繊維のこと

2024/04/05

真綿帽子らぶ。

Mawata01 Mawata02

真綿帽子が手に入りました。

かなり汚かったので、まずはお洗濯。
広げると、半身が隠れるぐらいの大きさ。

生糸を作る過程で、食い破られたマユ、双子マユなど、生糸にならないものを集めて帽子状に伸ばして幾重にも重ねたものが綿帽子です。ちゃんと袋状になってます。

これが婚礼で花嫁がかぶる綿帽子の原型で、江戸時代は本当にこれをかぶっていたそうですよ。婚礼が終わるまで花婿の顔を見ない、邪を払う、などの意味があるそう。
Mawata03wikiより

で、これをほぐして糸にしたものを緯糸にいれた着物が「紬(つむぎ)」。

着物用には手でほそーく撚っていくのですが、わたしは羊毛用の車で紡いじゃう。
味のある糸ができます。
Mawata04 Mawata05

カジュ祭でお目にかけます。

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2008/08/06

「なになに、『生皮苧』?!」

Kibiso
Sekienouni

タイトルの『生皮苧』、なんと読むかご存知ですか? 「なまがわちょ」??
なんだか、とっても血なまぐさい字づらと響き。工房でも大騒ぎになったことがあります。

正解は「きびそ」。正体は「絹糸」です。

といっても、皆さんが想像するであろうシルキーな印象はみじんもありません。ごわごわの、「白いシュロ縄か」と思うぐらいの、野性味あふれる糸です。繭から糸を取るときに出る、クズの繊維を集めて作られます。
この糸の存在は、織りを始めた頃から知ってはいたのですが、付き合いのあった糸問屋さんたちが、ほとんど「キビソ」と綴っていたので、まさかこんなスペルだったとは、数年前まで知りませんでした。

あまり知られていないのですが、灰汁(あく=強アルカリ水)で精錬する前のナマの絹糸はどれも、繊維の表面がセリシンという蛋白質で覆われているのです。これを精錬で取り除かないと、あのつやつやの絹の感触にはなりません。

『生皮苧』の「苧」は訓読みで「カラムシ」と読みますが、これはイラクサ科の麻のこと。(カジュにも夏はたくさん生えますよー。) なるほど、こうしてみると、「表面がカラムシのような風情のナマ糸」と、納得できますね。

ゴワついてはいるのですが、シュロ縄などとはちがい、素手で作業しても手が荒れるということはありません。反対になんとなく、肌がなめらかな感じになってきます。今、一番のお気に入りの素材です。

ちなみに、「苧」の字ですが、「そ」のほかに「ちょ」とも「お」とも読みます。
江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕は「画図百鬼夜行」のなかで、「苧うに(おうに)」という妖怪を描いています。「うに」は泥炭のことで、まさに、ばさばさの髪を振り乱した黒々した妖怪です。(写真)

そうそう、お盆のデコレーション・アイテムのひとつ「おがら」は、実は「苧がら」。カラムシは、皮をむいて皮の裏にある繊維をとるのですが、その皮をとったあとの茎の芯なのです。

昔は、乾燥させた「苧がら」は焚きつけなどに使われていたので、どの家の台所にもあったそうです。

(2008年 カジュ通信 夏号より)

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2008/06/11

草の糸、地の恵

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今年は、梅雨入りが早いですね。そのせいかウメやアンズのなりが早いし、イラクサ(苧麻)の成長もいつもに比べて早いです。別名青苧(あおそ)。

170センチ美人の生徒さん、M.Rさんがうれしそうに両手に持っているのは、まさにカジュの庭で昨日採取したイラクサ。その大きさがおわかりいただけると思いますが、今の時期にここまで大きくなることは、この辺ではあまりありません。

苧麻とならんで、日本古来のもうひとつの麻、大麻。こちらは今では 所持していれば逮捕されます。
大麻は、戦後GHQの手により栽培がきびしく制限され、それが現在に至っていますが、もともと、大麻も、苧麻と同じように昔は日本各地に当たり前に生えていた固有の植物です。

「麻」とひと括りにされている植物には実に色々な種類がありまして、このほかにこの辺では赤苧(あかそ)という種類もよく見かけられます。

さて、この苧麻。夏の草刈りの最大の敵とも言える存在ですが、 私の工房ではときどき生徒さんたちと一緒に苧麻から繊維をとる作業を行っています。

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1. 大きくまっすぐに伸びた苧麻を根元から刃物で(手ではうまく切れません)刈り取る。

2. 葉っぱを丁寧に取り去り(葉は染料になります)、メインの茎を残して棒状にする。

3. 根元から茎の皮を(茎の径を2,3分割して)むく。

4. その内側についている繊維を包丁やナイフをあてて根元からこそげ落す。

5. とった繊維を乾燥させる。きれいな緑(あお)の繊維となる。

乾いた繊維は、何本か寄り合わせて太めの糸にし、緯糸に使ったり、ヒモとして使ったりしています。

皮をむいてから水に浸けておく方法もあるようですが、アクが出て、繊維の色が茶色くなってしまうので、私はあまりしません。

たべものも、きるものも、住むための材料も、地産地消といきたいものです。日本は、十分それができる恵みを授かった場所だと思います。

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2007/11/20

カシミアの謎

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カシミア(cashmere)。

1000年ほど前からインド北部のカシミール地方に生息するヤギさんです。羊は山羊を含めて600種類いると言われていますが、その中でも特に小柄な部類です。

種類にもよりますが、一頭の羊からは約1〜3キロの毛がとれるのですが、このカシミアの内毛は、その中のたった200グラム程度で、しかも刈り取って、精錬や整毛をして紡げる状態になるころには、100グラムに満たない量になってしまいます。

羊毛には、その羊によって様々な特徴がありますが、総じて、艶のある繊維は重く、軽い繊維には艶がない場合が多いのです。
しかしカシミアの内毛は、羊毛・獣毛の中で、もっとも軽く、繊維が細いもののひとつでありながら、且つ、光沢があるのです。その内毛が「繊維の宝石」と呼ばれて太古の昔から珍重されている所以です。

もともと寒冷の高地を好み、湿気と暑さに弱く、飼育には技術を要するため、近年の温暖化と飼育者の後継者不足で、数が激減しています。
黒、茶色、白がいて、市場に出回る染色の出来る白が、実は特に少ないのです。
現在の生息地は、インド北部、中国、アフガン、モンゴル、ロシアの一部と言われていますが、いずれにしても、昨今、量販店で「カシミア100%」の表示のもとで、あれだけの量を、あれほどの安価でまかなえるほど、数がいるとは到底思えません・・・。

どんなからくりになっているのでせう???

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2007/07/14

お蚕狂想曲

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いつもお世話になっているシルク。
しかーし、お蚕さんははっきり言って大好きなおともだち、というわけには参りません。
3年前の夏、ある試練がやってきました。
当時の息子の学校の宿題で、お蚕さんをグループで飼うことになったのです。

いやいや、お蚕さん、あれはただものではない。
最初はどこにでもいそうなただの小さな「毛虫」風情。
ところがいよいよ繭をつくるというときになると、身体が真珠色に光って、もうシルクプロテインでむっちむち。

神々しいほどです。
友人Rがいいました。「蚕って新幹線のぞみに似てますよ」
た、確かに似てる。

桑を食べるスピードも半端ではない。
夜、心配性の息子が枕元なんかにおくもんですから、「しゃわしゃわ」と耳もとでずっと音がして、一晩中食べていました。

一度桑がなくなって、夜中に懐中電灯をもってあらかじめ調査しておいた「桑の木スポット」に葉を取りにいったことまでありましたっけ。

でも慣れとは恐ろしいもの。
だんだん愛着が湧いてきて、一匹ずつ手でつまんで外にだし、糞を掃除したりできるようになりました。
息子は最初からなかよしでした。

次世代をふ化させてはいけない決まりがあるとかで(伝染病予防のためだそうです)
繭は、さなぎをいれたまま冷凍にされたそうです。
そのことは子供達の間で様々な波紋をよんだようです。

答えを出すのはむずかしい。
学校もあえて出さなかったそうです。

息子は、そうして殺される蚕からとられる糸で自分の母親が仕事をしているということをどう感じたでしょう。

そんな息子ももう中学生。そのうち聞いてみよう。

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2007/07/09

糸へんの仕事

Aosoakaso

表現の手段に繊維を選んだことには、特別な思い入れも、はっきりした理由もはじめはありませんでした。
大体今でも、なんでこんな因果な仕事に身を投じているのか、皆目わかりません。
スタジオには、いろんな人がやってきて、お芝居やったり、踊ったり、コンサートしたりして去っていくのですが、こんなことにも手を出す予定は全然なかった・・・。

「導かれているのよ」と最近ある人に言われたが、そうかもしれません。
でなければ、大した目的意識もなく、高邁な理想もなく、お金も無くて 10年近くも続きませんよね。

続く・・・
人が「繋」がる、「縁」を「結」ぶ、アイディア「練」る、囲まれている色は「緑」だし、なんだ、毎日全部「織」なんですね。今さらですが。

繊維はカラダにも大事です。(笑)

写真左は鎌倉の空き地にわしわしと君臨する、イラクサ、別名チョマ(苧麻)。茎の皮の内側についている繊維をこそげとってできたのが、 苧麻糸です。
写真右は、通称アカソ(赤苧)。これも麻の一種で、チョマが青苧(アオソ) とよばれ、緑っぽい糸になるのに対し、これは茶色っぽい糸ができます。

どちらも大麻とならび日本古来の繊維です。

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