鎌倉染色彩時記(染)

2024/11/29

ウイキョウ・妖怪召喚の蒸栗色(むしぐりいろ)

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【学名】  Foeniculum vulgare Mill
【英名】  Fennel 
【別名】    フェンネル、クレノオモ(呉の母)
【生薬名】 ウイキョウ(茴香)、カイキョウ(懐香)
【科】     セリ科 

地中海沿岸が原産。ローマ時代から栽培されていたそうです。
日本には、平安時代に渡来しました。

「茴香」と綴るのが一般的ですが、もともとは「回香」。
回教徒(イスラム)が中国に伝え、それが日本に伝わったことに由来するという説、腐りかかった魚もこれをまぶすと食べられるようになった(回復した)からという説があります。

江戸時代中期に編纂された百科事典「和漢三才図絵」には「現在(江戸時代)、寧夏(寧夏回教自治区)に産するものを第一とする。(一番高品質である。)」とあります。さらに「そもそも臭い肉を煮るとき、これを少し入れれば臭気はなくなる。臭醤(=魚醤?)にも粉末を入れると香ばしくなる。それで茴香という。また俚俗では、よくこれを衿衽(えり)に 懐れて(いれて)おいて、取り出して咀嚼したりする。恐らく懐香という名はこれからきたものであろう。」などの記述があります。

ウイキョウの種は、実際、すっきりした甘さがあり、口の中がさっぱりしますね。インド料理店で、帰り際に口に含むようすすめられる種が、これです。
欧米ではフィッシュ・ハーブの異名をとるほど、魚料理によく使われるそうです。

「ギリシャ本草」(マテリア・メディカ )という書物には、茴香は「マラソン」と記されているとか。
マラソンレースで有名なマラソンの辺りに、茴香が咲き乱れていたことに由来するそうです。

乾燥させた種を生薬で「茴香」といい、芳香性の健胃剤として食欲を促進させるとともに、胃腸疾患にも効き目あり。

そしてなんと、ヨーロッパでは、ウイキョウの葉をいぶして妖怪変化を呼び出すために魔法使いが用いたと伝えられています!
日本の妖怪も呼べるかしら。水木先生〜!!

数年前の6月、友人が畑のウイキョウを分けてくれたので、煮出してみました。
爽やかな香りが広がって気持ちが華やぎましたが、もしかして、妖怪が出てくるか?とちょっと心配ななりましたね。
アルミで蒸栗色(むしぐりいろ)、銅と鉄で木蘭色(もくらんじき)から油色(あぶらいろ)

タンニン質が少ないのでしょうか、強い魔力に反してどの色もあっさり味の柔らか色。鉄でも黒っぽくはなりませんでした。


俳諧では、花が「花(魂香花(こんこうか)」「呉(くれ)の花」として夏の季語。
実(茴香子(ういきょうし)など)は秋の季語。

花言葉は「賞賛に価する」「力量」「よい香り」。
6/25・10/9・10/25の誕生花。

◎参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/フェンネル
http://www.hana300.com/
http://www.e-yakusou.com/
http://www.pfaf.org
・http://members.jcom.home.ne.jp/tink(閉鎖)
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「和漢三才図絵」第99巻 寺島良安 / 著  島田勇雄/竹島淳夫/樋口元巳 /訳注 平凡社

 

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2024/11/28

カイヅカイブキ・昇り竜は萱草色(かんぞういろ)

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【学名】  Juniperus chinensis 'Kaizuka'
【英名】    Chinese juniper, Dragon juniper
【別名】  カマクライブキ, カイヅカ、カイヅカビャクシン, 龍柏   
【 科】    ヒノキ科 ビャクシン属

 

ヒノキ科ビャクシン属イブキ(ビャクシン)の栽培品種の1つ。

日本原産。
中国、台湾、日本(本州から沖縄)、朝鮮半島などで公園、庭園、庭、生垣、道路の緑樹帯(街路樹)などに植栽されています。
洋風の雰囲気や枝葉が密生し目隠し効果が高いことから、昭和期に庭木や生垣として盛んに用いられました。
大気汚染、乾燥、塩害、雪害にも強い!

カイヅカイブキは、イブキ(ビャクシン)からつくられたとする説と、ほふく性のミヤマビャクシンからつくられたとする説があるそうです。

和名の由来は、大阪の「貝塚」で作られた、あるいは樹形が巻貝のようになることから、など諸説。

イブキは床柱として賞用されることで知られ、鉛筆や建具・家具などにも使われます。

工房のとなりにある荏柄天神のニノ鳥居には、みごとなイブキが植えられています。
ここをくぐるだけで、悪いものを全て落とせる気がします。

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風水ではカイヅカイブキを植える方角は東南が吉なのだとか。
うーん、荏柄天神さんからみると、このイブキ真南ですね。あ、でもうちの工房から見ると、ちょうど東南!
やっぱり守られているんだわ。

英名にあるように、龍を思わせる、ねじれた枝葉が、カイヅカイブキが縁起がよい木とされている理由です。

梨園の近くには植えてはいけません。これらビャクシン属の植物につくサビ病と、梨の木につく赤星(あかほし)病の菌が同一なため、お互いに繁殖しやすくなってしまうためだそうです。
梨に限らず、ボケ、カリン、カイドウなどバラ科の植物の近くには同じ理由でやはり植えない方がよいそうです。

イギリスのサイトに「枝葉は寄生虫性皮膚疾患やリウマチの治療に、果実はけいれん・過度の発汗・肝炎の治療に、根は火傷の治療に用いられる。樹脂はマツ属の樹脂と混合され、腫瘍の溶解剤として用いられる。」などの記述が見つかります。

和漢三才図会の檜柏(いぶき)の項には「材とするには良くないが、相州の鎌倉の産は葉が最も美しい」という記述が見当たります。

お向かいのおうちにあるカイヅカイブキをちょうど植木屋さんが選定していたので、少し分けていただきました。
煮出すと、さすがヒノキ科、森林浴系の芳香が広がります。

液はきれいな赤。
アルミで透明感のある萱草色(かんぞういろ)、銅で桑茶(くわちゃ)、鉄でほっこりした黄枯茶(きがらちゃ)


大阪府貝塚市のシンボル。
花言葉は「援助」。


◎参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/カイヅカイブキ
https://niwa-iro.jimdofree.com/樹木の縁起
https://suzu-hikone.com/blog/
https://www.hana300.com/
https://pfaf.org/
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版」 北隆館
・「よくわかる樹木大図鑑」平野隆久/著 永岡書店

 

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2024/11/13

レモングラス・爽やかすぎる草色

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【学名】  Cymbopogon citratus【和名】  レモンガヤ、レモンソウ
【生薬名】 コウボウ(香茅)、ネイモウボウ(檸檬茅)  
【 科 】   イネ科 

インド南部~スリランカの原産。 
日本には大正時代に渡来しました。
現在は日本の沖縄など世界の熱帯地方で広く栽培されています。

学名のCymbopogon は、ラテン語のcymbe(舟)と pogon(ひげ)が語源。
Citrus(シトラス)は、レモンの木に対する古い呼び名で、これが属名になったようです。

葉はレモンに似て、レモンより強い香りがあり、アジア料理、カリブ料理に広く使われています。タイのトムヤムクンは有名ですね。

脳血栓、脳梗塞、心筋梗塞の予防には、刻んで陰干しにした葉を、お茶のように熱湯をそそいで飲用すると効果あり。
生の葉は、そのまま熱湯で健康飲料として飲用すると、消化不良や胃と腸の筋肉を弛緩して痙攣のやわらげます。

精油は、消臭効果が高く、ペット、タバコなどの室内の臭いを消すのに重宝。
また、鎮痛・鎮静・抗炎症・殺菌効果も期待できます。

柑橘系の精油は、肌に塗って日に当たると、シミの原因になったりするのですが、こちらは香りは柑橘系ですが、イネ科なので、そのような光毒性はないそうです。便利!

ヨーロッパには16〜17世紀の大航海時代に熱帯アジア諸地域産の香料(スパイス)が運ばれた、いわゆる「スパイスロード」にのって伝わったといわれ、イギリスのサイトには「スパイスルートで運ばれたハーブの1つ。苦味と芳香があり、冷却効果のあるハーブで、発汗を促進し、けいれんを和らげる。精油は、効果的な抗真菌剤および抗菌剤。また顕著な鎮静作用がある。内服薬としては主に消化器系の問題の治療にお茶として使用され、胃腸の筋肉をリラックスさせ、けいれん痛や鼓腸を和らげる。特に子供に有効で、子供の軽い発熱性疾患の治療にも使用される。外用としては、精油の形で、水虫、白癬、シラミ、疥癬など、さまざまな症状に非常に効果的。若い茎の真ん中の柔らかい部分は野菜として食用にできる。」の記述も見当たります。

なんと、コウボウ(香茅)の名で古くから染料としても知られていたそうです!
というわけで、染めてみました。

今回のレモングラスは、逗子産。逗子にお住いの方のお庭に勢いよく繁茂しているものをおすそ分けしていただきました。関東で繁茂とは、前述のシークワーサーといい、やっぱり温暖化の影響でしょうか。

煮出すと、工房中が柑橘系の満たされ、自分が少女漫画の主人公になったような爽やかな気持ちになりました。
嗚呼、ずっと浸っていたい。

液は予想通り、透明感のある黄色。アルミで金糸雀色(かなりあいろ)から丁子色(ちょうじいろ)、鉄で老竹色(おいたけいろ)、銅で出たが草色(さいろ)が特筆すべき美色。


花言葉は「爽快」「爽やかな性格」「凛々しさ」「再生」「追求」。
9/22の誕生花。 秋の季語。


◎参考サイト

https://www.t-tree.net/
https://www.hana300.com/
https://ja.wikipedia.org/wiki/レモングラス
https://pfaf.org
https://hanamika.com/
https://shop.sweetsvillage.com
https://www.mukogawa-u.info/

 

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2024/11/12

シークワーサー・南国発の淡黄色


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写真左 撮影:阪口泉

【学名】  Citrus depressa
【英名】  Flat lemon, Shikuwasa
【別名】  平実檸檬(ひらみれもん)
【 科 】   ミカン科 

沖縄および台湾に自生する柑橘類。
学名のCitrus(シトラス)は、レモンの木に対する古い呼び名です。

言わずと知れた沖縄地方の名産です。が、気候変動のせいでしょうか、近頃では関東でも庭木として植えられることが多くなりました。(日本列島沖縄可?)

実はみかんよりもやや小さめ。
「シー」は沖縄方言で「酸っぱい」、「クワス」は「食べもの」「加える」の意味だそうです。

シークヮーサーに多く含まれるフラボノイドの一種ノビレチンには、がん抑制効果や、血糖値の上昇抑制、慢性リウマチの予防・治療、抗認知症効果、抗肥満効果があるとする研究報告があり、近年は健康食品として加工され広く流通しています。

食用以外では、芭蕉布を織り上げた際に、そのままでは固い布を未熟なシークヮーサーの果汁で洗浄し、余剰の有機物を酸で溶かして柔らかくする用途にも利用されてきました。(そのあとお茶碗で布をしごいてさら柔らかさと光沢をだします。)
また、くたびれた芭蕉布の再生のために数年に一度、シークヮーサーの果汁で洗濯することもあったとか。沖縄の文化を支えた植物なんですね。

沖縄経済において重要な特産品であり、様々な製品に利用されているシークヮーサーは、1960年代から販売目的の栽培が本格化し、沖縄県内では、大宜味村と名護市勝山が最大の生産地となっており、全生産の70%を占めているそうです。

近所の友人が、庭に植えられているシークワーサーを剪定した際、枝葉をわけてくれました。
ユズやミカンとよく似た葉っぱ。

柑橘系の植物は、総じて煮出すと爽やかな香りがするのですが、あれ? なんかちょっとちがう。
その爽やかな香りとともに、なんというか「ネギ臭」「ニンニク臭」に似た匂いが漂います。一味ちがうのう、お主。

でも、色はほかの柑橘系とあまりかわりません。

アルミで淡黄(たんこう)色、銅で鶯色(うぐいすいろ)、鉄で菜種油色(なたねゆいろ)


花言葉は「優雅」。
9/6の誕生花。 
秋の季語。


◎参考サイト

https://www.facebook.com/okiden.jp/
https://www.hana300.com/
https://ja.wikipedia.org/wiki/シークヮーサー
https://brank-rune.seesaa.net/
https://yeahscars.com/gotouti/okinawa/

 

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2024/10/30

メラレウカ・ふとももパワーの漆黒

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写真右2つ→出典

【学名】  Melaleuca bracteata,
      Melaleuca alternifolia,
                 Melaleuca leucadendra,
      Melaleuca hypericifolia, etc.
【別名】  カユプテ、ブラックティートゥリー, リバーティートゥリーほか
【 科 】   フトモモ科

 

東南アジア~オーストラリア西部原産。
オーストラリアにはフトモモ科の植物の原種が様々ありますが(ユーカリも)、このフトモモちゃん、染料として優秀なものが多く、とくに鉄媒染ででる黒がどれも秀逸! 
ユーカリ同様、メラレウカも種類がたくさんあり、100種以上ともいわれています。
アロマオイルで有名なティートゥリーもそのひとつ。Melaleuca bracteataはブラックティートゥリーと呼ばれています。

18世紀頃、オーストラリアに上陸した海洋研究家のキャプテン・クックは、この葉をお茶の代わりに飲んだとか。「ティーツリー」というネーミングはそこからきたとも。

薬効の高いアロマオイルは、オーストラリアの家庭の救急箱には常備されているそうです。殺菌効果が高いことから、石けん・ボディケア用品・デンタルケア用品などにも配合されていることも多いです。皮膚を消毒する作用が期待できるため、ニキビケア向けの化粧品に使われることも。

先住民アボリジニの間では、古くからその強い殺菌力や抗菌、抗ウイルス、抗真菌、抗炎症などの作用から万能薬として愛用されてきた歴史があるあります。防腐作用も認められます。

日本でも近年、数種類が庭木として人気がでています。

友人の庭師が葉山で剪定したというメラレウカ(ブラックティートゥリー)枝葉を分けてくれました。
煮出すと、コウヤマキに似た、さらに華やかでフルーティーな芳香が強く漂います。すばらしく気分がよくなる❤️

その華やかさに似合わず、というか、薬効の高さを反映してというか、煮出した液は赤黒い濃いものとなり、アクの泡がぶくぶくと浮かびました。
さすが、フトモモ科パワー!
あ、ちなみにフトモモは「太腿」ではなく「蒲桃」。中国名「蒲桃(プータオ)」が沖縄方言で「フートー」となり、 それが「フトモモ」になったといわれています。

アルミで桑染色(くわぞめいろ)、銅で鶯茶(うぐいすちゃ)。そして鉄では輝く漆黒(しっこく)


花言葉は「清潔」「強い味方」。 


◎参考サイト 

http://www.yonemura.co.jp/
https://pfaf.org/
https://www.yu-kikobo.com/
https://meetsmore.com/

 

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2024/10/17

ハナニラ・ベツレヘムの星は蒸栗色(むしぐりいろ)

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【学名】  Ipheion uniflorum
【英名】  spring star
【別名】  ベツレヘムの星(=オオアマナ) 、西洋甘菜(セイヨウアマナ)
【 科 】   ヒガンバナ科  (旧ユリ科)

 

アルゼンチン原産。
明治時代中期に観賞用とし栽培されるようになり、それが野生化して広まりました。

茎を切るとニラのような香りがしますが、ニラとは全くの別物。
北海道をのぞく日本各地に自生するよく似た在来種にアマナがあり、別名はここから。

アマナの球根は食用とされていたこともあるそうですが、ハナニラには毒性があり、口にすると、激しい下痢を起こすこともあるので注意が必要ですね。とくに球根には気をつけたほうがいいようです。

食用のハナニラはニラ科のニラの花で、こちらのハナニラとは関係ありません。ややこしいですねー。

やはり明治時代に渡来したヨーロッパ・アジア南西部原産のオオアマナ(キジカクシ科)は、同じく毒草。
って、また違うの出てきた・・・。

オオアマナとハナニラの別名「ベツレヘムの星」は、その星型の美しい花に対する最大の賛辞と言えるでしょう。
=========
ベツレヘムの星
=========
またはクリスマスの星。東方の三博士にイエス・キリストの誕生を知らせ、ベツレヘムに導いた、キリスト教徒にとって宗教的な星。マタイによる福音書によれば、博士たちは星の出現に霊感を受けて「東方」からエルサレムまで旅をした。

ハナニラの花びらは6枚ですが、ベツレヘムの星は八芒星(オクタグラム)で表現されることが多いそうです。
それでも、キリスト教の世界でもとても重要な星をこの花に例えたとわかり、ちょっと見方がかわりました。

Hananira04

そんなありがたい花ではあるものの、ものすごい繁殖力で生えて欲しくないところにまだ広がってしまったので、採取して煮出してみました。
うーん、ニラ臭がすごい・・・。かなり量がありましたが液は意外とあっさり味。うっすら黄色くなるにとどまりまして、アルミで蒸栗色(むしぐりいろ)、銅で枯草色(かれくさいろ)、鉄で柳茶色(やなぎちゃいろ)
どれもほんわか。
ベツレヘムの星はどこまでも優しかったです。

花言葉は、「悲しい別れ」「耐える愛」「恨み」「卑劣」「愛しい人」「星に願いを」。
2/22、2/23、3/26の誕生花


◎参考サイト/ 文献

https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/
https://pfaf.org/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ハナニラ
https://ja.wikipedia.org/wiki/オオアマナ
https://ja.wikipedia.org/wiki/アマナ
https://hanaprime.jp/language-flower/
https://garden-vision.net/
https://www.hana300.com/
https://mikawanoyasou.org/

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房

 

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2024/10/15

ヤブソテツ・陰キャの藍海松茶(あいみるちゃ)

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【学名】  Cyrtomium fortunei var. fortunei, Cyrtomium fortunei J.Sm.
【英名】  house holly-fern, Japanese holly fern
【別名】  オニシダ(=オニヤブソテツ)
【生薬名】 全縁貫衆(ゼンエンカンジュウ)
【 科 】   オシダ科 


中国原産の常緑シダ植物。
ヤマヤブソテツ、ミヤコヤブソテツ、オニヤブソテツなどを総称してこう呼ぶほか、「ヤブソテツ」という特定の種を指す場合もあるようです。

本州~沖縄,および韓国,中国,台湾,インドシナ半島に分布しますが,園芸を介して広まって今では世界各地で逸出しています。

学名の「Cyrtomium」はギリシャ語のcyrtomaに由来。「曲がる」の意味で、葉が弓なりに曲がることから。
和名はそのまま「ソテツに似たシダ植物」という意味。

根茎および葉柄の残基を生薬として扱うことがあるようです。解毒,殺虫作用があり流行性感冒,鉤虫症,回虫症などに用いるという記述が見当たりましたが、詳しくは不明。

ヨーロッパでは観葉植物としての人気が高いそうです。
イギリスのサイトに「根茎には鎮痛、駆​​虫、抗菌、抗凝固、抗ウイルス、浄化、解熱、止血作用がある。煎じ薬は鉤虫、条虫、回虫症、フィラリア症、急性感染性肝炎およびさまざまな出血性疾患の治療に使用される。また、インフルエンザや麻疹の予防としても使用される。」という記述も見つかります。

工房の古民家の玄関脇に、妙に「陰(いん)」な一角がありまして、笹がわっさりと生える陰に音もなく、静々と繁茂しているのがヤブソテツ。
春先にはワラビやゼンマイのようにくるくるした若葉がでで、ちょっとかわいいかなぁ・・・と思ったけど、よく見ると、もっさい毛が生えているし、なんか全然食べられる感じぢゃないし・・・やっぱあんまり、かわいくない。

じゃ、染めてみるか、と「陰」があまり広がるのもなんなので、剪定したときに煮出してみました。

予想通りの「陰」な色合い。
アルミで丁字染色(ちょうじぞめいろ)、銅で枯茶(からちゃ)、鉄で藍海松茶(あいみるちゃ)

染めていて、ウキウキする感じはありませんでしたが、織りに使う糸では、こんな色合いが重宝することが多いです。

陰キャには陰キャの居場所あり。

花言葉は、「勇気」「健常」(オニヤブソテツ)。


◎参考サイト/ 文献

https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/
https://pfaf.org/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヤブソテツ
https://matsue-hana.com/
https://terra-rium.com/

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房

 

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2024/10/05

ニシキソウ・隠れた情熱の黒紅色

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【学名】  Euphorbia humifusa var. pseudochamaesyce,
      Chamaesyce humifusa
【別名】  チチグサ、アカクサ
【英語名】   asthma-plant, pillpod sandman
【科】   トウダイグサ科

 

インドが原産地という説、熱帯アメリカ原産という説も。
薬草として広く認識されているので、人類の移動と共に各地に広がった可能性があるそうです。

日本では琉球列島から九州、四国、近畿地方南部などの温暖な低地に分布します。畑地,芝地,樹園地,荒地,路傍,草地,河川敷などでよくみられますね。

学名のEuphorbia(ユーフォルビア)は、ローマ時代のアフリカのモーリタニア王の侍医の名にちなんだもの。
この医師が、この植物の乳液を初めて薬に使ったといわれています。

和名は葉が緑で茎が赤いことから「二色草」となった、あるいはその赤や緑を「錦」と表したと二説あります。

英語名の asthma-plantは「喘息草」、pillpod sandmanは「薬にする眠り草」の意味で、どちらも薬草としての認識の高さをうかがわせるものです。

イギリスのサイトに「煎じ汁が赤痢、黄疸、切り傷、蛇の咬み傷に有効」という記述が見当たり、別の文献には種子には止血作用があるという記述もみつかります。

が、素人は毒草という認識でいた方がよいでしょう。
実際、茎を切ると、トウダイグサ科特有の白い乳液が滲み出ますが、触れるとかぶれることがあるので注意が必要。とくに犬、猫には重篤な症状を引き起こすことがあるので、食べないように気をつけて。

この毒性が薬に転じるということなのでしょうね。学名がそれを表していると思います。

外来種のコニシキソウには、葉に毛が生えていても中央に斑点がありますが、ニシキソウにはどちらもありません。近年はアレロパシー作用の強いコニシキソウに押されて、絶滅の危機にあるそうです。がんばれ、ニシキ、コニシキに負けるな!

工房の庭に今年から突然お目見えし、草刈りかたがた煮出してみました。
アルミで芥子色(からしいろ)、銅で桑染色(くわぞめいろ)から梅幸茶(ばいこうちゃ)。そして鉄ででた黒紅色(くろべにいろ)が特筆すべき美色。


花言葉は、「執着」「密かな情熱」「数は力」「変わらぬ愛」「控えめ」「地味」。
控えめにしていて密かに「数は力」と思っているところに、この草のしたたかさが見えるようです(笑)。

秋の季語。
オオニシキソウが8/14の誕生花。

    
◎参考サイト/ 文献

https://www1.ous.ac.jp/
https://www.hana300.com/
https://kurashinista.jp/
https://matsue-hana.com/

・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 2」 北隆館

 

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2024/10/03

スズメノカタビラ・死装束の檜皮色

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【学名】  Poa annua
【英名】  Annual bluegras, Annual Meadow Grass, Six Week Grass
【別名】  イチゴツナギ、ハナビグサ、 ニラミグサ
【科】     イネ科 


世界各地に自生する一年草。
学名の「Poa」はイチゴツナギ属を表し、これは古代ギリシャ語の「牧草」を意味します。

おもしろいのは和名の由来です。
和名の「カタビラ」は「帷子」と綴り、

1.裏地をつけない衣服の総称
2.麻布で仕立てられた、夏に着る着物のこと
3.経帷子(キョウカタビラ=葬式に着用する白い着物。白装束)

などの意味があります。

「スズメの」は、植物名においては「小さな」の意味で使われることが多く、この場合は「花穂の風情が着物を着た人形のようである」と見立てたようですね。

はて、ただの単(ひとえ)の着物・・・かしらん。

よく見ると、その着物の襟合わせに見立てた部分が、死装束と同じ左前にみえるではありませんか。

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となれば、カタビラの意味は、3の「経帷子」ということになりましょうか。

死装束で花火のように乱れ咲く・・・腹くくって生きてますなぁ。

図鑑などには3月ごろに花が咲く、とありますが、昨今の鎌倉では夏に開花しているものを多く見かけます。

学名の「牧草」よろしく、オヒシバ、カモジグサ、ネコジャラシなどとともに夏の野原を埋め尽くし、畑や芝生では厄介者扱いです。
散歩中の犬が好んで食べてしまう草でもあります。(毒性はない)

8月の初めの暑い盛りに、近所に見事な群生を見つけて、煮出してみました。
イネ科の植物は総じて黄色をベースにした色合いに染まることが多いのですが、こちらは珍しく赤みの色合いに染まりました。
アルミで伽羅色(きゃらいろ)、銅で芝翫茶(しかんちゃ)から檜皮色(ひわだいろ)、鉄で茶鼠(ちゃねずみ)から黒橡(くろつるばみ)
なんとなく、どれも雀の羽を連想させる色合いです。

花言葉は「私を踏まないで」。

晩春の季語「雀隠れ」は、スズメが野原の草に隠れる様子を表していますが、その代表的な草がこのスズメノカタビラです。

ちなみに七十二侯の第十候は「雀始巣 (すずめはじめてすくう)」 3/20~3/24頃。
最近めっきり数を減らしている雀。春のお彼岸の頃、あちらでもこちらでもスズメの巣作りが見られる・・・そんな風景を守ってゆきたいですね。


◎参考サイト/ 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/スズメノカタビラ
https://matsue-hana.com/
https://pfaf.org/
https://www.hana300.com/
https://www.awaji.ac.jp/
https://www.city.kani.lg.jp/

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 2」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房

 

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2024/10/02

アメリカフロウ・寂しがり屋の必殺色

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【学名】  Geranium carolinianum
【英名】  Carolina cranesbill
【別名】  鷺嘴草(さぎくちそう)
【 科 】   フロウソウ科 

 

北アメリカ原産の帰化植物。日本国内では、1932年に京都で発見されたとされますが、昭和初期に渡来したという記述も。
現在は全国的に広がり、北海道をのぞく全国の道ばたなどでよく見かけます。
在来種のゲンノショウコの仲間です。

学名のcarolinianumは北米カロライナ地方の意味で、北米に古くからあることを表しています。

Geranium(ゲラニウム)は、ギリシャ語の「geranos(鶴)」が語源。実の形を鶴のくちばしに見立てたもの。
別名の鷺嘴草(さぎくちそう)も実の形から。
たしかに、このすっと伸びた身の風情がツルやサギを連想させますね。

(写真出典)
  
この長いくちばし型の実が、縦に勢いよく裂けることで種を飛ばすのだそうです。なかなかユニーク!その瞬間をぜひ見てみたいものです!

全草、特に根はタンニンが豊富で、消毒、非常に収斂性、強壮剤として用いられてきました。そのほか下痢(特に小児および高齢者)、赤痢、コレラ、胃腸炎、内出血、過度の月経などの治療にも。

沖縄では古くから民間療法に用いられており、全草を乾燥させたものをお茶として服用すると、かぜ, リウマチ, 慢性腸炎, 下痢, 月経不順, 経行発熱,腹脹腰痛、不妊症に効果があるとされているそうです。

柔らかい葉は、天ぷらやおひたしで食べることができます。

また、野菜の病気である青枯病に対して、有効な抗菌作用が確認されたという研究結果もあります。

欧米では全草をアルコール抽出したチンキが抗炎症剤として用いられ、とくに肝炎に有効であるという認識があるようです。


花言葉は、「誰か私に気づいて」。

帰化植物は、在来種に比べて押しの強いケレン味たっぷりのものが多い印象ですが、おそらくはゲンノショウコと間違われて認識され、気づいてもらえないんですねぇ・・・薬効も高いのに。ちょっと切ないです。

しかーし、色は冴え冴えとした押し出しの良いものばかり!
アルミで芥子色(からしいろ)、銅で鶯色(うぐいすいろ)、鉄で檳榔子染(びんろうじぞめ)

どれも堅牢で美しい!  アメリカフロウ、君のことは覚えたからね!

◎参考サイト

http://www.hana300.com/
https://www.wakuwaku-land.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/アメリカフロウ
https://www.naro.go.jp/
https://en.wikipedia.org/wiki/Geranium_carolinianum
https://jtml.jp/
https://jppa.or.jp/
https://greensnap.jp/

 (C) Tanaka Makiko たなか牧子造形工房  禁転載

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