シャガ・蝶の化身は青丹(あおに)色
【学名】 Iris japonicaThunb.
【英名】 Fringed iris
【別名】 胡蝶花
【生薬名】 Panicled Tick-Trefoil
【科】 アヤメ科
学名にjaponicaとありますが、原産は中国。irisはギリシャ語で「虹」を意味します。
かなり古い時代に日本に渡来した帰化植物。
・・・と言われる一方、万葉集や源氏物語にも登場しないこと、文献上では『山科家礼記』(応永19年/1412年~延徳4年/1492年)の延徳3(1491)年に「しやくわ」として記載されているものが最古となり、江戸時代ごろから急激に言及されはじめたため、実際のところは室町時代ごろに渡来したもの、という説もあります。
種子を作らないため地下茎で増えます。たしかに、一株植えると、ミョウガやタケのように、花も咲かせないのにいつの間にやら大家族になっていますね。
和名はヒオウギの漢名「射干」を音読みしたことに由来します。が、ヒオウギは全くの別物で、誤用と思われます。
このヒオウギ(射干)、なかなかにダークなストーリーを背負っておりまして、サンスクリット語の「シュリガーラ」に由来するそうです。シュリガーラとは尸林(しりん 死者を火葬した後、亡骸を放置する特定の森)に棲み、死体を貪る魔獣で、一説ではジャッカルのことともいわれていますが、インドの殺戮と戦争の女神カーリーの眷属(けんぞく)で、尸林をさまよい死体を食らう夜叉ダーキニーとも同一視されているのだとか。
こちらもいずれ是非、染めてみたいものです。
原産地の中国では、このシャガを「胡蝶花」と呼び、日本にもこの名前は移入されて表記もされていたのですが、いつの頃からか胡蝶花ではなく「シャガ」というあまりこの花の印象にふさわしくない名前に転じてしまいました。お花はまさに蝶のようなのに。
1590年代はポルトガルとの交易が盛んであったためか、ネットには「1596年にヨーロッパに紹介された」という記述が複数見つかります。
なぜこれほどに年が明記されているかは不明。
ちなみに1596年は、のちに秀吉が強硬に禁教令を発布するきっかけとなったサン=フェリペ号事件(土佐でスペイン船が難破した事件)が起きていいます。宣教師たちが持って帰った頃には、日本では禁教になったということですね。
和漢三才図会には「根に毒がある。多服すると瀉下し(お腹を下し)、よく火を降ろす(体にこもった熱を排出する)。それで喉の腫痛を治す。シャガの根と山豆根(サンズコン=マメ科の植物)を乾燥させて粉末にしたものを吸い込むと神効。(てきめんに効く)」という記述が見つかります。
実際、シャガの根には「イリシン」という毒成分が含まれており、口に入れると嘔吐や下痢、腹痛、胃腸炎などの健康被害を引き起こす可能性があため、素人は安易に用いない方が良いでしょう。
イギリスのサイトには「根のデンプンが食用になるが、用い方に注意。根茎は怪我の治療に用いる。煎じ薬は、気管支炎、打ち身、リウマチ、腫れの治療に用いる」という記述も見つかりますが・・・。
風水ではシャガ(射干) を空間に導入することで、「坎気(かんき=水の気)」を刺激し、経済的安定とチャンスを引き寄せることができるとされていますが、これはヒオウギに当てはまるかもしれません。
12月はじめ、庭の手入れをした時に、増えすぎていたシャガの株を少し抜きました。根ごと煮出して見たところ、ほっこりとした芳香とともに、
明るい黄色の液となりました。
アルミで女郎花(おみなえし)色、鉄で灰汁(あく)色。銅で出た青丹(あおに)色が、特筆すべき美色。
どの媒染でも濃い色にはならず、透明感のある色合いとなりました。
花の咲く頃に染めれば、もっと濃い色になるかもしれません。
花言葉は、「反抗」「友人が多い」。
5/6、6/22の誕生花。
夏の季語。
◎参考サイト 文献
・http://ja.wikipedia.org/wiki/シャガ
・https://www.hana300.com/
・https://andplants.jp/
・https://www.picturethisai.com/
・https://gkzplant.sakura.ne.jp/
・https://tenki.jp/suppl/kous4/2020/04/17/29786.html
・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著 第95巻 訳注 平凡社
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
(c) たなか牧子 禁転載
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