イワタバコ・恋の恨みと魔法の根岸色
【学名】 Conandron ramondioides Siebold et Zucc.
【別名】 山萵苣(やまちしゃ/やまちさ/やまぢしゃ)、山菜(やまな)、
滝萵苣(たきぢしゃ)、ミズタバコ、マツガネソウ
【生薬名】 クキョタイ(苦苣苔)
【 科 】 イワタバコ科
日本の本州(福島以南)から沖縄、および台湾の山地の谷間の湿った岩壁に生える多年草。
学名のConandron(コナンドロン)は、ギリシャ語のconos(円錐形の)+andros(おしべ)」が語源。おしべが集まって円錐形の形になっている様子を表しているそうです。
和名は、葉がタバコの葉に似ていることから。(タバコはナス科の別の植物)

たしかに似ていますね。
ですが、イワタバコの名が一般的になるのは明治以降で、それまでは、山萵苣(やまぢしゃ)、滝萵苣(たきぢきしゃ)の名が長く使われていました。
万葉集にも、柿本人麿の詠んだ歌が残っています。
山萵苣の
白露重み
うらぶれて
心も深く
我が恋やまず
訳 : 山ぢさが露の重みでうなだれるように、私の心も恋に沈み、思いがやまない。
この山萵苣はエゴノキなど、他の植物を指すという説もあって、イワタバコとは限らないそうです。が、身にそぐわない大きな葉をつけて、岩清水滴る崖にがんばってへばりついているイワタバコを見るに、人麻呂さんの、このジメぇっとした恋心がなんか透けて見えるような気がするんですよねぇ。
なので、私はイワタバコ説に一票。
報国寺の谷戸の奥にお住いの造形作家のご夫妻から「イワタバコは染めたことがありますか?」とご連絡をいただきました。公道沿いの崖にあるイワタバコはさすがに採る訳にはいかないので、今まで染める機会がありませんでした。
ですが今回、ご夫妻のお家の裏の崖がイワタバコの葉に覆われていると伺い、ついに試染に足りる量を得ることができました。
「この崖はコンクリートで護崖工事されることが決まっていて、採れるのはあと2,3年です」とのこと。
自然災害に強い街づくりは大切な政策ですが、このような貴重な野草が失われるのは残念なことです。うまく両立する道を探っていきたいものです。実際、イワタバコは土壌の薄い岩場に好んで生えるため根が生育しにくく、繁殖力が弱い植物。ただでさえ絶滅しやすいのです。
このイワタバコの花が咲くのはちょうど今。
この初夏に鎌倉を訪れるハイカーにとって「イワタバコの花を見に行く」のは大事な楽しみのようです。
たしかに、ゴツゴツした岩場に白や紫の花をつけるイワタバコは、絵本の題材になりそうな想像力を掻き立てる風情があります。
冒険者が魔法の薬草を命がけで取りに行く、みたいなお話ででてくる薬草の姿形は、このイワタバコがぴったりですよ。
実際、薬効も高いようです。
生薬名はクキョタイ(苦苣苔)。
日干し乾燥した葉は、食べすぎ、飲みすぎ、胃もたれ、食欲不振、消化促進などに、葉を煎じて服用するとよいそうです。
生の葉は山菜として古くから親しまれていて、少し苦味があり、この苦味が独特の風味として、天ぷら、軽く塩茹でして和えもので楽しめます。
いただいた葉っぱを煮出してみると薄黄色い液になりました。媒染前はうっすらクリーム色になったぐらいでしたが、秘めた魔法は媒染後に現れた!
アルミで淡黄色(たんこうしょく)、鉄で銀鼠(ぎんねず)、鉛色 (なまりいろ)。
そして銅ででた根岸色(ねぎしいろ)が特筆すべき美色。
花言葉は「涼しげ」「愛らしい心」「忍耐」。
7/6の誕生花。 晩夏の季語。
◎参考サイト /文献
・https://www.hana300.com/
・https://ja.wikipedia.org/wiki/イワタバコ
・http://www.e-yakusou.com
・https://greensnap.jp
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
協力: 松永聖士さん・ゆみさん
(C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房 禁転載
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