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2024/08/21

ヌルデ・塩対応の漆黒

Nurude08 Nurude01(写真右 飯倉剛氏撮影)

【学名】 Rhus javanica, Rhus javanica Linne, Brucea javanica
【英名】 Chinese sumac, Japanese sumac
【別名】 フシノキ, カチノキ, シオノキ、エンバイシ(塩梅子),ヌルデモミジ
【生薬名】塩麩子(えんふし=実)、五倍子(ごばいし=虫こぶ)
【科】     ウルシ科 


学名のRhus は ラテン語の「ウルシ属」(ケルト語で赤の意という記述も)、javanica は「ジャワ島の」の意。

和名は、傷をつけると滲み出る白い乳液をぬりものに使ったことに由来します。
『和漢三才図絵』では、「奴留天」の字が当てられ、「天」は「手」を意味し、樹液で手がめるつく=「奴留手」からヌルデになったとあります。

雌雄異株。日本は北海道から沖縄までの各地、および中国、ヒマラヤに分布。
現在でも山野で容易に見つけることができます。鎌倉では、北鎌倉、広町の森などによくみられます。

最大の特徴は、葉の軸に「翼」がみられることで、つまり、複数の葉にみえるが全てが繋がっているといえますね。どうして葉がこんな進化を遂げたのでしょう。
20240821-215102 

フシノキの別名はヌルデシロアブラムシによって大きな虫瘤ができることから。この虫瘤を特に「五倍子(ふし)」といい、染色、お歯黒、生薬として用いました。(フシを参照のこと)

またヤノハナフシアブラムシという別の虫が若芽につくと、ヌルデハベニサンゴフシというサンゴのような虫瘤ができます。五倍子と同じように染色に利用でき、美しい紫かがった黒が染まります。

ヌルデハベニサンゴフシ(左端は正常な若芽)
Nurude02 

フシ(五倍子)
Fushi03


別名のカチノキ(勝の木)は、聖徳太子が蘇我馬子と物部守屋の戦いに際し、ヌルデの木で仏像を作り、馬子の戦勝を祈願したとの伝承から。

またシオノキは、果実に白いカリ塩で覆われることから。その昔、台湾や日本の山間部では、塩の代用品として使われていた歴史があるそうです。戦国時代には籠城に備えて庭にヌルデの木を植え、実を乾燥させて保存し、塩分補給に役立てたとか! すごい。トイレットペーパーがなくなったぐらいで大騒ぎする私たち・・・先人の知恵を大いに学ばねばなりませんな。

虫瘤の五倍子は、古くから鉄媒染で紫がかったそれは美しい黒を染め上げることで知られていますが、この度、養蜂家の飯倉剛さんのご厚意で、建長寺で切り出されたヌルデの枝葉をいただくことができまして、虫に愛される「お宿」の方を染めてみました。

五倍子に違わず、ヌルデ本体もとても堅牢な染料!  甘さのない鉄媒染のが、五倍子ほど紫味はありませんがシビれる美色。アルミで飴色から黄唐茶(きがらちゃ)、銅で冴えた、やや赤みの路考茶(ろこうちゃ)。

紅葉が美しいことでも知られており、古来数々の歌に詠まれました。

花言葉は「知的な」「華やか」「壮麗」。11/27の誕生花。


◎参考サイト / 文献

http://www.hana300.com/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヌルデ
https://www.pharm.or.jp/herb
https://note.com/poplar_jidousho/n/nfd75c5ae5b81
https://www.yomeishu.co.jp/genkigenki/

・「よくわかる樹木大図鑑」平野隆久/著 永岡書店
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 2」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「和漢三才図絵」  第89巻 寺島良安 / 著
・「葉っぱで見分け五感で楽しむ樹木図鑑」林将之 / 著 ナツメ社

 

 (C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房  禁転載

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