鎌倉染色彩時記(染)

2024/12/19

ナラタケモドキ・日陰者の白橡(しろつるばみ)

Naratakemodoki01 Naratakemodoki03

【学名】  Armillaria tabescens (Scop.) Emel
【別名】  オリミキ、カワギノコ、サワモタシ    
【科】     タマバリタケ科 


嗚呼、ついに手をつけてしまった。

キノコ。

染色の世界では、キノコを含めた「日陰者」の染めはヨーロッパを中心に発展しています。
学生時代に授業で乾燥した「パペリージョ」というキノコで黄色を染める実習はしたことがあるのですが、ググっても全然ヒットしません。試しにpaperillosとあっているんだかわからないスペイン語のスペルで検索すると、なんか怪しいタバコ風の嗜好品が出てきました。
実は危ないものだったのか?!

庭のアンズの木が枯れてしまってしばらく経ちますが、ふと根元を見たところ、たいへん勢いのあるキノコの群生を見つけました。
香りはシイタケのそれ。それなりに肉厚で美味しそう。

さっそくFBに「これ、なんというキノコか教えてください」と投稿すると、親切な朋友からいろいろなお返事がいただけました。
本当にありがとうございました!!
おかげさまで、この子が「ナラタケモドキ」であることが判明し、食用にもなるとわかったのですが、見つけるのがちと遅かった。すでに傘裏が褐色に変色していて、食べて美味しいレベルではないことがわかったので、染めてみることにしました。

ナラタケによく似たところから「ナラタケモドキ」の名があります。
ナラタケと生態はよく似ており、ユーラシアと北アメリカ、アフリカなどに広く分布するようです。

学名のtabescensはラテン語で「やせおとろえた」の意味。日陰者たち、扱いが気の毒。

主に秋の広葉樹の枯れ木やその周辺の地上に群生します。
傘は黄褐色や淡黄色で中央に細かい鱗片と周囲に条線があり、ヒダが白色、柄にはしっかりした白いツバがあるのがナラタケで、ないものがモドキだそう。
Naratakemodoki04( 写真出典)

日本では食用キノコとして人気があり数多くの地方名もあります。

名前からもわかる通りコナラ、ミズナラなどの広葉木に寄生します。
厄介なのは、サクラ、モモ、ナシなどに寄生すると、その木を枯らしてしまう病原性をもつということ。

そうか、そのせいでうちのアンズは枯れたのね・・・。

世界中で食用とされていますが、過食、生食は中毒を起こすことがあるので注意。

日本では汁の実、炒め物、煮物などで各地に多くの郷土料理が存在します。
次は、目を光らせて新鮮なものをゲットするぞ! 「染」より「食」優先!

煮出してみると、ほっこりした香りとともに、トロみのある赤黒い液になりました。
ところが、糸にはほとんど色が移らず、どれもあっさり味。ウールと相性がいいようですが、アルミでほとんど生成りに近い練色(ねりいろ)、銅で白橡(しろつるばみ)、鉄でもちっとも黒くはならず灰汁色(あくいろ)どまり。

染めていて「ヤッタァ」感はないのですが、織り糸ととしては大変重宝な色合いです。

次は新鮮なもので試してみます。
鎌倉染色彩時記、キノコ編、開幕。

キノコにも花言葉は存在するようで、キノコ全般には「疑い」という花言葉があるんだとか。
近種のナラタケの花言葉は「一筋縄ではいかない」。

確かになぁ。


◎参考サイト/ 文献

https://ja.wikipedia.org/wiki/ナラタケモドキ
https://naturalism-2003.com/
https://kinokobito.com/
https://ippon.sakura.ne.jp/
https://note.com/menderu68/n/n457ebbd25b94

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 2」 北隆館

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2024/12/18

タンキリマメ・日常の幸せは藍海松茶(あいみるちゃ)

Tankirimame01 Tankirimame03

【学名】  Rhynchosia volubilisLour.
【別名】  ウイロウマメ、キツネマメ、キンチャクマメ、ノミマメ
        ノササゲ
【生薬名】 鹿藿(ロクカク)
【科】     マメ科 

関東南部から沖縄、台湾、フィリピン、朝鮮半島、中国に分布。

学名のRhynchosiaは、ギリシャ語のthynchos(くちばし)」が語源。
volubilis は「ねじれた」、acuminatifolia は「先が長くとがった葉」の意味。

ツルは右巻き、葉は三つ葉。小葉はクズ(葛)の葉をミニチュアにしたような、丸みを帯びた菱形をしています。
夏から初秋にかけて淡黄色の花が咲き、その後赤いサヤの豆果がつき、豆(種子)は熟すと黒くなります。この風情がなかなかかわいい❤️
この種子は、風に飛ばされることはなく、サヤの縁に付いたままになり、鳥に食べられることによって散布されるのだとか。赤いサヤをバックに黒く熟すことで、鳥に見つけてもらいやすくしているんですねぇ。

和名は「痰切豆」。豆や葉を煎じて飲むと痰が切れるところから。

中国で薬用にされており、「茎と葉は鎮痛,解熱作用があり,頭痛,腹痛,産褥熱などに用いる。できもの,はれものには煎液を外用する。種子はジフテリア,扁桃腺炎に服用し,角膜白斑には煎液を外用する。」という記述が見当たります。

が、効能については疑問視する説も。
和漢三才図会でも「よく痰をとおすといわれるが、『本草綱目』にも(痰を切るという)効能の記載がなく、効能があるか分からない」といった記述があります。

効能については別名「ウイロウマメ」にまつわるエピソードが関わっているかもしれません。

ウイロウマメは「外郎豆(ういろうまめ)」。外郎とは室町時代にはすでに京都で製造販売され、江戸時代には万能薬として有名だった銀箔で包まれた銀色の丸薬。中は黒く、これがタンキリマメに似ていたため効能まで混同された、とも考えられるそう。

うーん、私は信じたい、タンキリマメの効能を信じたいっ! 一応「鹿藿(ロクカク)」という生薬名もあるみたいだし。これはもう自分のカラダで実験するしかないな。
種子を救荒食やコーヒーの代用として使用することもあるのだとか。だとしたら、なんの効能もない・・・ということはないんじゃないだろうか。

最近庭に出没し始めたので、煮出してみました。
アルミで焦香(こがれこう)から枯茶(からちゃ)、銅で肥後煤竹(ひごすすたけ)、鉄の藍海松茶(あいみるちゃ)がなかなか粋!
絹との相性がよいようです。

花言葉は、「成長」「長寿」「日常の幸せ」。

日常の幸せをお手伝いする役立つカワイイつる草として、私はここに認定します。(笑)


◎参考サイト / 文献

http://www.hana300.com/
https://ja.wikipedia.org/wiki/タンキリマメ
https://www.shigei.or.jp/
https://hananoiwaya.jp/
https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/

・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著  第104巻 平凡社
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 3」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房

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2024/12/12

シャガ・蝶の化身は青丹(あおに)色

Shaga01 Shaga02

【学名】  Iris japonicaThunb.
【英名】  Fringed iris
【別名】  胡蝶花
【生薬名】 Panicled Tick-Trefoil
【科】     アヤメ科 

学名にjaponicaとありますが、原産は中国。irisはギリシャ語で「虹」を意味します。

かなり古い時代に日本に渡来した帰化植物。
・・・と言われる一方、万葉集や源氏物語にも登場しないこと、文献上では『山科家礼記』(応永19年/1412年~延徳4年/1492年)の延徳3(1491)年に「しやくわ」として記載されているものが最古となり、江戸時代ごろから急激に言及されはじめたため、実際のところは室町時代ごろに渡来したもの、という説もあります。

種子を作らないため地下茎で増えます。たしかに、一株植えると、ミョウガやタケのように、花も咲かせないのにいつの間にやら大家族になっていますね。

和名はヒオウギの漢名「射干」を音読みしたことに由来します。が、ヒオウギは全くの別物で、誤用と思われます。
Shaga03
このヒオウギ(射干)、なかなかにダークなストーリーを背負っておりまして、サンスクリット語の「シュリガーラ」に由来するそうです。シュリガーラとは尸林(しりん 死者を火葬した後、亡骸を放置する特定の森)に棲み、死体を貪る魔獣で、一説ではジャッカルのことともいわれていますが、インドの殺戮と戦争の女神カーリーの眷属(けんぞく)で、尸林をさまよい死体を食らう夜叉ダーキニーとも同一視されているのだとか。
こちらもいずれ是非、染めてみたいものです。

原産地の中国では、このシャガを「胡蝶花」と呼び、日本にもこの名前は移入されて表記もされていたのですが、いつの頃からか胡蝶花ではなく「シャガ」というあまりこの花の印象にふさわしくない名前に転じてしまいました。お花はまさに蝶のようなのに。

1590年代はポルトガルとの交易が盛んであったためか、ネットには「1596年にヨーロッパに紹介された」という記述が複数見つかります。
なぜこれほどに年が明記されているかは不明。 
ちなみに1596年は、のちに秀吉が強硬に禁教令を発布するきっかけとなったサン=フェリペ号事件(土佐でスペイン船が難破した事件)が起きていいます。宣教師たちが持って帰った頃には、日本では禁教になったということですね。

和漢三才図会には「根に毒がある。多服すると瀉下し(お腹を下し)、よく火を降ろす(体にこもった熱を排出する)。それで喉の腫痛を治す。シャガの根と山豆根(サンズコン=マメ科の植物)を乾燥させて粉末にしたものを吸い込むと神効。(てきめんに効く)」という記述が見つかります。

実際、シャガの根には「イリシン」という毒成分が含まれており、口に入れると嘔吐や下痢、腹痛、胃腸炎などの健康被害を引き起こす可能性があため、素人は安易に用いない方が良いでしょう。

イギリスのサイトには「根のデンプンが食用になるが、用い方に注意。根茎は怪我の治療に用いる。煎じ薬は、気管支炎、打ち身、リウマチ、腫れの治療に用いる」という記述も見つかりますが・・・。

風水ではシャガ(射干) を空間に導入することで、「坎気(かんき=水の気)」を刺激し、経済的安定とチャンスを引き寄せることができるとされていますが、これはヒオウギに当てはまるかもしれません。

12月はじめ、庭の手入れをした時に、増えすぎていたシャガの株を少し抜きました。根ごと煮出して見たところ、ほっこりとした芳香とともに、
明るい黄色の液となりました。
アルミで女郎花(おみなえし)色、鉄で灰汁(あく)色。銅で出た青丹(あおに)色が、特筆すべき美色。
どの媒染でも濃い色にはならず、透明感のある色合いとなりました。
花の咲く頃に染めれば、もっと濃い色になるかもしれません。

花言葉は、「反抗」「友人が多い」。
5/6、6/22の誕生花。 
夏の季語。

◎参考サイト 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/シャガ
https://www.hana300.com/
https://andplants.jp/
https://www.picturethisai.com/
https://gkzplant.sakura.ne.jp/
https://tenki.jp/suppl/kous4/2020/04/17/29786.html
・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著 第95巻 訳注 平凡社
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館


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2024/11/29

ウイキョウ・妖怪召喚の蒸栗色(むしぐりいろ)

Fennel01 Fennel02

【学名】  Foeniculum vulgare Mill
【英名】  Fennel 
【別名】    フェンネル、クレノオモ(呉の母)
【生薬名】 ウイキョウ(茴香)、カイキョウ(懐香)
【科】     セリ科 

地中海沿岸が原産。ローマ時代から栽培されていたそうです。
日本には、平安時代に渡来しました。

「茴香」と綴るのが一般的ですが、もともとは「回香」。
回教徒(イスラム)が中国に伝え、それが日本に伝わったことに由来するという説、腐りかかった魚もこれをまぶすと食べられるようになった(回復した)からという説があります。

江戸時代中期に編纂された百科事典「和漢三才図絵」には「現在(江戸時代)、寧夏(寧夏回教自治区)に産するものを第一とする。(一番高品質である。)」とあります。さらに「そもそも臭い肉を煮るとき、これを少し入れれば臭気はなくなる。臭醤(=魚醤?)にも粉末を入れると香ばしくなる。それで茴香という。また俚俗では、よくこれを衿衽(えり)に 懐れて(いれて)おいて、取り出して咀嚼したりする。恐らく懐香という名はこれからきたものであろう。」などの記述があります。

ウイキョウの種は、実際、すっきりした甘さがあり、口の中がさっぱりしますね。インド料理店で、帰り際に口に含むようすすめられる種が、これです。
欧米ではフィッシュ・ハーブの異名をとるほど、魚料理によく使われるそうです。

「ギリシャ本草」(マテリア・メディカ )という書物には、茴香は「マラソン」と記されているとか。
マラソンレースで有名なマラソンの辺りに、茴香が咲き乱れていたことに由来するそうです。

乾燥させた種を生薬で「茴香」といい、芳香性の健胃剤として食欲を促進させるとともに、胃腸疾患にも効き目あり。

そしてなんと、ヨーロッパでは、ウイキョウの葉をいぶして妖怪変化を呼び出すために魔法使いが用いたと伝えられています!
日本の妖怪も呼べるかしら。水木先生〜!!

数年前の6月、友人が畑のウイキョウを分けてくれたので、煮出してみました。
爽やかな香りが広がって気持ちが華やぎましたが、もしかして、妖怪が出てくるか?とちょっと心配ななりましたね。
アルミで蒸栗色(むしぐりいろ)、銅と鉄で木蘭色(もくらんじき)から油色(あぶらいろ)

タンニン質が少ないのでしょうか、強い魔力に反してどの色もあっさり味の柔らか色。鉄でも黒っぽくはなりませんでした。


俳諧では、花が「花(魂香花(こんこうか)」「呉(くれ)の花」として夏の季語。
実(茴香子(ういきょうし)など)は秋の季語。

花言葉は「賞賛に価する」「力量」「よい香り」。
6/25・10/9・10/25の誕生花。

◎参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/フェンネル
http://www.hana300.com/
http://www.e-yakusou.com/
http://www.pfaf.org
・http://members.jcom.home.ne.jp/tink(閉鎖)
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「和漢三才図絵」第99巻 寺島良安 / 著  島田勇雄/竹島淳夫/樋口元巳 /訳注 平凡社

 

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2024/11/28

カイヅカイブキ・昇り竜は萱草色(かんぞういろ)

Ibuki01 Ibuki05

【学名】  Juniperus chinensis 'Kaizuka'
【英名】    Chinese juniper, Dragon juniper
【別名】  カマクライブキ, カイヅカ、カイヅカビャクシン, 龍柏   
【 科】    ヒノキ科 ビャクシン属

 

ヒノキ科ビャクシン属イブキ(ビャクシン)の栽培品種の1つ。

日本原産。
中国、台湾、日本(本州から沖縄)、朝鮮半島などで公園、庭園、庭、生垣、道路の緑樹帯(街路樹)などに植栽されています。
洋風の雰囲気や枝葉が密生し目隠し効果が高いことから、昭和期に庭木や生垣として盛んに用いられました。
大気汚染、乾燥、塩害、雪害にも強い!

カイヅカイブキは、イブキ(ビャクシン)からつくられたとする説と、ほふく性のミヤマビャクシンからつくられたとする説があるそうです。

和名の由来は、大阪の「貝塚」で作られた、あるいは樹形が巻貝のようになることから、など諸説。

イブキは床柱として賞用されることで知られ、鉛筆や建具・家具などにも使われます。

工房のとなりにある荏柄天神のニノ鳥居には、みごとなイブキが植えられています。
ここをくぐるだけで、悪いものを全て落とせる気がします。

Ibuki02
風水ではカイヅカイブキを植える方角は東南が吉なのだとか。
うーん、荏柄天神さんからみると、このイブキ真南ですね。あ、でもうちの工房から見ると、ちょうど東南!
やっぱり守られているんだわ。

英名にあるように、龍を思わせる、ねじれた枝葉が、カイヅカイブキが縁起がよい木とされている理由です。

梨園の近くには植えてはいけません。これらビャクシン属の植物につくサビ病と、梨の木につく赤星(あかほし)病の菌が同一なため、お互いに繁殖しやすくなってしまうためだそうです。
梨に限らず、ボケ、カリン、カイドウなどバラ科の植物の近くには同じ理由でやはり植えない方がよいそうです。

イギリスのサイトに「枝葉は寄生虫性皮膚疾患やリウマチの治療に、果実はけいれん・過度の発汗・肝炎の治療に、根は火傷の治療に用いられる。樹脂はマツ属の樹脂と混合され、腫瘍の溶解剤として用いられる。」などの記述が見つかります。

和漢三才図会の檜柏(いぶき)の項には「材とするには良くないが、相州の鎌倉の産は葉が最も美しい」という記述が見当たります。

お向かいのおうちにあるカイヅカイブキをちょうど植木屋さんが選定していたので、少し分けていただきました。
煮出すと、さすがヒノキ科、森林浴系の芳香が広がります。

液はきれいな赤。
アルミで透明感のある萱草色(かんぞういろ)、銅で桑茶(くわちゃ)、鉄でほっこりした黄枯茶(きがらちゃ)


大阪府貝塚市のシンボル。
花言葉は「援助」。


◎参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/カイヅカイブキ
https://niwa-iro.jimdofree.com/樹木の縁起
https://suzu-hikone.com/blog/
https://www.hana300.com/
https://pfaf.org/
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版」 北隆館
・「よくわかる樹木大図鑑」平野隆久/著 永岡書店

 

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2024/11/13

レモングラス・爽やかすぎる草色

Lemongrass01 Lemongrass02

【学名】  Cymbopogon citratus【和名】  レモンガヤ、レモンソウ
【生薬名】 コウボウ(香茅)、ネイモウボウ(檸檬茅)  
【 科 】   イネ科 

インド南部~スリランカの原産。 
日本には大正時代に渡来しました。
現在は日本の沖縄など世界の熱帯地方で広く栽培されています。

学名のCymbopogon は、ラテン語のcymbe(舟)と pogon(ひげ)が語源。
Citrus(シトラス)は、レモンの木に対する古い呼び名で、これが属名になったようです。

葉はレモンに似て、レモンより強い香りがあり、アジア料理、カリブ料理に広く使われています。タイのトムヤムクンは有名ですね。

脳血栓、脳梗塞、心筋梗塞の予防には、刻んで陰干しにした葉を、お茶のように熱湯をそそいで飲用すると効果あり。
生の葉は、そのまま熱湯で健康飲料として飲用すると、消化不良や胃と腸の筋肉を弛緩して痙攣のやわらげます。

精油は、消臭効果が高く、ペット、タバコなどの室内の臭いを消すのに重宝。
また、鎮痛・鎮静・抗炎症・殺菌効果も期待できます。

柑橘系の精油は、肌に塗って日に当たると、シミの原因になったりするのですが、こちらは香りは柑橘系ですが、イネ科なので、そのような光毒性はないそうです。便利!

ヨーロッパには16〜17世紀の大航海時代に熱帯アジア諸地域産の香料(スパイス)が運ばれた、いわゆる「スパイスロード」にのって伝わったといわれ、イギリスのサイトには「スパイスルートで運ばれたハーブの1つ。苦味と芳香があり、冷却効果のあるハーブで、発汗を促進し、けいれんを和らげる。精油は、効果的な抗真菌剤および抗菌剤。また顕著な鎮静作用がある。内服薬としては主に消化器系の問題の治療にお茶として使用され、胃腸の筋肉をリラックスさせ、けいれん痛や鼓腸を和らげる。特に子供に有効で、子供の軽い発熱性疾患の治療にも使用される。外用としては、精油の形で、水虫、白癬、シラミ、疥癬など、さまざまな症状に非常に効果的。若い茎の真ん中の柔らかい部分は野菜として食用にできる。」の記述も見当たります。

なんと、コウボウ(香茅)の名で古くから染料としても知られていたそうです!
というわけで、染めてみました。

今回のレモングラスは、逗子産。逗子にお住いの方のお庭に勢いよく繁茂しているものをおすそ分けしていただきました。関東で繁茂とは、前述のシークワーサーといい、やっぱり温暖化の影響でしょうか。

煮出すと、工房中が柑橘系の満たされ、自分が少女漫画の主人公になったような爽やかな気持ちになりました。
嗚呼、ずっと浸っていたい。

液は予想通り、透明感のある黄色。アルミで金糸雀色(かなりあいろ)から丁子色(ちょうじいろ)、鉄で老竹色(おいたけいろ)、銅で出たが草色(さいろ)が特筆すべき美色。


花言葉は「爽快」「爽やかな性格」「凛々しさ」「再生」「追求」。
9/22の誕生花。 秋の季語。


◎参考サイト

https://www.t-tree.net/
https://www.hana300.com/
https://ja.wikipedia.org/wiki/レモングラス
https://pfaf.org
https://hanamika.com/
https://shop.sweetsvillage.com
https://www.mukogawa-u.info/

 

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2024/11/12

シークワーサー・南国発の淡黄色


Shikuasa01 Shikuasa04
写真左 撮影:阪口泉

【学名】  Citrus depressa
【英名】  Flat lemon, Shikuwasa
【別名】  平実檸檬(ひらみれもん)
【 科 】   ミカン科 

沖縄および台湾に自生する柑橘類。
学名のCitrus(シトラス)は、レモンの木に対する古い呼び名です。

言わずと知れた沖縄地方の名産です。が、気候変動のせいでしょうか、近頃では関東でも庭木として植えられることが多くなりました。(日本列島沖縄可?)

実はみかんよりもやや小さめ。
「シー」は沖縄方言で「酸っぱい」、「クワス」は「食べもの」「加える」の意味だそうです。

シークヮーサーに多く含まれるフラボノイドの一種ノビレチンには、がん抑制効果や、血糖値の上昇抑制、慢性リウマチの予防・治療、抗認知症効果、抗肥満効果があるとする研究報告があり、近年は健康食品として加工され広く流通しています。

食用以外では、芭蕉布を織り上げた際に、そのままでは固い布を未熟なシークヮーサーの果汁で洗浄し、余剰の有機物を酸で溶かして柔らかくする用途にも利用されてきました。(そのあとお茶碗で布をしごいてさら柔らかさと光沢をだします。)
また、くたびれた芭蕉布の再生のために数年に一度、シークヮーサーの果汁で洗濯することもあったとか。沖縄の文化を支えた植物なんですね。

沖縄経済において重要な特産品であり、様々な製品に利用されているシークヮーサーは、1960年代から販売目的の栽培が本格化し、沖縄県内では、大宜味村と名護市勝山が最大の生産地となっており、全生産の70%を占めているそうです。

近所の友人が、庭に植えられているシークワーサーを剪定した際、枝葉をわけてくれました。
ユズやミカンとよく似た葉っぱ。

柑橘系の植物は、総じて煮出すと爽やかな香りがするのですが、あれ? なんかちょっとちがう。
その爽やかな香りとともに、なんというか「ネギ臭」「ニンニク臭」に似た匂いが漂います。一味ちがうのう、お主。

でも、色はほかの柑橘系とあまりかわりません。

アルミで淡黄(たんこう)色、銅で鶯色(うぐいすいろ)、鉄で菜種油色(なたねゆいろ)


花言葉は「優雅」。
9/6の誕生花。 
秋の季語。


◎参考サイト

https://www.facebook.com/okiden.jp/
https://www.hana300.com/
https://ja.wikipedia.org/wiki/シークヮーサー
https://brank-rune.seesaa.net/
https://yeahscars.com/gotouti/okinawa/

 

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2024/10/30

メラレウカ・ふとももパワーの漆黒

Melaleuca01 Melaleuca02
写真右2つ→出典

【学名】  Melaleuca bracteata,
      Melaleuca alternifolia,
                 Melaleuca leucadendra,
      Melaleuca hypericifolia, etc.
【別名】  カユプテ、ブラックティートゥリー, リバーティートゥリーほか
【 科 】   フトモモ科

 

東南アジア~オーストラリア西部原産。
オーストラリアにはフトモモ科の植物の原種が様々ありますが(ユーカリも)、このフトモモちゃん、染料として優秀なものが多く、とくに鉄媒染ででる黒がどれも秀逸! 
ユーカリ同様、メラレウカも種類がたくさんあり、100種以上ともいわれています。
アロマオイルで有名なティートゥリーもそのひとつ。Melaleuca bracteataはブラックティートゥリーと呼ばれています。

18世紀頃、オーストラリアに上陸した海洋研究家のキャプテン・クックは、この葉をお茶の代わりに飲んだとか。「ティーツリー」というネーミングはそこからきたとも。

薬効の高いアロマオイルは、オーストラリアの家庭の救急箱には常備されているそうです。殺菌効果が高いことから、石けん・ボディケア用品・デンタルケア用品などにも配合されていることも多いです。皮膚を消毒する作用が期待できるため、ニキビケア向けの化粧品に使われることも。

先住民アボリジニの間では、古くからその強い殺菌力や抗菌、抗ウイルス、抗真菌、抗炎症などの作用から万能薬として愛用されてきた歴史があるあります。防腐作用も認められます。

日本でも近年、数種類が庭木として人気がでています。

友人の庭師が葉山で剪定したというメラレウカ(ブラックティートゥリー)枝葉を分けてくれました。
煮出すと、コウヤマキに似た、さらに華やかでフルーティーな芳香が強く漂います。すばらしく気分がよくなる❤️

その華やかさに似合わず、というか、薬効の高さを反映してというか、煮出した液は赤黒い濃いものとなり、アクの泡がぶくぶくと浮かびました。
さすが、フトモモ科パワー!
あ、ちなみにフトモモは「太腿」ではなく「蒲桃」。中国名「蒲桃(プータオ)」が沖縄方言で「フートー」となり、 それが「フトモモ」になったといわれています。

アルミで桑染色(くわぞめいろ)、銅で鶯茶(うぐいすちゃ)。そして鉄では輝く漆黒(しっこく)


花言葉は「清潔」「強い味方」。 


◎参考サイト 

http://www.yonemura.co.jp/
https://pfaf.org/
https://www.yu-kikobo.com/
https://meetsmore.com/

 

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2024/10/17

ハナニラ・ベツレヘムの星は蒸栗色(むしぐりいろ)

Hananira03 Hananira01

【学名】  Ipheion uniflorum
【英名】  spring star
【別名】  ベツレヘムの星(=オオアマナ) 、西洋甘菜(セイヨウアマナ)
【 科 】   ヒガンバナ科  (旧ユリ科)

 

アルゼンチン原産。
明治時代中期に観賞用とし栽培されるようになり、それが野生化して広まりました。

茎を切るとニラのような香りがしますが、ニラとは全くの別物。
北海道をのぞく日本各地に自生するよく似た在来種にアマナがあり、別名はここから。

アマナの球根は食用とされていたこともあるそうですが、ハナニラには毒性があり、口にすると、激しい下痢を起こすこともあるので注意が必要ですね。とくに球根には気をつけたほうがいいようです。

食用のハナニラはニラ科のニラの花で、こちらのハナニラとは関係ありません。ややこしいですねー。

やはり明治時代に渡来したヨーロッパ・アジア南西部原産のオオアマナ(キジカクシ科)は、同じく毒草。
って、また違うの出てきた・・・。

オオアマナとハナニラの別名「ベツレヘムの星」は、その星型の美しい花に対する最大の賛辞と言えるでしょう。
=========
ベツレヘムの星
=========
またはクリスマスの星。東方の三博士にイエス・キリストの誕生を知らせ、ベツレヘムに導いた、キリスト教徒にとって宗教的な星。マタイによる福音書によれば、博士たちは星の出現に霊感を受けて「東方」からエルサレムまで旅をした。

ハナニラの花びらは6枚ですが、ベツレヘムの星は八芒星(オクタグラム)で表現されることが多いそうです。
それでも、キリスト教の世界でもとても重要な星をこの花に例えたとわかり、ちょっと見方がかわりました。

Hananira04

そんなありがたい花ではあるものの、ものすごい繁殖力で生えて欲しくないところにまだ広がってしまったので、採取して煮出してみました。
うーん、ニラ臭がすごい・・・。かなり量がありましたが液は意外とあっさり味。うっすら黄色くなるにとどまりまして、アルミで蒸栗色(むしぐりいろ)、銅で枯草色(かれくさいろ)、鉄で柳茶色(やなぎちゃいろ)
どれもほんわか。
ベツレヘムの星はどこまでも優しかったです。

花言葉は、「悲しい別れ」「耐える愛」「恨み」「卑劣」「愛しい人」「星に願いを」。
2/22、2/23、3/26の誕生花


◎参考サイト/ 文献

https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/
https://pfaf.org/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ハナニラ
https://ja.wikipedia.org/wiki/オオアマナ
https://ja.wikipedia.org/wiki/アマナ
https://hanaprime.jp/language-flower/
https://garden-vision.net/
https://www.hana300.com/
https://mikawanoyasou.org/

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房

 

 (C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房  禁転載

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2024/10/15

ヤブソテツ・陰キャの藍海松茶(あいみるちゃ)

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【学名】  Cyrtomium fortunei var. fortunei, Cyrtomium fortunei J.Sm.
【英名】  house holly-fern, Japanese holly fern
【別名】  オニシダ(=オニヤブソテツ)
【生薬名】 全縁貫衆(ゼンエンカンジュウ)
【 科 】   オシダ科 


中国原産の常緑シダ植物。
ヤマヤブソテツ、ミヤコヤブソテツ、オニヤブソテツなどを総称してこう呼ぶほか、「ヤブソテツ」という特定の種を指す場合もあるようです。

本州~沖縄,および韓国,中国,台湾,インドシナ半島に分布しますが,園芸を介して広まって今では世界各地で逸出しています。

学名の「Cyrtomium」はギリシャ語のcyrtomaに由来。「曲がる」の意味で、葉が弓なりに曲がることから。
和名はそのまま「ソテツに似たシダ植物」という意味。

根茎および葉柄の残基を生薬として扱うことがあるようです。解毒,殺虫作用があり流行性感冒,鉤虫症,回虫症などに用いるという記述が見当たりましたが、詳しくは不明。

ヨーロッパでは観葉植物としての人気が高いそうです。
イギリスのサイトに「根茎には鎮痛、駆​​虫、抗菌、抗凝固、抗ウイルス、浄化、解熱、止血作用がある。煎じ薬は鉤虫、条虫、回虫症、フィラリア症、急性感染性肝炎およびさまざまな出血性疾患の治療に使用される。また、インフルエンザや麻疹の予防としても使用される。」という記述も見つかります。

工房の古民家の玄関脇に、妙に「陰(いん)」な一角がありまして、笹がわっさりと生える陰に音もなく、静々と繁茂しているのがヤブソテツ。
春先にはワラビやゼンマイのようにくるくるした若葉がでで、ちょっとかわいいかなぁ・・・と思ったけど、よく見ると、もっさい毛が生えているし、なんか全然食べられる感じぢゃないし・・・やっぱあんまり、かわいくない。

じゃ、染めてみるか、と「陰」があまり広がるのもなんなので、剪定したときに煮出してみました。

予想通りの「陰」な色合い。
アルミで丁字染色(ちょうじぞめいろ)、銅で枯茶(からちゃ)、鉄で藍海松茶(あいみるちゃ)

染めていて、ウキウキする感じはありませんでしたが、織りに使う糸では、こんな色合いが重宝することが多いです。

陰キャには陰キャの居場所あり。

花言葉は、「勇気」「健常」(オニヤブソテツ)。


◎参考サイト/ 文献

https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/
https://pfaf.org/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヤブソテツ
https://matsue-hana.com/
https://terra-rium.com/

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房

 

 (C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房  禁転載

 

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