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2024/07/15

アイ(藍)・日本のソウル・カラー

Indigo03

【学名】  
・Persicaria tinctoria, Polygonum tinctorium (蓼藍)
・Isatis indigotica Fortune(タイセイ)
・Strobilanthes cusia(リュウキュウ藍)

【英名】  indigo plant
【生薬名】 らん(藍)
【科】   
・タデ科(蓼藍)
・マメ科(インド藍=木蘭)
・キツネノマゴ科(リュウキュウ藍)
・アブラナ科(大青)

あまりにも身近すぎて、この鎌倉染色彩時記に書いていなかったことに最近気づきまして、改めて調べてみました。

私たち関東に暮らすものにはタデアイがおなじみですが、暑い地方はリュウキュウアイが一般的。見た目は似通った感じですが、リュウキュウアイは「キツネノマゴ科」?!  初めて聞きましたよ。キツネノマゴという植物もあるようで、穂を小さな狐の尻尾に見立てたのが名前の由来のようですね。私の印象では、タデアイよりリュウキュウアイの方が少し赤みのある青に上がるような気がします。

蓼藍の学名にあるPolygonum(ポリゴナム)は、ギリシャ語の 「polys(多い)+ gonu(節)」が語源。茎の節がふくらんで関節のように見えることに由来するそうです。

tinctorium, tinctoriaは「染色用の」「染料の」の意味。古くから染料として用いられてきたことがわかります。
「あい」は「あおい」が転用したと言われています。

東南アジア原産で、日本には奈良時代に渡来。その頃から染料として用いていましたが、長く生葉染めが続き、戦国時代には葉を水に浸け、発酵を待って色素を溶かし出す「沈殿藍」の手法が発明されて、濃い青を染められるようになりました。とくに「搗色(かちいろ」と呼ばれる濃い青は、「勝ち」につながることから戦国武将に好まれたそうです。

江戸寛政年間(1789〜1801年)には四国の蜂須賀家が、藩の財政を支える商品作物をと職人たち試行錯誤を重ねて蒅(すくも)の開発に乗り出しました。これが世界でも類をみない発酵染料の誕生となったのです。これにより藍が一年中出荷できるようになり、蜂須賀家は大いに蓄財したといわれています。まずは堺、以後東海道を渡って、瞬く間に広く普及しました。

染まりにくい麻や木綿に染まる数少ない染料でもある藍染めは、絹を着られなかった(ご法度!)農民、町民たちの衣料文化に革命をもたらしました。植物染料ではほとんど色がつかない麻や木綿しか着られなかったそれまでの庶民は、実に色の乏しい世界に生きていたのです。そこに目の冷めるような清涼感のある「青」を得た喜びは、いかばかりだったでしょう。

その喜びこそが、今日でも日本人が「ジャパンブルー」に深い思いを寄せる起源のような気がします。

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青い色素を持つ植物は100種以上あるといわれており、ヨーロッパではウォード(=細葉タイセイ)やタイセイなどが知られています。
ハマタイセイは別名・エゾ藍とよばれ、アイヌが用いてきました。(ちなみに、刺青は炭を用いたようで、ハマタイセイではないそうです。)

生薬としても古くから知られており、和漢三才図会には「藍実(藍のたね)は、諸毒を解し、虫をころす。五臓の働きをよくし、六腑をととのえ、関節を通し、心力を益し、耳目を明らかにし、毒腫をなおす」とあります。

また「葉の汁は百薬の毒、蜘蛛や蜂の毒を消す。藍汁一椀を毒虫の噛んだところに点じ、そして汁を服用する。効験はすばらしい」とも。「試しに一匹の蜘蛛を藍汁に投入すると、次第に水と化してしまう」という驚きの記述も! 和漢三才図会はこういうエピソードが本当に愉快ですわ。

藍染した布は、抗菌性、消臭性に優れており、虫食いを受けにくく保存性が高いことでも知られています。

また耐火性が高まるため、武士が戦闘時につける甲冑の下着、江戸時代の火消し用半纏、日本国有鉄道の蒸気機関車乗員の制服などに使われたという歴史も。

2022年には、タデ藍(青森県産の『あおもり藍』)の葉から抽出したエキスが、新型コロナウイルスの細胞への侵入を防ぐ働きを持つことが、東北医科薬科大学、富山大学、近畿大学、神戸大学の共同研究チームにより発見されたとか。
今度藍を育てたら、お茶用にも葉を干すことにしよう!


花言葉は「美しい装い」「あなた次第」。9/12の誕生花。 
「藍植え」で春の季語。「藍刈り」「藍干す」で夏の季語。


◎参考サイト / 文献

https://ja.wikipedia.org/wiki/アイ_(植物)
https://fridafleur.com/
http://www.hana300.com
http://www.japanblue-ai.jp/
・「和漢薬」赤松 金芳 / 著医歯薬出版株式会社
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「草木染め 染料植物図鑑」 山崎青樹/ 著 美術出版社
・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著 

 

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