ご存知のように、シルク糸は蚕蛾が作る繭からつくられます。
大きく分けてシルクには2種類あります。
家畜として人の手で飼育される家蚕(かさん)と、自然の中で育つ野蚕(やさん)です。家蚕糸のとれる蚕はカイコガ科の蛾で、野蚕は主にヤママユガ科の蛾です。これがびっくりするほど種類があるのです。
家蚕は繊維の断面が○に近く、伸縮性があまりなく、細いものが多いです。それに比べ野蚕は繊維の断面が楕円で、伸縮性があり、比較的太く、染まりにくいといった特徴があります。
家蚕の繭から糸をとるときは、成虫が繭を食い破って繊維が切れてしまわないよう、さなぎの段階で煮殺し、長い一本繊維を合わせて撚る方法で糸を作ります。
ですが野蚕は、成虫を殺さず、穴の空いてしまった繭をほぐして、それを紡ぐという方法で糸にします。質からいくと野蚕の方がランクが下がるわけです。
では、家蚕糸のほうがいいかというと、私はダンゼン野蚕派なのだ。
中でもお気に入りは「エリ蚕」という種類で、長年の恋人です。
繊維に無数の穴があいていて吸湿性がよく、精錬済みのものは肌触りが夢ごこち。でも腰があってバルキー。生成りはやや黄味がかっていて(薄緑のもあるらしい)、素直に染まってくれないところなんかが、たまぁんない。
昔はベトナムから、このエリ蚕糸がよく入ってきていたのですが、年々手に入らなくなり、とうとう最近は、好みの太い糸などはほとんど見なくなり、工房にも生成りは1カセもない状態に。頼りにしていた唯一の取り扱い問屋も、ついに「在庫がなくなった」と一昨日連絡が入りました。肌がしっくり合っていた連れ合いに、いきなり別れを切り出されたような気分は、たぶんこんなだな・・・。
ところが昨日の朝、男性の声で「そちらに伺いたいのですが」と電話がありまして、貸しスペースの見学かと思ったら、「実は私、ベトナムでエリ蚕糸のプロジェクトをやっている者でして・・・。」と言うではありませんか。しかも、カジュからほど近い浄明寺にお住まいの方!「どうぞ、すぐいらしてくださいっ!」と電話を切ったのはいうまでもありません。
フェアトレードの観点からベトナムで、エリ蚕糸の生産体制を15年に渡って作り上げ、飼育、製糸、安全な植物染色を指揮している方でした。
たくさんのサンプルの中に、あるではないの、太番手のエリ蚕糸!! Oh, my lover came back to me!
冒頭の写真は、見本にくださったエリ蚕の繭(左)と、その繊維をほぐしてきれいに梳いたもの(右の右)とその行程で出たくず絹(右の左)です。どちらもとても紡ぎやすく手に馴染みます。さっそく、太番手の糸、機械撚りの極細糸、くず絹のノイルを注文いたしました。
嗚呼、シアワセ。
余談ですが、蚕が桑しか食べないというのはウソです。
確かに、家蚕は桑でやんごとなく育ちますが、エリ蚕はヒマ(ヒマシ油をとる植物)などを食べますし、同じ野蚕のタッサー(タッサール)蚕は、なんと菩提樹の葉っぱを食べます。インドのアッサム地方にいるムガ蚕(これも好きなのよん!)はホウノキで育ちます。
さらに、この記事を書く過程でわかったことですが、蚕でない蛾にもシルクを作るのがいるらしいです。
アットホーム(株)大学教授対談シリーズ『こだわりアカデミー』の記述によりますと、アフリカにいるギョウレツケムシ科(!!)のアナフェという蛾は、100匹ほどの集団で生活していて、100匹で一つの大きな繭を作るのだそうです。(引用サイト内の写真をチェック!)
「ダイヤモンドは女の一番の友」とマリリン・モンローは歌いましたが、私は絶対シルクが一番の友、いや永遠の恋人だと思います。
※この記述にあたりましては、リンクのほか、以下のサイトから引用、または参照にいたしました。
・http://www.brandnewsilk.com/category/9/index.htm
・http://www.jpmoth.org