鎌倉染色彩時記(染)

2023/09/24

アレチヌスビトハギ・怪盗ルパンの鴇浅葱

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【学名】  Desmodium paniculatum
【英名】  Panicled Tick-Trefoil
【科】     マメ科 

北アメリカ原産の、比較的新しい帰化植物。
とくに関東以西に多く見られます。
多年生ですが、地域によっては冬に枯死するため、1年草とされる場合もあるようです。

(日本古来種の「ヌスビトハギ」の仲間は、近年研究が進み、従来の「ヌスビトハギ属」とは別属とされ、Hylodesmum H.Ohashi & R.R.Mill が属として新設され、新しい「ヌスビトハギ属」とされています。)

和名アレチヌスビトハギは、「荒れ地盗人萩」の意。
1940年に本種を大阪府で採集した、岡山県の植物研究家の吉野善介によって命名されました。

やっと涼しくなってきたので、久しぶりに近所を「植物調べ散歩」してみましたところ、二階堂川の縁に、わっさりと茂ったアレチヌスビトハギの一軍を発見しました。
秋に細かな葉っぱを茂らせ、その先に薄紫の小花を咲かせる様は、たしかに「萩」の風情に重なります。
古来種のヌスビトハギに比べると、華やかな印象。同じ「盗人」でもあちらは「鼠小僧」の感じですが、こちらは「怪盗ルパン」といったところでしょうか。

マメ科独特のサヤのある実をつけますが、そのサヤが特徴的なやまぎり型になっています。
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そのサヤに、先の曲がったカギ型の微毛が生えていて、これが体につくと容易にとれない原因。いろーんな来訪者にくっついて、広範囲にタネを運んでもらう・・・だけでなく、この神出鬼没で華麗な大泥棒にはアレロパシー作用もあって、ものすごい勢いで勢力を拡大していきます。アメリカの押しの強さに、負けるな日本の鼠小僧!!

ヌスビトハギの豆は食用になるらしいですが、(といっても小さいので集めるのがやっかいだし、滅多なことでは食べないようですが)、アレチ_の方はそれに関する記述が見当たりません。もう少しサヤが太ってきたら、試食してみますか。

アレロパシーだの、カギ状の毛のあるタネだの、そういう癖のある輩は、染料として優秀な場合が多い。
期待を裏切らず、煮出すと少量でも濃い染液となりました。
アルミ媒染で飴色、銅で濃い目の芝翫茶(しかんちゃ)、鉄でゲキ渋の魅力炸裂の千歳茶(せんさいちゃ)

そして、そして!
あまった染液をしばらく置いておいたら、なんと真っ赤になっていました!
「おお!」あわてて錫(すず)媒染で試染してみたところ、美しい鴇浅葱(ときあさぎ)が染まりました。

怪盗ルパン、やってくれます。

花言葉は、「略奪愛」「内気」「思案」。


◎参考サイト

http://ja.wikipedia.org/wiki/アレチヌスビトハギ
https://matsue-hana.com/
https://hananoiwaya.jp/
https://aska-net.
https://www.shigei.or.jp/
https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/81520.html

 

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2023/08/21

ウメノキゴケ・権力者の赤紫

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【学名】  Parmotrema tinctorum(Despr. ex Nyl.)Hale
【英名】    Apricot Moss
【科】   地衣類・ウメノキゴケ科

東北地方以南、沖縄までの低地、太平洋沿岸の温帯から亜熱帯の比較的明るい場所の樹幹や枝、石垣などによくみられる地衣類です。

全体で直径20cmにもなる大形の葉状地衣。表面は乾いた状態では灰白色ですが、湿った状態では緑色が増します。青緑のきくらげ、みたいです。周辺部は波状をなし、かたまりの真ん中に細かい粒状の針のようなもの(裂芽)を密生することが特徴です。

「地衣類は菌類の仲間で、藻類と共生して地衣体という特別な構造を作っています。地衣体を構成する菌類は、藻類が作る光合成産物を栄養として利用するとともに、藻類を乾燥や紫外線から守っている。」という説明をみつけましたが、なんか、地衣類って、ダークで怪しいですよね。そう、ダークであやしいヤツは、時にすごーい仕事をやってのけてくれるのです。

一般には、ウメ、マツ、サクラ、カキなどの古木につくことが多いのですが、高山の岩場やコンクリート上など厳しい環境の中でも生きていくことができるというツワモノです。
排気ガスには弱いので都市中心部には少なく、大気汚染の指標とされています。
つまり、ウメノキゴケがたくさん見られるところは空気がきれい、ということですね。

国宝「紅白梅図屏風」(尾形光琳)はじめ、日本画の中の松の古木の幹には,白っぽいあるいは緑っぽい丸いコケが描かれているものが少なくありません。絵画の中でこのように地衣類が描かれることは世界的には珍しく,日本独特のもの、といってよいそうですよ。
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建築の彫刻でも,例えば日光東照宮の三猿の周りにウメノキゴケが文様化されたとみられるものが描かれています。
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同じウメノキゴケ科のエイランタイ(依蘭台)の花言葉は「健康」 「母性愛」。
うーん、ちょっとイメージわかないですけど、地衣類が豊かに繁茂する土地は、もののけ姫の森のような滋味豊かな心象はありますね。
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西欧各地の地衣類をつかった染色の歴史は遠く、古代にはじまると伝えられています。
古代フェニキア人は,最も高貴な身分を象徴する紫色の王衣や聖職者の衣服を染めるために貝紫を用いたことは有名ですが,その貝染めには膨大な量の巻貝を必要としたので,下染めとして地衣による紫が利用されたそうです。 やがて12世紀以降,貝染の染色技術が消滅した後は,地衣による紫色だけが高貴な位の象徴として用いられたといわれています。

梅の古木などからウメノキゴケを採取し、ゴミを丁寧に取り除いた乾燥させたものをアンモニアで発酵させて、鮮紅色から紫色を染めます。
こんな地味な「日陰者」から、このような世にも鮮やかな色が得られることには、ただただ驚くばかりです。
最初に発見した人に、どうやって思いついたのか、訊いてみたかったです。

得がたい色は、すなわち時の権力者の色。そんな歴史にも思いが及びます。
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◎参考サイト / 文献
http://ja.wikipedia.org/wiki/ウメノキゴケ
https://www.chiba-muse.or.jp/

https://biodiversity.pref.fukuoka.lg.jp/
https://hanakotoba-note.com/
https://lichenjapan.jp/?page_id=631

・「ウールの植物染色」 寺村 祐子/著 文化出版局


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2023/08/18

コマツヨイグサ・風呂上がりの黒緑

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【学名】  Oenothera laciniata
【英名】    Cutleaf Eveningprimrose
【別名】  キレハマツヨイグサ(切れ葉待宵草)
【科】   アカバナ科


北米原産。日本では本州〜琉球に分布します。乾いた砂地に好んでよく生えます。

茎は斜上するか地面に伏し、1本立ちするか枝を分け、開出毛があり、高さ50cmほどになります。
葉っぱには切れ込みあり。花期は4〜11月。

アレチマツヨイグサアカバナユウゲショウなどの仲間で、夏の夕方から開花します。
花言葉は「物言わぬ恋」 「ほのかな恋」 「浴後の美人」 「入浴後の乙女」 「魔法」 「移ろいやすさ」と、共通するのは、ほんのりした色気、というところでしょうか。

たしかに、開花した花は、はじめは黄色。花がしぼむほどに赤みを増し、最後は朱色に、と変化するところが魅力的。その様は、花言葉にもある通り、「浴後の美人」を連想させます。

若苗は、柔らかく茹でて、おひたし、和えもの、炒めものにすると美味しいです。花や蕾は、酢を入れた熱湯で茹でて、酢のものに。そのほか、天ぷらなど。薬効としては健胃、整腸、下痢止め。

煮出してみると、すっきりした黄色い染液になり、アルミ媒染で女郎花(おみなえし)色、銅で青丹(あおに)色、そして鉄媒染では夏の夜空を思わせる冴えた黒緑

11/21の誕生花。


◎参考サイト / 文献

https://matsue-hana.com/hana/komatuyoigusa.html
https://botanica-media.jp/
https://www.hana300.com
https://hananoiwaya.jp/
https://www.language-of-flowers.com/
https://naturalism-2003.com/

 

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2023/08/15

カニクサ・蟹もびっくりの草色


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【学 名】  Lygodium japonicum (Thumb.) Sw.
【別 名】  シャミセンヅル,ツルシノブ,ナガバカニクサ
【生薬名】    カイキンシャ(海金砂)=胞子 キンシャトウ(金砂藤)=ツル、葉
【科】    カニクサ科  (フサシダ科)


東アジア原産。
特に、日本、中国、朝鮮半島、台湾などの地域で自生するシダ植物で、学名にjaponicumとあることからも、日本に古くからあったことがわかります。和漢三才図会にも名前が見られるので、江戸時代にはすでに意図的に栽培されていたこともうかがえます。

学名「Lygodium japonicum」は、ギリシャ語の「lygodes(柔らかい)」と「japonicum(日本の)」が組み合わさったもので、「日本原産の柔らかい葉を持つ植物」という意味。和名の「カニクサ」は、葉の形状がカニの足に似ている、このツルで子どもがカニを釣って遊んだ、など諸説。

その後、19世紀にアメリカやヨーロッパにも伝わりまして、現在では、世界各地の温帯や熱帯地域で自生 / 栽培されていますが、一部地域では
外的侵入外来種として問題視されているようです。クズと一緒ですね。

カニクサはシダ植物としては珍しいツル性ですが、ツルのように見える部分は実際は「長く伸びた一枚の葉」だそうです。

夏になると、工房や自宅の庭にも、モゾリモゾリとあらわれて、他の雑草を巻き込みながらちょっとしたナワバリを築きます。
このツルがなかなか手強くて、素手では切れないことも。その強さから、絶対に外来種だと思い込んでいたのですが、おお、日本産。外的侵入外来種? かまわん、ゆけーい! 世界で戦ってこい!

それぐらい強いツルだから、カニを釣り上げる時もカニのハサミに負けないのか?・・・などと妄想が広がりますね。

胞子は漢方では海金砂(かいきんしゃ)といい、淋病、膀胱結石の治療に用います。また全草を、消炎解毒、肺炎、急性胃腸炎、黄疸などに用いる、の記述も。

若葉は食用にもできるそうです。

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夏に茂るカニクサのツルをくるくると巻いてリースにするとよい、と教室の生徒さんに教えていただきました。乾燥しても色を保ち、長く楽しめます。

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煮出してみたところ、アルカリ抽出ではなかったにも関わらず、染液がきれいなみどり色になったのにはびっくり。それをそのまま糸に移し、アルミ媒染若菜色で、銅で少し渋くなりうぐいす色、そして鉄媒染の草色が特筆すべき美色。


花言葉は「誠実」「魅力」「魔法」。11/21の誕生花。

◎参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/カニクサ
https://terra-rium.com/ja/wiki/lygodium_japonicum
https://hananoiwaya.jp/
https://www.medicalherb.or.jp/

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 3」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「和漢三才図絵」第98巻 寺島良安 / 著

  協力 : 林 由美子

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2023/07/09

ハキダメギク・鶴の輝きの黒緑

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【学名】  
・Galinsoga quadriradiata
・Galinsoga parviflora Cav.
・Galinsoga ciliata

【英名】
・Shaggy Soldier
・Hairy Galinsoga
・Peruvian Daisy

【科】   キク科


熱帯アメリカ原産の1年草の帰化植物。
6~11月の間、小さい白い頭花を長く咲かせつづけます。

明治時代初期に渡来したと言われ、現在では関東地方以西の日本中の住宅地や道端、野原や山などに広く自生しています。
草丈は10cm〜50cmほどで横に這うように成長し、繁殖力が強いゆえ「道端外来浸食種」とも呼ばれ、厄介な雑草扱いされることも。

強い帰化植物は、嫌われる運命なのですね。目立ちすぎる転校生がいじめにあうのと一緒です・・・。
あ、私は嫌っていませんよ、嫌ってません、嫌ってませんって。たとえ帰化植物が固定種を駆逐しようと、植物に罪はない、罪はないよ・・・うっ。

学名の「ciliata」は、ゾウリムシ,ラッパムシ,ツリガネムシ など「繊毛虫類」の意味ももちます。
この場合は「縁毛のある」という意味。茎や葉に毛が生えていることを表しています。
これが英語名の「 Shaggy Soldier(毛深い兵士)」につながっているのですね。にしても、毛深い兵士って・・・。

和名は、大正時代に植物学者の牧野富太郎氏が、世田谷の経堂(きょうどう)の掃きだめでこの花を見つけ、「掃きだめ菊」と名づけたのだそうです。
「掃き溜め」は、江戸時代からある、町内に設けられたゴミを吐き溜めて置くところをさします。そう、「掃き溜めに鶴」はここから来ています。「その場所にふさわしくない、優れたものが現れる」の意味ですね。
牧野先生、もうちょっと可愛い名前つけてあげればよかったのに、と一瞬思ったのですが、「掃き溜めに鶴」を思えば、愛のあるネーミングと言えるでしょうか。

実際、チッ素分の多いごみ捨て場や、空き地、道ばたなどによく生えるため、それを観察した牧野先生、さすがです。

葉は、きれいに洗ってさっと茹でれば食用としても利用できます。
沸騰したお湯で2分〜3分ほど茹でて、鮮やかな緑色になったら醤油やかつおぶしをかけると美味とか。

工房の近くに群生を見つけたので、煮出してみました。湯気にはキク科特有の辛口の芳香が漂います。
色もキク科特有の冴えた色合い。
アルミで鶸色(ひわいろ)、銅で鶯色(うぐいすいろ)、鉄の黒緑が特に美色。どれも強い! 

花言葉は「不屈の精神」「豊富」「努力」。
11/21の誕生花。


◎参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/ハキダメギク
https://botanica-media.jp/
https://www.hana300.com
https://hananoiwaya.jp/

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 3」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房

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2023/07/02

ムラサキダイコンソウ・優しいちょいワルは若菜色

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【学名】  Orychophragmus violaceus
【英名】    Chinese Violet Cress
【別名】  ショカツサイ(諸葛菜)、オオアラセイトウ(大紫羅欄花)、ムラサキハナナ(紫花菜)、シキンソウ(紫金草)

【科】   アブラナ科

中国原産。
大変勢力の強い帰化植物、という認識が広がっていますが、 江戸時代にはすでに、油をとるために輸入されていたらしいです。
でも、和漢三才図会にはアラセイトウ(紫羅欄花)の記述は見つかりますが、オオアラセイトウはないですね。

今のように日本全国に広がりを見せたのは、昭和初期から戦後にかけて星薬学専門学校(星薬科大学の前身)の初代校長 山口誠太郎が、紫金草(シキンソウ)と称して種子を広める活動をしたことによります。食糧難の当時の様子がうかがえます。

別名のショカツサイ(諸葛菜)は、諸葛孔明が、戦さ場で陣を張ったときに、真っ先にこの花の種を播いて、兵士の食糧となるよう栽培したことから。
ムラサキハナナは、「紫色の菜の花」の意味。

これらの別名から、食用として古くから用いられていたことがわかります。

アブラナ科らしい十字形の紫の花を春から初夏にかけて咲くので、その花の時期に若芽、花などを採取。菜の花と同様のレシピで置き換えができます。和え物、炒め物、生でサラダにも。

鎌倉でも、春になると、崖一面が紫色になっているのをよく見かけます。繁殖力が強く、他の固定種を駆逐する勢いが懸念されるので、なんとなく、心の中では「ワルモノ」扱いにしていましたが・・・江戸時代に来てたなら、ま、いっか。(なんという身勝手な偏見じゃ!)
見つけたらせいぜい食べることにいたしましょう。美味しいから。

ワルモノにしては(おい!)、どの媒染でも透明感のある優しい色合い。
アルミで女郎花(おみなえし)色、銅で若菜色、鉄で枯草(かれくさ)色

花言葉は「変わらぬ愛」「仁愛」「熱狂」「癒し」「優秀」「あふれる智恵」など。
2月15日、2月18日、3月14日、4月5日、12月12日の誕生花。


◎参考サイト /文献

http://www.e-yakusou.com/
http://ja.wikipedia.org/wiki/オオアラセイトウ
https://garden-vision.net/flower
https://www.hana300.com/
https://digitalcamera-travel.info/birth-flower/

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房

 

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2023/06/23

キランソウ・地獄の番人は根岸色

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【学名】  Ajuga decumbens
【英名】    Creeping Bugleweed
【別名】  ジゴクノカマノフタ(地獄の釜の蓋)、
      イシャイラズ(医者いらず)コウボウグサ(弘法草)
【生薬名】 筋骨草(きんこつそう)、白毛夏枯草(はくもうかごそう)
【科】   シソ科

本州、四国、九州、および朝鮮半島、中国に分布する多年草。

草全体がロゼット状に地表に這って円盤状の形になります。
ランナー(匍匐茎)のような花茎を出し地表を這います。
シソ科では珍しく、茎の断面が丸いのも特徴のひとつ。

3〜5月に小さなスミレに似た紫の花をつけます。

学名のAjugaはギリシャ語の「a(無)+jugos(くびき、束縛)」が語源。花弁の下唇の一方が隠れて見えないことを表しているらしいです。decumbensは「横臥した、伏した」の意味で、倒れたように見えても根が浮かない」の意味。

キランソウの名は、ランに似た紫色の花を意味する「紫蘭草(しらんそう)」が転訛した、茎を地面に伸ばして群生する様から、織物の「金襴」に見立てた、など諸説。

漢字では「金瘡小草」と綴りますが、これは中国名をそのまま当て字にしたもので、金瘡とは刀傷のことで、キランソウの葉を潰して傷に塗ると、切り傷や腫れ物に効用があることから。

別名のジゴクノカマノフタ(地獄の釜の蓋)は、根生葉が地面を這うように放射状に広がる様が、地獄の釜の蓋に見立てたもの。

また、さまざまな病気に対して薬草としての効能から医者がいらず、「これで地獄に落ちないで済む」という意味や、「病気を治して地獄の釜にふたをする」という意味が由来とも。これが「医者いらず」「医者ごろし」の異名も由来にも。
弘法大師が、この草が薬になることを教えたことから「弘法草」の名も。

開花期の頃、全草を採取し水洗いした後、日干しにしてよく乾燥させたものを生薬で「筋骨草」といいます。(この生薬の名前の由来、知りたいですねー。調べたけれどでできませんでした。筋骨隆々感は全くないんですが・笑)

煎じて服用すると鎮咳、去淡、解熱、健胃、下痢止めに効果。
また煎じ汁や生葉の絞り汁は虫刺され、切り傷、草かぶれ、うるしかぶれに用います。
和漢三才図会にも「葉を取ってかげ干しにし、黒焼きにして麻油といっしょに小児の草瘡に塗る。一、二度 塗れば治る」の記述が見当たります。

4月の中頃に、工房の門の近くのコンクリートのたたきの割れ目から葉を広げて、刺すようにきりりと輝く紫の花をつけているのを見つけました。まさに、地獄から這い出たみたい。

その薬効や名前から、ぐっと濃い色が出るかと思いきや、量が少なかったこともあってか、どの媒染でも癒し系の優しい色に。うーん、能ある鷹は爪隠す、というからなぁ。出し惜しみされたか?(笑)

アルミで木蘭色(もくらんじき)、銅で根岸色、鉄で油色。

仲春の季語。
花言葉は「「あなたを待っています」「追憶の日々」「健康をあなたに」。
5/24の誕生花。


◎参考サイト / 文献

http://www.e-yakusou.com/
http://ja.wikipedia.org/wiki/キランソウ
https://www.jugemusha.com/
https://www.hana300.com/
http://chills-lab.com/

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 3」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著 第92巻

 

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2023/06/19

ヤシ・ご苦労さんの芝翫茶(しかんちゃ)

Yashi02(写真提供: 田中とも子)

【学名】   Phoenix canariensis
【英名】   Phoenix Palm, Canary Date Palm
【別名】  フェニックス
      ※牧野図鑑ではフェニックスはカナリーヤシとは別種として紹介されている。

【科】   ヤシ科

カナリヤ諸島原産。日本では関東より南で生育します。

学名のPhoenixは、病害虫に強く長寿であることから。
(Phoenixにはギリシャ語で「ナツメヤシ」の意味もあります。)

南国情趣を演出する目的で、観光地などにワシントンヤシやシンノウヤシとともに植えられることが多いです。

今回調べてみて、日本で見られるヤシにはかなり種類があることがわかりました。

カナリーヤシと同じナツメヤシ属の「ナツメヤシ」は、一見したところカナリーヤシと区別がつきにくいそうです。
ナツメヤシの実(デーツ)は食用になり、和漢三才図会にも「子(実)は長さ二寸。棗(なつめ)のように大きい。六、七月に熟して黒色となる。味は飴のように甘い。ただし、子は三、五年に一度つく。脾、胃を補い、気を益し、人を肥健 にする」とあります。アラブや中央アジアなどでは貴重な栄養源として大切にされていますね。

逗子マリーナの路地に並ぶ背の高いヤシは「ワシントンヤシ」(別名オキナヤシモドキ)。
ご存知「ココヤシ(ココナッツ)」は実からココナッツコルク、ココナッツオイル(パーム油)がとれます。
フィリピン原産のサトウヤシは、皮に甘みのあるデンプンが多く含まれ、食用にできることが和漢三才図会にも紹介されています。
そのほか観葉植物としてアレカヤシなども最近人気が高いそうです。

逗子マリーナに冬行くと、寒空にそびえるワシントンヤシの様子が、北極をさまようライオン・・・みたいな、かわいそー感がただよいまくっているんですよね・・・。東京の人が抱く「湘南感」を演出すべく、その責務の重さに堪えるヤシの木たち・・・健気だ、あまりにも健気だ。
Yashi01 (写真出典)
逗子マリーナの路地に並ぶワシントンヤシ。右端はカナリーヤシ。

先ごろ、市内の生徒さんのお宅の近くで、お庭で巨大化してしまった3本のカナリーヤシが伐採されました。
その様子を見ていた生徒さんが、現場から樹皮をもらってきてくれました。(ありがとう!!)

みるからにシブが多そうな茶色い樹皮。
さぞやどろろーんとダークな色が染まってくれるに違いない・・・と思いきや、どの媒染でも、あっさり味。
やっぱり、冬はそこそこ寒い鎌倉では、ぐっと奥歯を噛み締めながら力を使い果たしながらやっとこさ生きているのですね・・・ご苦労さま。

アルミでやさしい芝翫茶(しかんちゃ)、銅で朽葉(くちば)色、鉄で海松(みる)色

ヤシ全般の花言葉は「あなたを見守る」「固い決意」「成功」「思いがけない贈り物」。
12/14の誕生花。ココヤシは7/20。
宮崎県の県木。


◎参考サイト / 文献

http://ja.wikipedia.org/wiki/カナリーヤシ
https://www.oceanside-garden.net/plants/カナリーヤシ-phoenix/
https://ja.wikipedia.org/wiki/サトウヤシ#デンプン
https://k-ohana.net

・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著 第92巻

 


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2023/06/16

アケビ・才色兼備の仙斎茶

Akebi03 Akebi02

【学名】  Akebia quinata Dence
【英名】  Chcolate vine Akebi
【別名】  アケビカズラ
【生薬名】 木通(もくつう)、 木通子(もくつうし)
【科】   アケビ科

本州、四国、九州、および朝鮮半島、中国に分布。

学名にAkebiとあるように、日本古来の植物と言ってよいでしょう。
quinataは「五つの」「五小葉」の意味で、葉が五枚でひつとであるため。
ちなみに、葉がギザギザとした歯が三枚のミツバアケビ(Akebia trifoliata)という種も日本には多く分布しています。

和名の由来は実が縦に避ける様子から「開実(あけみ)」が転じた、「秋ムベ」(冬に熟すよく似たムベより実の熟期が早い」)が転じたなど諸説。

木質化したツルは、古くから籠編みなどに用いられています。
長野県野沢温泉地方の郷土玩具「鳩車」は、アケビのツルを細工したもので、全国郷土玩具番付で「東の横綱」に推挙されていのだとか!
(ちなみに西の横綱は「伏見の飾馬」だそうです。)

また木質化したツルを秋・冬に採取し、干したものを生薬で「木通」といいます。
配糖体やカリウムが多く、煎じて服用すると、腎臓炎、尿道炎、膀胱炎、妊娠によるむくみに効果があるといわれています。

和漢三才図会にも「肺を清くして頭痛を治す。湿熱を排泄し、小便の出をよくし大腸を通す」などの記述が見当たります。

3〜5月の若い芽は、茹でてアク抜きをしておひたしや各種和え物で。
ミツバアケビのもののほうが苦味が少ない、と山形出身の友人はいいますが、どちらも食用にはなるようです。

工房の裏庭に据えた物置の屋根に、いつの頃からかアケビが居座るようになりまして。今時分は、油断していると物置の扉が開かなくなるほど茂るので、折々カットして染めものにつかっています。

アルミで黄色みの灰色、銅で鶯茶。鉄の仙斎茶色(緑みの濃いグレー、黒が特筆すべき美色。

俳諧では「通草(あけび)」で秋の季語。

花言葉は「才能」そして「唯一の恋」。これは雄花と雌花がそれぞれ色も大きさも異なって別々に咲くことからだそうです。
10/23, 11/1, 11/13の誕生花。



◎参考サイト / 文献

http://www.e-yakusou.com/
http://ja.wikipedia.org/wiki/アケビ
https://hanakotoba.net
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「薬草図鑑」伊沢凡人・会田民雄/著 家の光協会
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「シーボルト日本植物誌 <<本文覚書篇>>」 
  大場秀章 / 監修・解説 瀬倉正克 / 訳 八坂書房
・「和漢三才図絵」寺島良安 / 著 第96巻





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2023/03/07

ユズリハ・受け継がれる檜皮色

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【学名】  Daphniphyllum macropodum
【別名】  ユズルハ(弓弦葉)、 ツルシバ、正月の木、親子草
【科】     ユズリハ科(旧 トウダイグサ科) 

原産地は、日本、中国、韓国。
学名のDaphniphyllum(ダフニフィーラム)は、ギリシャ語の 「daphne(月桂樹の古名) + phyllon(葉)」が語源。葉の形が月桂樹に
似ていることから。
和名は、葉の新旧の入れ替わりが著しいこと(5月ころ新しい葉が伸び始めて、8~9月ころに生長した新葉に代わって、古い葉が落ちる)に由来し、「親が子を育てて家が代々続いていく」ことを連想させる縁起木とされ、正月の鏡餅飾りなどに用いられるようになりました。

Unknown (写真出典)

和漢三才図会にも「新葉が生えてから旧葉が落ちる。これが父子相譲るように見えるので、一般に譲葉と呼ぶ。都市でも地方でも正月の鏡餅や門戸の飾りに用いる。またこれも相続の意味を取ってのことである」とあります。
少ないですが、家紋にもみられます。
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地方によっては、穀物に宿る精霊の再生のシンボルとして、収穫祭に神座に飾ったり、はしかにかかった時にユズリハに病気を託すまじないを行うところもあったそうです。

古名のユズルハ(弓弦葉)といわれ、葉の中にある主脈がはっきりと目立ち、弓の弦のように見えることに由来します。

樹皮や葉には、アルカロイドのダフニマリン、ダフイロイド、配糖体アスペルロシド、樹皮にはタンニン類を含有するため、呼吸困難、麻痺などの中毒症状を引き起こすことがあるので、素人は有毒植物と認識した方がよいでしょう。
が、用い方によっては薬として有効で、しらくもなどの寄生性皮膚病に、樹皮は1回量約10g、葉は1回量約15gを煎じて患部を洗浄すると効果があると言われています。家畜の駆虫剤として用いることも。

ふふふ。「有毒」と聞くと、染織家は萌えてしまうのだ。有毒、つまり、薬効の強い植物は、染料としても優秀な場合が多いからです。
工房の南庭の隅っこに、いつの間にか生えてきたユズリハ。みるみる大きくなって、梅の木に影を落とすようになったので、剪定しました。

期待を裏切らず、染液はあまり濃い色にはならなかったものの、反してどの媒染でも堅牢な色を染め上げました。
アルミで支子(くちなし)色、鉄で素鼠(すねずみ)いろ。特筆すべきは銅媒染檜皮(ひわだ)色。染液を一晩寝かせてから染めれば赤みはさらに増したものと思われます。


花言葉は「若返り」「世代交代」「譲渡」。1/6の誕生樹。新年の季語。


◎参考サイト / 文献

http://www.hana300.com/
http://www.e-yakusou.com/
http://ja.wikipedia.org/wiki/ユズリハ
http://hukumusume.com/366/hana/index.html

・「よくわかる樹木大図鑑」平野隆久/著 永岡書店
・「原色牧野日本植物図鑑 コンパクト版 1」 北隆館
・「花と樹の事典」木村陽二郎 / 監修 柏書房
・「和漢三才図絵」   第84巻 寺島良安 / 著

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