イチイ・北の大地の褐色の風
【学名】 Taxus cuspidata
【英名】 Japanese Yew
【別名】 アララギ、 アカギ , オンコ
【生薬名】 伽羅木(きゃらぼく)、 一位葉(いちよう)
【科】 イチイ科
東アジアの温帯から亜寒帯に分布する雌雄異株の常緑高木。
日本では、中部以北および北海道に分布します。
学名Taxusはギリシャ語の「弓」に由来。
シーボルトの覚え書きによると、実際、北海道アイヌや東北の蝦夷がイチイの木で弓を作っていたそうです。「性が強く、狂いがこない弓がてきる」とのこと。
樺太アイヌは弓のほか、この木でトンコリと呼ばれる弦楽器をつくります。今では北海道のアイヌも作るようになり、オキさんのような精力的な音楽活動をする方々も。(2000年にカジュでコンサートをしてくれたことがあります) ほっこりとした素朴な響きのなかに力強さが感じられる弦楽器です。
(写真出典)
ヨーロッパでは中世およびルネッサンス期に、セイヨウイチイを不死の象徴として葬式に用いたり、墓地に植えたりした歴史があります。
また、古代ギリシャ時代には死や悲哀の象徴とされていました。
別名のアララギには「蘭」の字を当てることがあり、人名(姓名)にもあります。ときにイチイだけでなく、ノビルやギョウジャニンニクなど野生のネギ属の野草を指すこともあるそうです。
子規の短歌論を信奉し雑誌『アララギ』に拠った歌人たちをアララギ派と称することはよく知られていますね。写実的、生活密着的歌風を特徴とし、近代的人間の深層心理に迫り、知性的で分析的な解釈をしたことが特徴とか。アララギの系譜を引く結社すべてを合わせると、現在に到るまで歌壇の最大勢力なのだそうです。
雌の木につく実のゼリー状の赤い果托は甘く食用にできますが、中心の種子は有毒なので注意。材は緻密で、細工がし易いので、家具、彫刻材、建築材など幅広く用いられます。鉛筆材としても知られています。
飛騨高山一刀彫では、イチイ細工が有名。平安時代に、飛騨の細工師が朝廷の一位の位の官吏の笏(しゃく)を作ったことでイチイの名があります。(笏のできが素晴らしかったので、一位の名を与えられたという説も。)
水洗い後、天日で乾燥した葉を、生薬で一位葉(いちいよう)といいます。煎じて服用すると、利尿、通経に効果。
染色の世界では「イチイは赤が染まる」と言われていて、いつか染めたいと思っていたところ、教室の生徒さんが白馬に出かけた時に枝葉を持ち帰ってくれました。
アルミで濃い櫨色(はじいろ)や団十郎茶、銅でチョコレート色、鉄で涅色(くりいろ)。いずれも押し出しのよい力強い色です。
アルカリ抽出、またはに出す時間をもっと長くすれば、赤みがさらに増すと思います。
花言葉は「悲哀」「憂愁」。秋の季語。
◎参考サイト/ 文献
・http://www.e-yakusou.com/
・https://ja.wikipedia.org/wiki/イチイ
・https://ja.wikipedia.org/wiki/アララギ
・http://www.eucalyptus.jp/
・http://www.hana300.com
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「シーボルト日本植物誌 <<本文覚書篇>>」
大場秀章 / 監修・解説 瀬倉正克 / 訳 八坂書房
(C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房 禁転載
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