コチニール・南米の真紅
【学名】 Dactylopius coccus Costa
【英名】 cochineal
【別名】 臙脂虫(えんじむし)
【科】 カイガラムシ科
この鎌倉染色彩時記は「植物染料」の図鑑(・・・日記?)ですが、染織家にとって、この「虫」だけは避けては通れないので、番外編で今回は「虫」です。
メキシコ及び南米原産のカイガラムシ。ウチワサボテンに寄生します。
アステカやインカ帝国などで古くから養殖され、染色用の染料に使われてきた歴史があります。
メキシコを征服したスペイン人は初めてこのコチニールで染められた赤を見た時、それまでのヨーロッパでは見たことのない鮮やかさに大いに驚かされ、大々的な栽培を行ってヨーロッパに持ち込んで蓄財したそうです。ヨーロッパ人、はじめは虫ではなく、「種」だと思ったらしいですよ。
コチニールの赤の色素「カルミン酸色素」は、主にメスの体内や卵に多く含まれています。
そう、じつはメスしか赤くならないんです!
オスは羽が生えていてガガンボのような見た目ですが、メスはcochineal beetleというぐらいで、ちいさなカブトムシやコガネムシのような風情。ほとんど飛ぶこともなく、静かに樹液を吸って過ごします。メスの寿命は60〜120日。オスは45〜90日。やっぱり女は長生きです。
(写真出典 : 右 左)
このメスを重さが70%程度になるように乾燥させたものが染料となり、約8万〜15万匹の虫で、1キロほどの染料ができます。
日本にはポルトガル経由で若干渡来し、「臙脂虫」と呼ばれました。毛氈(もうせん: お茶席やひな壇などに敷く赤いフェルト)を染めるのに出島の中国人職人が使っていたようですね。(毛氈については、ぜひ、スピンハウス発行のスピナッツ113号をお読みください。)
江戸時代には養殖も試みられたようですが、うまくいかなかったらしいです。当時の日本は今より寒かったですからね。・・・ん? もしかして、今の暑い日本ならうまくいくかもしれません。染織文化のふるさと・沖縄あたりで新しい産業にならないでしょうか?
この染料は現在でも食品、化粧品などに幅広く添加物として使われています。そう、食紅がこれです。
ちなみに、コチニールのホストとなるウチワサボテンは、16世紀後半にポルトガル人が日本に持ち込んだとされ、以来観賞用に各地で栽培されています。
「サボテン」の名の由来は、その切り口で畳や衣服の汚れを拭き取り、樹液をシャボン(石けん)としてつかっていたため「石鹸のようなもの」という意味で「石鹸体(さぼんてい)」と呼ばれるようになったとする説が有力です。
現在メキシコにはあまりなく、ペルーが良質のものを安定供給しています。
私が学生の頃はエクアドルなどから入って来ている、と聞いていました。が、政情が不安定で輸入がとまるためよく「品切れ」になっていました。そのころは、よく出回るシルバーコチニールの他に、貴重なブラックコチニールというのがある、と言われていましたが、調べてみても、その辺のことは出てきませんでした。ご存知の方、コメントいただけれは幸いです。
染めるときは乳鉢などですりつぶして粉にしてから煮出します。
アルミで目にも鮮やかな真紅。鉄で袱紗のような紫。
お国柄というものは、囲まれている色彩におおいに影響をうけると思うのです。
南米やインドなどには強くて鮮やかな色が染まる天然染料が存在する・・・すると、そこに生きる人も陽気で鮮やかな国民性であるような。中間色が染まる染料の多い日本は、ファジーな人が多いですよね。(笑)
◎参考サイト / 文献
・http://homepage3.nifty.com/KOMBU/nutrient/nutrient_21.html
・http://ja.wikipedia.org/wiki/コチニール
・http://ja.wikipedia.org/wiki/コチニールカイガラムシ
・http://ja.wikipedia.org/wiki/サボテン
・http://www.cochineal.org/
・http://www.wordnik.com/words/cochineal
・http://www.1902encyclopedia.com/C/COC/cochineal.html
・http://dontai.com/wp/2009/03/09/female-cochineal-beetle-and-your-food/
・「草木染め 染料植物図鑑」 山崎青樹/ 著 美術出版社
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