には,白っぽいあるいは緑っぽい丸いコケが描かれているものが少なくありません。絵画の中でこのように地衣類が描かれることは世界的には珍しく,日本独特のもの、といってよいそうですよ。
建築の彫刻でも,例えば日光東照宮の三猿の周りにウメノキゴケが文様化されたとみられるものが描かれています。
同じウメノキゴケ科のエイランタイ(依蘭台)の花言葉は「健康」 「母性愛」。
うーん、ちょっとイメージわかないですけど、地衣類が豊かに繁茂する土地は、もののけ姫の森のような滋味豊かな心象はありますね。
西欧各地の地衣類をつかった染色の歴史は遠く、古代にはじまると伝えられています。
古代フェニキア人は,最も高貴な身分を象徴する紫色の王衣や聖職者の衣服を染めるために貝紫を用いたことは有名ですが,その貝染めには膨大な量の巻貝を必要としたので,下染めとして地衣による紫が利用されたそうです。 やがて12世紀以降,貝染の染色技術が消滅した後は,地衣による紫色だけが高貴な位の象徴として用いられたといわれています。
梅の古木などからウメノキゴケを採取し、ゴミを丁寧に取り除いた乾燥させたものをアンモニアで発酵させて、鮮紅色から紫色を染めます。
こんな地味な「日陰者」から、このような世にも鮮やかな色が得られることには、ただただ驚くばかりです。
最初に発見した人に、どうやって思いついたのか、訊いてみたかったです。
得がたい色は、すなわち時の権力者の色。そんな歴史にも思いが及びます。
◎参考サイト / 文献
・http://ja.wikipedia.org/wiki/ウメノキゴケ
・https://www.chiba-muse.or.jp/
・https://biodiversity.pref.fukuoka.lg.jp/
・https://hanakotoba-note.com/
・https://lichenjapan.jp/?page_id=631
・「ウールの植物染色」 寺村 祐子/著 文化出版局
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